66 / 100
番外編
酔っ払いと甘い言葉と可愛い人5
しおりを挟む
鎮痛剤と水を渡してきて、ゆっくりと慎重に隆則の身体を起こす。
遥人の逞しい胸にもたれながら、手の中の錠剤を口に入れぬるめの水を飲み込んだ。酷く渇いた喉に、僅かな潤いが優しく流れ込んでいく。少量では足りず、コップの中の水分を全て飲み干して、コップを遥人に渡した。
「こんな隆則さん初めて見ました。会社員時代もこんなの味方したんですか?」
「ない……飲み会になんか誘われたことないから」
「そう、ですか……横になった方が良いですか?」
「いや、このままで……」
少し斜めになっている方が頭痛が落ち着く。口にしない言葉を察した遥人が凭れてくる隆則の身体に腕を回した。
「これからも飲み会とかあるんですか?」
「わからない……」
ないことを願いたい。もうこんな苦しいのは一回で充分だ。
「そうですか……お酒が飲みたくなったら言ってくださいね。俺が付き合いますから」
「いや、もうこりごりだ」
だって、どうやって家に帰ってきたかすら記憶にない。どんな粗相をしたかもわからない状態を遥人に見せたくはなかった。
「……変なこと、言わなかったか?」
「いえ、なにも。凄く酔ってましたけど俺の可愛い隆則さんのままでしたよ」
「なんだそれは……」
こんな四十を超えた男を可愛いというのは彼くらいなものだ。
そして自分もまた、十五も年下のこの男に溺れきってるのが恥ずかしい。年上なんだからちゃんとしないとと思い、けれどなかなか実現できていない。
「でも俺、隆則さんがお酒飲むの見たことないです……今度俺とも飲みましょう」
自分が知らない隆則がいるのが許せないらしい。お願いしますと請われれば断れないのは、惚れた弱みだ。
「そう……だな。いつになるかわからないけど」
出かけた先で酔い潰れては遥人に迷惑をかけてしまいそうで怖い。昨日みたいに記憶をなくしてしまうほど飲んだなら……きっと呆れられてしまう。
みっともない姿を晒したくなくてなんとか回避を試みようとしても、頭痛が邪魔をして上手く思考できない。
「家の中なら安心して飲めますって」
隆則の不安を先回りして取り除くことに長けた遥人の言葉に、そうかもと思い始めた。
「仕事のない週末なら、大丈夫でしょ?」
「そう、かも……」
「ありがとうございます、嬉しいな」
相手に下心があるとも知らず、喜ぶ遥人の期待に添えなければと頭痛と闘いながら流されていくのだった。
そして、迎えた初めての家飲みで、こっそり遥人が用意した口当たりがよくアルコール度数の高い酒を一杯飲んだだけででろでろに酔った隆則は、可愛く淫らな姿を年下の恋人に晒すのだが、当然記憶になく。
隆則の仕事が終わるのを見計らって、食卓にアルコールが出る様になるのだった。
「美味しいお酒を見つけたので飲んでみましょう」
甘い誘惑に勝てず口に含んでは、アルコールに濡れた口で恋人の欲望を咥え「好きだ」と胸の内を告げるのだった。
遥人の逞しい胸にもたれながら、手の中の錠剤を口に入れぬるめの水を飲み込んだ。酷く渇いた喉に、僅かな潤いが優しく流れ込んでいく。少量では足りず、コップの中の水分を全て飲み干して、コップを遥人に渡した。
「こんな隆則さん初めて見ました。会社員時代もこんなの味方したんですか?」
「ない……飲み会になんか誘われたことないから」
「そう、ですか……横になった方が良いですか?」
「いや、このままで……」
少し斜めになっている方が頭痛が落ち着く。口にしない言葉を察した遥人が凭れてくる隆則の身体に腕を回した。
「これからも飲み会とかあるんですか?」
「わからない……」
ないことを願いたい。もうこんな苦しいのは一回で充分だ。
「そうですか……お酒が飲みたくなったら言ってくださいね。俺が付き合いますから」
「いや、もうこりごりだ」
だって、どうやって家に帰ってきたかすら記憶にない。どんな粗相をしたかもわからない状態を遥人に見せたくはなかった。
「……変なこと、言わなかったか?」
「いえ、なにも。凄く酔ってましたけど俺の可愛い隆則さんのままでしたよ」
「なんだそれは……」
こんな四十を超えた男を可愛いというのは彼くらいなものだ。
そして自分もまた、十五も年下のこの男に溺れきってるのが恥ずかしい。年上なんだからちゃんとしないとと思い、けれどなかなか実現できていない。
「でも俺、隆則さんがお酒飲むの見たことないです……今度俺とも飲みましょう」
自分が知らない隆則がいるのが許せないらしい。お願いしますと請われれば断れないのは、惚れた弱みだ。
「そう……だな。いつになるかわからないけど」
出かけた先で酔い潰れては遥人に迷惑をかけてしまいそうで怖い。昨日みたいに記憶をなくしてしまうほど飲んだなら……きっと呆れられてしまう。
みっともない姿を晒したくなくてなんとか回避を試みようとしても、頭痛が邪魔をして上手く思考できない。
「家の中なら安心して飲めますって」
隆則の不安を先回りして取り除くことに長けた遥人の言葉に、そうかもと思い始めた。
「仕事のない週末なら、大丈夫でしょ?」
「そう、かも……」
「ありがとうございます、嬉しいな」
相手に下心があるとも知らず、喜ぶ遥人の期待に添えなければと頭痛と闘いながら流されていくのだった。
そして、迎えた初めての家飲みで、こっそり遥人が用意した口当たりがよくアルコール度数の高い酒を一杯飲んだだけででろでろに酔った隆則は、可愛く淫らな姿を年下の恋人に晒すのだが、当然記憶になく。
隆則の仕事が終わるのを見計らって、食卓にアルコールが出る様になるのだった。
「美味しいお酒を見つけたので飲んでみましょう」
甘い誘惑に勝てず口に含んでは、アルコールに濡れた口で恋人の欲望を咥え「好きだ」と胸の内を告げるのだった。
69
あなたにおすすめの小説
課長、甘やかさないでください!
鬼塚ベジータ
BL
地方支社に異動してきたのは、元日本代表のプロバレー選手・染谷拓海。だが彼は人を寄せつけず、無愛想で攻撃的な態度をとって孤立していた。
そんな染谷を受け入れたのは、穏やかで面倒見のいい課長・真木千歳だった。
15歳差の不器用なふたりが、職場という日常のなかで少しずつ育んでいく、臆病で真っ直ぐな大人の恋の物語。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ただの雑兵が、年上武士に溺愛された結果。
みどりのおおかみ
BL
「強情だな」
忠頼はぽつりと呟く。
「ならば、体に証を残す。どうしても嫌なら、自分の力で、逃げてみろ」
滅茶苦茶なことを言われているはずなのに、俺はぼんやりした頭で、全然別のことを思っていた。
――俺は、この声が、嫌いじゃねえ。
*******
雑兵の弥次郎は、なぜか急に、有力武士である、忠頼の寝所に呼ばれる。嫌々寝所に行く弥次郎だったが、なぜか忠頼は弥次郎を抱こうとはしなくて――。
やんちゃ系雑兵・弥次郎17歳と、不愛想&無口だがハイスぺ武士の忠頼28歳。
身分差を越えて、二人は惹かれ合う。
けれど二人は、どうしても避けられない、戦乱の濁流の中に、追い込まれていく。
※南北朝時代の話をベースにした、和風世界が舞台です。
※pixivに、作品のキャライラストを置いています。宜しければそちらもご覧ください。
https://www.pixiv.net/users/4499660
【キャラクター紹介】
●弥次郎
「戦場では武士も雑兵も、命の価値は皆平等なんじゃ、なかったのかよ? なんで命令一つで、寝所に連れてこられなきゃならねえんだ! 他人に思うようにされるくらいなら、死ぬほうがましだ!」
・十八歳。
・忠頼と共に、南波軍の雑兵として、既存権力に反旗を翻す。
・吊り目。髪も目も焦げ茶に近い。目鼻立ちははっきりしている。
・細身だが、すばしこい。槍を武器にしている。
・はねっかえりだが、本質は割と素直。
●忠頼
忠頼は、俺の耳元に、そっと唇を寄せる。
「お前がいなくなったら、どこまででも、捜しに行く」
地獄へでもな、と囁く声に、俺の全身が、ぞくりと震えた。
・二十八歳。
・父や祖父の代から、南波とは村ぐるみで深いかかわりがあったため、南波とともに戦うことを承諾。
・弓の名手。才能より、弛まぬ鍛錬によるところが大きい。
・感情の起伏が少なく、あまり笑わない。
・派手な顔立ちではないが、端正な配置の塩顔。
●南波
・弥次郎たちの頭。帝を戴き、帝を排除しようとする武士を退けさせ、帝の地位と安全を守ることを目指す。策士で、かつ人格者。
●源太
・医療兵として南波軍に従軍。弥次郎が、一番信頼する友。
●五郎兵衛
・雑兵。弥次郎の仲間。体が大きく、力も強い。
●孝太郎
・雑兵。弥次郎の仲間。頭がいい。
●庄吉
・雑兵。弥次郎の仲間。色白で、小さい。物腰が柔らかい。
宵にまぎれて兎は回る
宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる