エリートアルファのできちゃった結婚

椎名サクラ

文字の大きさ
11 / 42

11-1

しおりを挟む
 今日のためにリザーブした老舗ホテルのスイートルームのドアを開けると、もう自力では立つことができない玄をゆったりとしたソファへと腰かけさせた。

 やっとこの日が来た。

 20年前の玄の言葉が今でも耳に残っている。

『一過性の興味なら結構です。20年以上興味を覚え続けてくれたなら相手にしますよ』

 挑発的な目で睨め付けながら真っ正面から自分を見据えた幼さの残る少年は、今では誰をも寄せ付けない孤高の貴公子のような佇まいになり、人を魅了するのに誰も寄せ付けない、そんな不思議な魅力を纏った人間へと成長した。昔も今も、桐生はその姿を目にするだけで心が高鳴り、すぐさま押し倒したくてたまらない欲求を抱えるのだ。

 長かった。すぐにでも切れそうなほど細い繋がりを、細心の注意をもって繋げ続け、彼の傍にずっといられるこの日が来るのを待っていた。経営への参加を確約された桐生にはもう海外への赴任はない。数年、本社で主要部署を経験した後は取締役への昇進が待っている。その時、隣で一緒に笑ってくれるのが玄であることを願い続けていた。

「大丈夫かい?」

 ぐったりとソファに力なく寄りかかる玄の隣の腰かけ、その引き締まった背中をさする。無駄な肉はないしそこそこ引き締まった筋肉の感触を、薄いワイシャツ越しに確かめる。

「なにを……呑ませたんだ……」

「甘くて飲みやすいカクテルだ。思った以上に玄はアルコールに弱いのだな」

「あんなものっ……喜んで呑むやつの気が知れない」

 だがそれを飲みすぎたために、何一つ力を入れることができず思考も散漫になっているのに気付いているのだろうか。こんな状態の想い人に何かするのは男として格好がつかないという人間もいるだろう。だが、こんな状態にでもしなければ、いつもすげない玄を留めることができない。

「そういえば、玄と飲むのは初めてだったね。まだ呑むかい?」

「……ふざけているのか?」

 先輩に対しての敬語がぶっとぶなど珍しい。

 桐生は脂下がりそうになる顔を引き締めながら、それならとテーブルに水の入ったグラスを置いた。

「体内のアルコールを薄めよう。それを飲みながら聞いて欲しいことがあるんだ、玄」

 親しみを込めてその名を呼ぶ。家族以外、玄がそう呼ぶことを許したのは自分だけだから。

 単に玄がめんどくさがっただけとはなんとなく分かっていても認めたくない桐生である。

「用件があるなら早く言ってくれ。借金も連帯保証人も名義貸しもお断りだ」

「そんなのを君に頼むわけがないだろう……出会ってから20年、ずっと君のことを想っていた」

「……未だに『てけてけ』が頭に残っているのか? 殊勝だな」

 なぜそうなる。

 桐生は肩を落とし、同時に記憶の奥底へと突き落としたはずの恐ろしい映像がよみがえり少し震えた。

 一世一代の告白だというのに……。

「玄、真剣に聞いてくれ。君を伴侶にしたいんだ……愛しているんだ」

 胡乱な視線が少し眠たそうな目元から放たれる。だがこんなことで怖気づく桐生ではない。この世で一番菅原玄に耐性があると自負している。

「バカか? アルファの男同士が結婚してどうする」

 オメガならいざ知らずと続けられ、だがそれで諦めきれるものではない。

「20年前に君が言っただろう、20年以上興味を覚え続けてくれたら相手にしてくれる、と。その言葉を信じているんだ」

「はぁ? いきなり何を……」

「初めて会ったあの日からずっと、君だけを愛している。私のものになってくれ」

「ふざけ……ちょっ何をする!」

 そっと玄の身体のラインを撫でる。

 ワイシャツのボタンを二つ外して鎖骨を見せ続けてきたくせに、ずっと20年もお預けをさせてきたくせに、ただ触れることも許してはくれないのか。

 凶悪な気持ちが桐生の中で大きくなっていく。

 長い間彼だけを見て彼だけに想いを寄せてきたのだ、今日という日が訪れるのを待ちながら。

 もう我慢なんてできるわけがない。

「私は本気だ……今日ここで、君を私のものにする……玄」

 耳元で愛しい人の名を呼びながら肌を確かめるようにワイシャツの上から愛撫した。

「っ! ……ゃめろっ」

 言葉だけの抵抗。

 アルコールが回り切った身体に力が入らないのだろう、桐生を押し放そうとする腕は弱々しい。

「放せ、あほっ」

「押し倒して自分のものにするのが私らしいと評したのは君だ……その通りにさせてもらう」

「ゃっ……」

 弱弱しく抵抗する玄の腕をものともせず、その身体をソファの背もたれに押さえつけると、とろりとしている怜悧な瞳を見つめながら、ゆっくりと、誰とこれから何をするのかを教えるように、顔を近づけた。

「んっ……ゃ!」

 薄い唇に、自分のそれを重ねる。玄は合わさってもそれから逃げるように首を振るが、逃がしはしない。深く唇を合わせ、何かを言おうと開いた瞬間に舌を潜り込ませる。

「ん……ぁ……」

 最後に飲んだホッとチョコレートの苦みがする舌を存分に味わい舐め尽くした。それでも足りず、口内を犯していく。弱弱しかった抵抗はさらに弱まり、押し放そうとする腕はいつからか桐生のシャツを強く握り始めた。

(可愛い……)

 甘いものが苦手だと公言していた玄に、もしかしたらとホッとチョコレートを飲ませたのは正解だ。あまりチョコレートを口にしない人間には度数の高いカカオが入った飲み物は媚薬になりえる。

 分かっていて飲ませた桐生は内心ほくそ笑んだ。

 着色がほぼない並びのいい歯も薄い頬肉もたっぷりと堪能してから、ようやく唇を開放する。

「私は本気だ。もう逃がさない……初めてがソファで申し訳ないが許してくれ」

「ゃ……めろ…」

 濃厚な口づけに頬を赤らめても、玄は抵抗しようとする。だが桐生に敵うわけがなかった。邪魔なワイシャツを力任せに引きちぎりボタンを飛ばす男を、恐怖にも似た目で見つめるばかりだ。

 蛍光灯の下に晒された玄の肌はどこも白く、無駄な肉など一つもない。桐生は誘われるように素肌の感触をたっぷりとその掌で味わった。30歳を過ぎているのに、弾力があり滑らかな肌がしっとりと吸い付いてくる。

「綺麗だ……」

「み……るなっん」

「あぁ……玄はここが弱いのか」

「やめろっ!」

 指で弾かれてツンと立ち上がった淡い色の胸の飾りに狙いを定めながら、可愛くないことばかりを紡ぐ唇を再び塞ぐ。薄いそれを啄みながら徐々に固くなっていく胸の飾りをこねていく。

「んっ………ゃぁぁっ」

 くぐもった甘い声すらも自分のものだとばかりに吸い取り、拒否の言葉をこれ以上零さないよう舌を犯す。ねっとりと絡めとり擦り合わせ、奥へと逃げ込もうとするのを阻んでいく。息継ぎする間だけ少し与えまた深く塞ぎ嬲り続けた。清廉潔白な玄は色事に慣れていないのだろう、どう逃げていいのか分からず固まってしまうようだ。だが、そんな玄にキスの仕方を教えるだけの余裕は桐生にない。貪るだけ貪り、嬲りたいだけ嬲り続けた。

 容易に摘まめるほどまで固くなった胸の飾りに爪を立てると、ビクリと玄の身体が震える。だが、唇から漏れるのは痛みの訴えではなく甘く熱い吐息。

 自分の愛撫に快楽を感じているのだと思うだけで、桐生の下半身はもうはちきれそうになっていた。

(だがまだだ……)

 もっともっとこの頑なな氷の女王を溶かしてからだ。

 快楽の海に沈め、浮き上がることもできないくらいに溺れさせてから。

 抵抗など忘れ自分から腰を振るほどにどろどろにして、頭の中を愉悦で満たし尽くしてから。

 そのためのテクニックをこの20年、玄のためだけに磨いてきた。

 反対の飾りにも手を伸ばし、両方を同時に刺激していく。淡い色の胸の飾りは刺激を与えられるたびにツンと尖り、もっと弄れとばかりに膨らんでくる。それを爪弾いたりくすぐったりすれば、玄の身体から徐々に力が抜けていく。

(もっと溺れろ……私に溺れ尽くすんだ)

 願いを強くする。

 もっともっと乱れろ、もっともっと溺れろ。

 そして自分だけのものになれ、と。

 たっぷりと口づけと胸の飾りへの愛撫で玄の身体を蕩けさせると、桐生はターゲットを移していった。形の良い耳たぶを食み、ねっとりと舌を這わせながら徐々に頭を下ろしていく。首筋を舌でくすぐりながら散々見せつけられた鎖骨を目指す。

「ぃぃかげんにしろ……きりゅ…」

「篤繁だ……名前で呼んでくれ」

「ふざけるなっ……ぁんっ」

 鎖骨の形を歯列でなぞり舌でくすぐると、また玄の身体が跳ねる。

(どこもかしこも敏感だ……)

 自分の身体のどこを愛撫されれば感じるのかなど、今まで考えたこともない玄の性感帯を一つ一つ探し当てる作業に没頭しながら、目印の赤い跡を付けていく。これから先、それが消えることのない身体にしてやると誓いながら、きつく吸い上げる。

「なに……するっ」

 答えない。

 明日の朝、己の身体に残った交情の跡で知ればいい。なぜそこに残っているのかを考え、そして何をしたかを思い出せばいい。

「もっ……ゃめっ」

 指にたっぷりと嬲られた胸の飾りを口に含み吸い上げながら舌で転がせば、玄から抵抗の言葉と共に甘い吐息が零れた。そんな色っぽい抵抗に従う男などいるものか。しかも、強く服を握りながら放そうとしない。

 自分がどれほど無意識に男を煽っているのか自覚がない玄の些細な仕草に、桐生もどんどんと身体を熱くしていった。

「愛している、玄。君だけだ…」

 熱い言葉に乗せて何度も自分の気持ちを伝えながら愛おしい身体を貪り続ける。空いた手で身体中をまさぐり、快楽のポイントを見つけ、くすぐる。それを続けながらとろとろに玄の身体を溶かし、言葉以外の抵抗をなくしていくと、最後のポイントとなった下肢を包む無粋な布を剥ぎ取りにかかった。

 革製の艶やかなベルトを片手で外そうとすると、今まで桐生のシャツを握るばかりだった手が久方ぶりの抵抗を試みるが、もうそこには元来の力は備わっていない。ポテ、ポテと緩く叩かれても痛みはない。

 ここまで無力になった玄など、きっと誰も知らないだろう。

 自分だけが知りえたことに、一層の悦びを感じる。

 器用に片手でベルトとスラックスのファスナーを寛げ、引きずり下ろす。

「ころして……やるっ」

 恨みがまし気に呟きながら、玄は腕で自分の顔を隠した。

「殺される前にたっぷりと君を味わわせてくれ……ぅっ!」

 カッコよく決めようと思ったのに、スラックスの下から現れた純白に、桐生は思わず鼻血が吹き出しそうになった。

(なっ……なんと! 33にもなって白ブリーフっ!)

 トランクスやボクサーが主流となっている昨今で、ブリーフを愛用している者は少ないだろう。しかも、白。白!

 今どき小学生ですら恥ずかしくて身に着けようとしないその清楚すぎる下着に、桐生の理性ははちきれ寸前になった。しかも愛撫でしっかりと形を変えている分身の大きさまでもを美しい陰影をつけて強調している。

 フラフラと夏の虫のようにその輝きに引き寄せられていく。

 純白を汚すことへの悦びは、男なら皆が持ち合わせているだろうが、桐生とて例外ではない。すぐにでもこの白さを汚したい思いと、たっぷりとこの純白を味わいたい性癖が鬩ぎ合う。

 当然、性癖が勝るのだ。

 形を変えた分身を包み込んでいる白ブリーフに頬を寄せたっぷりとその匂いを嗅ぎ、そしてその上から形をなぞるように舌を這わせた。

「んっゃぁ……」

 初めて、玄の口から喘ぎが零れた。たっぷりの愛撫で溶け切った身体はもう抵抗する意思がないのをいいことに、桐生は布の上から執拗に刺激をしていく。舌だけでなく指をも加え、濃厚な愛撫を施していく。唾液の染み込んだ下着はより一層淫らだ。自分が玄を汚しているのだという暗い歓びを桐生に味わわせてくれる。

 分身の先端が巧みな愛撫で涙を流し始めるまで可愛がってから、ゆっくりと、名残惜し気に下着を下ろした。
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました 2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。 様々な形での応援ありがとうございます!

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...