エリートアルファのできちゃった結婚

椎名サクラ

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 金曜日に初めて玄を抱いてから初めて迎えた月曜日、桐生は服を身に着けないままベッドに凭れ、隣で眠る愛おしい人の顔を見つめながらスマーとフォンを操作していた。今日から次の金曜日まで桐生は早めの夏季休暇を取得している。当然、会社にごり押ししたのは言うまでもない。本社異動が決まった日からずっと心に決めていたのだ、もし玄が帰国後の誘いに乗ってくれたら、その時は彼を抱いてオメガにしようと。稀なケースで成功するかわからなかったが、神は桐生の願いを聞き届けてくれた。

(これも日頃の行いがいいからだろうな)

 表に出さなくなっただけで、桐生の傲慢さは健在のままだ。

 会社から連絡がないか確かめながら、ちらりと隣を見やる。

 土日、起きていればずっと抱かれ続け啼き続けた玄は、目の下に疲れを残したまま深い呼吸を繰り返している。まだ起きる気配はない。桐生が玄を開放したのは朝日が昇ってからだから当然だ。

 こんな状況では出社などできようがない。玄は手にしていたスマートフォンの時計を見た。

 8:45

 丁度いい時間だろう。

 検索して出てきた電話番号に発信する。

 すぐに電話は繋がり、マニュアルに則った受付嬢の声がスピーカーから流れる。

「キリュウ・コーポレーション開発部部長の桐生篤繁です。菅原社長をお願いします」

『菅原でごさいますね……ご用件を伺ってもよろしいでしょうか』

「ご子息、玄くんが体調不良で今、私とおります」

『かしこまりました、少々お待ちください』

 保留音の「愛の挨拶」が流れてくる。よくある保留音ではあるが、それが自分と玄が結ばれたことを祝福してくれているように思えて、思わず顔がにやけてしまう。

 あの菅原玄が、誰に対しても辛辣な態度の菅原玄が、今自分の隣に寝ている。それだけで胸が熱くなり、今にも踊り出しそうだ。

(どうせ踊るなら玄と一緒が良いな……)

 その踊りがベッドの中で行われるものであり、つい数刻前まで自分がリードしながらそのダンスを踊り続けていたことを思い出して、節操のない桐生の下半身がまた元気を取り戻していく。そういえばあんなことやこんなことをして、その時玄はこんな反応してあんな反応をして……思い返すだけでまた脳内で鼻血の大量出血をしそうである。玄が知ったなら、そのまま大量出血してそのまま死ねというだろうから絶対に口には出さないが。

(それにしても、想像以上にセックス中の玄は可愛かった)

 オメガになったせいか、セックスに積極的で自分から欲しがり、恥ずかしがることもないまま可愛いく淫らな声を聴かせてくれるようになった。まだ性技には乏しいが、玄が自分のもので悦がっているという事実だけで桐生はいくらでも果てることができるし、すぐに元気になってしまう。性欲に関してはケダモノ級の桐生は、目に焼き付けた玄の艶めかしい表情だけでもうビンビンになっていた。

『電話を替わりました、菅原です』

 楽しい妄想を繰り広げている間に自分たちを祝福している音楽が切れ、落ち着いた紳士の声が聞こえてきて慌てて平静を装う。

 なにせ相手は愛しい玄の父親だ。失礼があってはならない。

「初めてご連絡をいたします、キリュウ・コーポレーション開発部部長の桐生篤繁です。突然のご連絡で申し訳ございません」

『愚息が体調不良でお世話になっていると』

「はい。今私の隣で眠っております。しばらくは出社できない状況であると判断します」

『そうか……どのような状況か伺ってもよろしいかな』

 伝えるべきか一瞬迷い、だがいずれは知らせなければならないなら早いほうが良いだろうと事実を告げる。

「発情期を迎えています」

『発情期? 愚息は定期的な検査で常にアルファと診断が出ているのだが?』

 さすがにすぐには信じられないだろう、玄の父親の声が厳しい。

「はい、金曜日までは。ですがこの週末でオメガとなり私の番となりました」

『なんだとっ!』

「詳細につきましては彼の発情が収まり次第ご自宅に説明に伺わせていただきます。このような事情ですので今週いっぱいの出社は難しいと思われます」

『桐生くん、玄になにをしたのだ!』

 経済界でも穏やかな老紳士として名高い菅原製薬社長がここまで声を荒げるのは当然だろう。今まで後継者として育ててきた優秀な長男がオメガとなったのだから。

「ご叱責はいくらでもお受けいたします。責任も当然取る所存です」

 その覚悟がなく、どこまでも気高い玄をビッチングしようとは思わない。彼のこれからの人生にすべてを捧げるつもりでいるのだ。玄本人がどう思おうとも。

「玄くんがオメガになったこと、今発情していること、そして私と番になったことは事実です」

『…………分かった。発情が収まったらすぐに連絡をくれたまえ。席を設ける』

「ありがとうございます。収まり次第すぐにでもお伺いいたします」

 荒々しく電話が切れ、予想通りではあったが嘆息する。仕方ない、玄の両親に嫌われるのは覚悟の上だ。愛しく優秀な息子をオメガに変えた男を容易に受け入れられないのは当然で、許しがたいのも仕方ないだろう。桐生にできることは、これから誠意を見せ、誰よりも玄を愛し尽くす姿を両親に見せ続け許しを待つだけだ。

「だがせめて入籍だけは早急に許して欲しいな」

 番だけなんて嫌だ。できれば戸籍まで玄と一緒でありたいと願うのは欲張りなのだろうか。

「何としても許してもらわなければ」

 だが今はまだ玄を貪っていたい。半分俯せになっている寝姿に色疲れした顔が、ただ眠っているだけでも妙に色っぽい。寝かせてやりたい気持ちと、すぐに起こして繋がりたいケダモノの本能が鬩ぎあう。

 自分がどれだけ浮かれているかを自覚していない桐生は、寝息を立てる愛しい人の頬にキスを落とす。早く起きてくれと願いを込めながら。起きたら当然することはするし、啼いて許しを乞いて来ても止めてあげられないのだが。

「もうここにいるのかな?」

 無駄な肉のない腹部を撫でる。

 発情期のオメガがアルファの精液を受ければ100%妊娠すると言われている。この金曜日の夜からもうどれだけ玄の体内に桐生の精子が放たれただろうか。そのうち一つでも玄の卵子と結びついたならもう今頃は……。目で確かめることができないから不安だ。

 オメガにして番になって、それでも桐生は不安でしょうがない。家族(ただし末弟オンリー)にしか興味がない玄のことだから自分がいつも二の次さんの次になってしまう。番になっても、よく聞くカップルのように仲睦まじく常に一緒にいるなどというのは玄には難しいだろう。むしろ自分の傍から数メートル離れて歩けと言いかねない。だが鎹となる子供がいれば、その父親である桐生のことだって無下にはできないはずだ。責任感の強い玄に子供ができれば産むだろうし、産んだら責任をもって育てるはずだ。その子供が父無し子では外聞が悪いと桐生をその輪の中に迎え入れてくれる、はずだ。多分。きっと。…………だといいな。

 いつも自信満々に計画を立てるのに、相手が玄となるとその自信がすぐに揺らいでしまう。

 なんてったって、玄だから。自分よりも人間的に優れている彼のこと、何を考え言い出すのかがわからない。

 しかも玄は桐生に興味がない。今回だって末弟の個展という格好の餌だ、彼の名前を出せばどんなに忙しくても玄はやってくる。なんとも有難い存在だ。

(やはり謝礼でもう2000万振り込んでやったほうが良いな)

 早く起きないかと思いながら、今まで触れたことのない場所に手を伸ばす。

 漆黒の艶やかな髪も形のよい耳も、綺麗に整えられた爪も突き出た肩甲骨も指先で辿っていく。

「玄はどこもかしこも綺麗だ……」

 自分の想い人のあまりもの美しさにうっとりとする。こんなにも綺麗な人間が、自分の番だ。しかも桐生は知っている、玄は今まで一度も性行為をしたことがないことを。誰と交際しているのか、誰といつあって何時に帰っているのかをつぶさに調査しては、その結果にこの20年安堵し続けてきたのだから。しかもプロのお世話になったことがないのは、この数日の反応でよくわかっている。パーティなどでプロを呼んでとても口にはできないような接待が世の中にはある。もしそれだったら調査資料には載ってこない。接待の内容までは調べられないのだから。

「君の初めての相手が私であるのがこれほどまでに嬉しいとは」

 処女性など求めてはいないし、男なんだから色んな女に手を出すのが当たり前だと思っている。本命以外はただの生処理道具でしかない。

 だが本命が自分しか知らず、無垢な身体を自分に染めるのがこれほどまでに自尊心をくすぐるものだとは知りもしなかった。

 いや、玄なら経験があったとしても変わらず愛する自身がある。あるが……自分以外とのセックスを知らず自分が教えた快楽がすべてとするのは行為までもを支配しているようで堪らない。

「早く起きてくれ」

 やはり玄としたい。桐生の手に悦びながらあの心地よく熱い内壁に締め付けられる感触を思い出し、もう我慢が出来なくなってしまった。玄の身体を包み込んでいる羽毛布団を剥ぎ、何も身に着けていない身体をひらりの元に晒す。筋肉質ではないが無駄がなに一つない白く美しい身体が陽日を弾き返す。

 だがよく見れば所々に所有の印が散らされ淫猥さを覗きみせている。玄が甘く啼く場所だけを集中的に付けられている。

 桐生はその一つ一つの場所を確かめながら、消えないように新たな刻印を刻んでいく。

「ん………っ」

 肩から下肢へとどんどんと身体を移していけば、桐生を甘く締め付けてきた蕾へとたどり着く。形のいい足を大きく開かせそこを露にすると、蕾にもキスを落とす。

「ぁ……んん」

 キスだけでは飽き足らず舌を潜り込ませ、中をくすぐれば健やかな寝息を立てていた玄から色っぽい音楽が小さく聞こえはじめる。まだ覚醒はしていない玄が桐生を最奥に咥えながら起きたならどうなるだろう。もしかしたら自分のことを好きとか言ってくれるだろうか。

 ありえないと分かっていても期待して、実行に移す。舌で弄れば中から愛液が零れ出てくる。襞の一つ一つを舐めとりチュッとキスを送ってから、玄の足首を掴んだままその腰を少し浮かせると、ビンビンになっている欲望をそこへと割り挿れる。

「ぅっ……ぁぁ」

 覚醒し始めているのが、フェロモンの甘い匂いで解る。まだ意識は半分夢の中にあるのに、オメガとなった淫らな身体は嬉しそうに桐生の欲望を締め付けてくる。早く早く強く突いて感じさせろと言わんばかりだ。

(今日は騎乗位をしてみよう……玄が自分から腰を振るのが見たい)

 だがまずは一度果ててからだ。そうでなければ余裕がなくなってしまう。

 桐生は朝日を浴びながらゆっくりと腰を使い始めた。
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