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清野江紀と薬師寺咲那(第2話)

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 とりあえず、2人は蟲達が放つ魔力の波動をもとに、敵の大体の位置を予想する。大型の個体と亜人種型デミヒューマンタイプはそれぞれ別の場所にいるようだ。大型の個体は、この廃墟の屋上付近、亜人種型デミヒューマンタイプは中庭付近にその波動を感じる。

「あたしは中庭に向かう。江紀、お前は屋上だ」

 ここにたどり着いた時のやる気のなさは微塵にも感じさせないような足取りで、咲那がこの場を仕切り始めた。強敵相手だと俄然やる気を出すのが彼女なのだ。

「了解だ。薬師寺、もう一度言うが無理はするなよ。相手は亜人種型デミヒューマンタイプなんだからな」

「わーってるよ、いつまでも素人扱いすんな」

 咲那は、頭を掻きつつ不貞腐れたように応えた。確かに、自分の今の実力ではそもそも勝てるかさえわからないような相手だ。江紀が心配するのも無理はない・・・が、あまり心配されるのも癪に障る。

 これでも一応は、和泉鏡香の「懐刀」として自他共に認める存在だ。この程度の相手を越えられないようでは話にならない。

 ちなみに、江紀は和泉奏多の「右腕」ともいうべき存在だった。「マスター」の右腕と呼ばれるくらいなのだから、当然その実力については語るまでもないことだろう。

「お前は自分の獲物のことだけ考えな。あたしのことは心配いらねえよ」

 にっと笑みを浮かべて咲那が応える。ここで江紀に後れを取るつもりはない。

 そんな咲那の様子を見て、江紀はため息をつきながら、

「わかった。俺は自分の獲物に集中する」

 大型の個体なんて江紀にとっては雑魚も同然の相手だろう。こいつのことだ、多分手早く片付けて一刻も早くあたしの加勢に向かいたいといったところだろうー長年コンビを組んできた相棒だけに、考えていることも大体わかる。江紀は、よく言えば「面倒見が良い」、悪く言えば「過保護、自己犠牲的過ぎ」な奴だった。

 自分の方が早く終わるという前提なのもいささか腹が立つが、しかし、今までの戦いで、江紀の実力を目の当たりにしてきただけに、それが実力差からくるものであるということも十分わかっている。

 まだまだ自分は江紀と肩を並べられるだけの実力には至っていないのだ。それは自覚している。

 だからこそより強くならねばという焦りが咲那にはあった。そのために、強敵を求め、やり合うのだ。もっと高みを目指すのだ。

 今回の亜人種型デミヒューマンタイプとの戦いを乗り越えられれば、間違いなく自分はもっと強くなれるはずだ。

「よし、そんじゃあそれぞれの獲物のところに行くとしますかね」

 かつてない緊張感をごまかすかの如く、軽く伸びをしてから、咲那は朽ち果てた建物の入り口へと向かう。江紀もそれに続いた。

 数分後、この建物の中で激戦が繰り広げられることとなるー。

 
 

 
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