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吾妻晶と清野早苗(第11話)

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ーー晶視点ーー

「それで、オレたちに何の用だ、このブサニャンコもどき」

 思いっきり疑惑の目を向けつつ、オレは目の前の「ブサニャンコもどき」に尋ねてみた。

「むむ。ブサニャンコもどきとは失礼ニャ!吾輩にはミケという立派ニャ名前ニャまえがあるニャ!!」

「へいへい」

 ・・・もともと糸目なんで、今がどんな表情なのかいまいちよくわからんが、まあ、多分「ブサニャンコもどき」と言われて憤っているのだろう・・・。

「晶君、ブサニャンコだなんて可哀そうだよぉ~、こんなに可愛いのに」

 いまだにこの「ブサニャンコもどき」を抱きかかえてその喉元をゴロゴロしながら、清野が抗議してくる・・・だから、こいつは本当に可愛いのか!?いや、それ以前に、しっかりと馴染んでんじゃねえよ、この「ブサニャンコもどき」めが。

 ・・・まあ、いたずらに話をややこしくしてもこっちが疲れるだけなので、とりあえず名前で呼んでやるか・・・以降、「ミケさん」と呼ぶことにする。

「それでミケさんよ、オレたちに何か用があるのか?」

 オレは、全くやる気のない声でもう一度尋ねた。

「ふふふ・・・」

 ミケさんは不敵に笑った。なんというか、やはり表情の違いがさっぱり分からんのだが・・・。

「神社で若人たちニョ芸を見せてもらいましたニャー。それで若人たちニョことが気にニャってここまで追いかけて来たというわけですニャー」

 なんと、枝内部のあそこの神社からついてきてたのか。

 そういえば、何となくだが、誰かに見られていたような気がしてはいたが、まさか、その正体がこいつだったとは・・・。

 何となく気配は感じてはいたものの、敵意は感じられなかったので敢えてそれ以上気にかける必要もないと思ったのだ。

「そして、こニョ「春ニョ領域」でも芸を披露していたニョを見て、改めて声をかけてみようかニャと思ったわけですニャー」

 どうやら、オレたちのにわかファンとなったらしい。それでオレたちの後を追いかけて来たというわけだ・・・その短足で。

 まあ、いろんなところを見学しながら歩いたから、確かに移動速度はゆっくりだったし、いかに歩みの遅いこいつでも見失うことはなかったのだろうが・・・。

「なるほどな。オレたちのにわかファンか、お前」

「ニャははは、若人達ニョ芸は最高でしたニャ。久々にいいもニョを見せてもらいましたニャー」

 なんとなくだが、糸目がキラっと光ったような・・・糸目だからよくわかんけど。

「それにしても、若人若人って言うけど、お前自身いったい何歳なんだよ」

 ミケさんの年齢が気になったので尋ねてみる。猫の寿命はせいぜいが十数年・・・といっても、それはあくまでも「普通の猫ならば」という話だ。こいつは、どう見ても「普通の猫」ではないので、明らかにそれよりは長生きしている…と思うのだが。

「若人達が10代ニャかばとして、若人達の十数倍といえばお判りいただけますかニャー」

 どこか自慢げな口調でミケさんが答えた。

 まあ、前文明時代の民話に出てくる「化け猫」みたいなやつであれば何百歳も生きていて当たり前か・・・もっとも、「化け猫」の代表である猫又なんぞは、こいつよりも何倍も凶悪そうな容姿をしていて、それらしい威厳があるのだが。

「十数倍ねえ。とても信じらんねえな」

 何となく気の抜けた返事をしてしまった。

「へえ、長生きさんなんだね」

 それに対して、清野は素直に驚いていたりする・・・いまだにミケさんをもふもふしまくっているが。

「ふ、吾輩を見た目で判断するとはまだまだ甘いニャ、お主おニュし

「なら、オレたちよりもはるかに長生きなミケさんは、どんな特技を持っているんだよ?」

 これも気になったので訊いてみた。仮にもそれだけの歳月を生きているのなら、こいつにも何か変わった特技はあるだろう。それも、蟲特有のものだ。

「ふふふ、そうだニャ」

 またも不敵に笑うミケさん・・・なんだか、こいつこの笑い方がいちいち癪に障るのだが、まあ今は気にしないでおこう。

「若人達ニョ芸を見せてもらったし、吾輩もニャにかお返しに、ここで披露するとしますかニャ」

 こうして、オレたちは、「ブサニャンコもどき」ことミケさんの真価を見極めることとなったー。
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