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吾妻晶と清野早苗(第12話)

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ーー晶視点ーー

 こうして、オレたちはミケさんの力を目の当たりにすることとなった。

 ミケさんは清野の腕から飛び降りて、オレたちの前に棒立ちになる。

 ・・・それにしても、実に緩慢な動きである。動作の全てがもっさりとしているというか・・・多分こいつのことだから、もったいぶってやっているというわけではなさそうだ。単純に、元から鈍いのだろう。

「それでは、吾輩ニョ力をお見せしますニャー」

 ミケさんの口元がかすかに上がった・・・ような・・・多分、人間に例えれば不敵な笑みを浮かべたーといった感じなのだろうか。元の素材がすでにダメダメなのでいまいち表情がわからない・・・。

「吾輩が得意とする魔法、それは・・・!」

 清野が隣で、興味津々といった様子でミケさんを見つめていた。どうでもいいが、もったいぶるな、「ブサニャンコもどき」よ。

 まあ、こいつもオレたちよりはるかに長生きしているし、それなりに防衛手段などは備えているだろう。最初から馬鹿にしてかかるのもあれか。

「それは?」

 オレは回答を促した。

「それは・・・召喚魔法ですニャー」

 腰(だとは思うが)に両の手(というか、前足か)を当てて、自慢げに胸(に当たる部分だと思う)を反らしながら、ミケさんが答えた。

「なんだと?」

 素直に驚いてしまった。

 召喚魔法は、前文明時代の神話や伝説において、神や悪魔とされている者達を呼び出すことができる。その超常の者達を「神威」とも表現することがある。ある地方の民族の言葉で、神格を持った上位霊的存在のことをこう呼んだ。
 
 かなり高度な魔法なので、それなりの魔力と習熟度が必要となる技術だ。オレたちのように、異能を持った者達でも完全に使いこなせるケースは多くはない。

 まさか、この「ブサニャンコもどき」にそれができるとは、とても思えないのだが・・・。

 しかし、考えてみれば、こいつもそれなりに長生きしている分(こいつが嘘を言っていなければの話ではあるが)、生命の危険に晒されたことはいくらでもあっただろう。となると、やはりそれなりに自分を守るための技術は身に着けていてもおかしくはない。

 まあ、こいつの体形を見る限り、おそらく自分では戦えないだろうから、召喚魔法というのはなるほどアリだとはいえる。

「へえ、すごいねぇ、ミケさんは」

 清野が隣で軽く手を合わせながらミケさんを褒め称えている。清野も、一応召喚魔法が上級の魔法であり、ごく限られた人間しか使い手になれないことを把握しているようだ。

 これは・・・オレも見てみたくなってきたかも。

「ふ、若人よ、吾輩ニョ真ニョ力を見せてやるニャ」

 ミケさんが仰々しく宣言する。いいだろう、こいつの真価を見極めてやろうではないか!

 この直後、オレたちはミケさんの「召喚魔法」を目の当たりにすることになるー。
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