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吾妻晶と清野早苗(第13話)

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ーー晶視点ーー

 いよいよ、ミケさんの真価を見極めることができるー。

 なんともふざけたやつではあるが、召喚魔法が使えるというのであればその認識は改めなければなるまい。

 オレは固唾をのんで見守った。隣の清野も、やはり空気を読んでか、いつもよりも真剣な表情で様子を窺っている。

 幸い、周囲にはオレたち以外は誰もいないようだ。ここで神威を召喚したとしても、周囲に影響が及ぶことはないだろう。

 さあ、どんな奴を呼び出すのか、見せてみろ、ミケさん。

 ・・・少したって、なんとも短足な後ろ足を前に投げ出すような格好で、ミケさんは地面にドンと腰を下ろした。そして、おもむろに、自身の腰-何だろうがーにぶら下げている巾着袋に手(厳密には前足だろうが、面倒くさいので手と呼ぶことにする)をかけた。

「さあ、吾輩ニョ召喚術を見て驚くニャ!」

 ついに、ミケさんの巾着袋から神威が現れるー。

 ーはずだった。

 巾着袋から出てきたのは、なんと・・・缶ビール!?

 ミケさんは、缶ビールを抱えると、器用に肉球が付いた手でプルタブを開けて、中身をグイっと・・・。

「プハァー!」

 ・・・。

 ・・・・・・・。

 ・・・は?

オスニャら、モ〇ツ!」

と、缶ビールを掲げてなんだか満足そうな様子のミケさんであった。

「おい」

 まさかとは思うが・・・。

 オレは、満足そうに缶ビールをぐいぐい飲んでいるミケさんに、恐る恐る尋ねた。

「お前の召喚術というのは、まさかとは思うが、その巾着袋から酒を取り出すことを言うのか?」

 自然と顔が引きつってくるのが、自分でもよく分かった。正直、拍子抜けなどというレベルではないのだが。ちなみに、隣にいる清野も目が点になっていたりする・・・。

「ふっふっふ」

 やはり不敵な笑みを浮かべながら、ミケさんが答える。 

「まだ酒ニョ味もわからニュ若人達には、こニョ召喚術ニョ素晴らしさはわかるまいですニャー」

 得意げなミケさんである。そりゃあ、まだ未成年だし酒も飲んだことはないが・・・って、問題はそこじゃねえ!!

「ほう」

 オレはゴキゴキと拳を鳴らしつつ、

「オレの十数倍の歳月を生きてきて、召喚できるのは缶ビールだけなのか?」

「甘いニャ、若人よ。そニョ気にニャれば、枝豆や柿ピーも思いニョままニャ!」

「ほほう~」

 オレは、おもむろにミケさんに近づいて、人間であればこめかみに相当する部分に、両の拳を押しつけた。

 ぐりぐりぐりぐり。

「全部てめぇの嗜好品ばっかじゃねえか!」

「ニャー、痛いですニャー」

 ミケさんが悲鳴を上げるが、お構いなしにぐりぐりを続行した。

「普通はそれを召喚術とは言わん!!」

「うニャー!!」

「晶君、いじめちゃダメ!」

 清野に止められた。清野は、オレからミケさんをひったくると、抱き寄せて頭をナデナデしている。

「痛いですニャー」

「よしよし」

 ・・・なんだかんだ言って役得だな、この「ブサニャンコもどき」は。

 オレは、盛大にため息をつくと、

「まあ、こいつにそんな大層な真似はできるわけもないか」

 実際、こいつから発せられる魔力の波動は微弱なものだ。これでは召喚魔法など到底無理だろう。

「なんというか、その巾着袋が某ネコ型ロボットの〇次元ポ〇ット・・・」

「わーわーわー!」

 突然清野が騒ぎ出した。そして、ミケさんを素早く地面に降ろしてすごい勢いでオレに近寄ってきた。

 がっしりとオレの肩を掴み、そして・・・、

「駄目だよ、晶君、それを言っちゃ」

 やけに血走った眼で懸命に訴えてきた・・・なんというか、ここまで必死な清野は初めて見る・・・。

 どうやら、オレは何らかの禁忌タブーに触れる寸前だったらしい。以後、気をつけよう。

 こいつ、本当にオレたちよりも長生きなのかと、頭を抱えるオレであったー。
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