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スライ蟲退治(第12話)

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 モリガンの一撃が、敵めがけて放たれるー。

 巨大な水球が、スライ蟲・ボス(仮)に見事命中した。

「あっはっはー!わしにかかればこんなの朝飯前じゃ!」

 一撃でとどめを刺したモリガンが得意げに言い放つ。

 まともに弱点属性の特大魔法を食らい、スライ蟲・ボス(仮)はその体を維持することができず、だんだん溶解していく・・・。

「それにしても・・・なんでこんな奴が地中に埋まっていたんだ?しかもでかい栗の中に」

 確かに、なぜこんなのがこの森の地中に埋まっていたのか・・・多分、こいつの存在が無数のスライ蟲を呼び寄せていたのだろうが、それにしても理解しがたい話である。

「ああ、しもうた」

「・・・?どうした、モリガン」

 突然、モリガンが素っ頓狂な声を上げた。

「今のこ奴を倒すのに夢中で、追跡中の使い魔の分の魔力を供給するのを忘れておったわ」

「つまりは、もう一つの穴の方は、結局わからずじまいってことか」

「さらに言えば、今ので結構魔力を消耗してしもうたので、少し休んでからでないと使い魔を作り出せんわい」

 主人からの魔力の供給を絶たれてしまえば、使い魔は存在することができない。これでは、穴の奥にいる何者かの追跡は不可能だろう。

 少なくとも、モリガンの魔力がある程度回復するまでは追跡は困難だ。もっとも、スライ蟲・ボス(仮)を倒すのに手間取ってしまった以上、今更追跡といってもどこまで可能なのか。

「仕方がない、そちらに関しては一旦保留にしよう」

 晶の提案ももっともである。

 モリガンの魔力が不十分な状態で穴に降りたとして、途中何か危険な相手と遭遇してもまともに戦えるかどうか。しかも、人一人ようやく通れる程度のトンネルである。そんな場所で何があったとしても対処はかなり難しいだろう。

「とりあえず、大きな蟲さんはやっつけたんだし、今はみんな休憩しようよ」

 先ほどまでの緊張感などまるで嘘のような間延びした口調で、早苗がミケさんを抱っこしながら近くの倒木に腰を下ろした。ちょうど、人間が腰掛けるのにいい高さの倒木が横たわっていたりする。

 そして、また「ふふふ・・・」と、何の意味があるのか、ミケさんが不敵な笑みを浮かべていた・・・。

「キノコ狩りも後回しだな・・・毒キノコばかりだけどな」

 レシピ通りの毒キノコをそろえてどんなポーションができるのやら・・・と、少し考えてから、晶はかぶりを振る。まあ、魔女殿の調合の腕を信じるしかあるまい・・・どこにどんな使い道があるのかは知らないが。

「まあ、わしが十分に動けるようになればどちらもすぐに再開できるんじゃがな。さっきので、さすがに疲れたわい」

 モリガンは、だらしなく地面に横たわっている。もともと、古風な喋り方もあって、年齢に似合わず年寄りくさく見えるモリガンであった。

「お前な・・・この中じゃ一番若いんだろ、しっかりしろよ・・・」

「晶ニョ言う通りニャ!一番年上である吾輩は全く疲れておらんニョだ」

「お前はただ酒飲んでただけじゃねえか!」

 一応、一部ではあるが、役に立つアドバイスをしたので、ミケさんもそれなりに役に立ってはいるのだが、普段が全くの役立たずであるだけに、残念ながら評価はとことん低いミケさんであった・・・。

「まあ、この穴を掘っていたやつは気になるが、先にキノコ狩りの方を済ませちまおう。おっと、毒キノコばかりだから、直接手で触れないようにな」

 モリガンがようやく立てるようになったのを見計らって、晶たちは再び毒キノコ狩りを再開したー。

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