テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

その頃の和泉姉弟（奏多視点）

　僕と鏡香姉さんにとっては、今日は久々の休暇となるー。

　もちろん、前文明時代のように、労働すべき曜日というものが特に定められているわけでもなく、自主的に休む時間を決めているにすぎないのだが、ここ最近はかなりの多忙を極め、なかなか思うように休むことができないでいた。

　今日から数日は、日向荘も休むことができるー。

　厄介な大型の蟲や亜人種型デミヒューマンタイプも、今のところなりを潜めており、少なくともここ数日はゆっくりできそうだ。

　今、僕たちは日向荘の縁側にいる。僕が姉さんを膝枕しているのだ。今までかなり忙しかったので、姉さんもかなり無理をしていたのだろう。しばらくの間は休ませてあげたいところだ。

　すやすやと、安らかな寝息を立てる姉さんの顔は、双子の弟である僕から見ても綺麗で、愛おしかった。もっとも、双子なのだから、性別は異なるとはいえ僕も彼女と同じ顔をしているはずなのだが、そうすると、僕自身はナルシストの気があるのではないかと思えてしまった。

　この可愛らしい寝顔を見ていると、つくづく姉さんのことを猫のように思ってしまう。前に、晶君に対して姉さんは猫みたいに可愛いといったところ、かなり微妙な表情をされた。ウーム、どうやら日向荘のみんなは彼女に対して異なるイメージを抱いているらしい。

　姉さんの、緩くウェーブがかかった薄紫色の髪を撫でてあげる。本当なら、さらに喉もゴロゴロしてあげたいところだが、さすがにそれだと本当に猫になってしまう。頭だけにしておこう。

　双子の姉弟－ではあるが、僕らは、両想いだー。

　こういうと、大抵の人は僕たちに抵抗を感じるだろうが、僕らは想い合っている。それは、嘘をつくことのできない、純粋な僕らの気持ちだった。さすがに、チームメンバーがいる場面では普通の双子の姉弟として振舞っているが、二人きりの時だけは、どうしてもこの愛しい姉さんに対する気持ちが抑えきれなくなる時があるー。

　ファーストキスの相手も、やはり彼女だった。これも、僕らだけの秘密であった。

　多分、僕は彼女以外の女性を好きにはなれないだろう。重度の姉依存症だと言われても仕方がない。肉親同士を恋愛の対象としてしまうのは、社会的には受容されないのもわかっている。

　でも、この気持ちだけは変わらないーおそらく、生涯に渡って。

　そして、彼女もそれは、僕と同じはずだー。

　彼女の薄紫の髪が、日の光を浴び、繊細な光沢を放ちながら、僕の膝の上で揺れる。日向荘の縁側に吹く暖かな春の風が、彼女の体から放たれる甘い香りを僕へと届けてくれる。姉さんの香りは大好きだったー幼いころから。

　僕の膝の上に安心して頭を委ねている彼女の顔は、まるで幼子のようだった。思わず、その柔らかな唇を奪いたくなるー。

　だが、今はただ眠らせてあげよう。そして、彼女が目を覚ました時に、それを求めようーいつものように。

ーー

「ん・・・」

　姉さんが目を覚ますー僕は、それを待っていたかのように、

「おはよう、姉さん」

「ん、奏多君、私、どれくらい寝てた？」

「小一時間ほどさ」

　実際にはそれ以上眠っていたのだが、それは秘密にしておこう。

　僕は、まだ半分微睡んでいる彼女に手を差し伸べる。

「久しぶりに二人きりだね・・・姉さん」

「そうだね、奏多君」

　僕たちは、どちらからということもなしに、お互いの唇を重ね合わせた。

「んん・・・」

　この柔らかさと暖かさは、いつも変わらない。姉さんそのものだった。

　ただこうして、二人で過ごすことこそが、僕らにとっては贅沢な時間であり、そして、少し状況が違えば消えてしまいそうなはかなさと、愛する人と素の姿をさらけ出している濃密さが混在した空間ー。

　僕らが守りたいのは、こうした、ささやかで、それでいながら何人にも侵されない力強さを秘めた、時間と空間。

　そのために、僕らは戦っているのだー。