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土竜の街は・・・?(第9話)

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 晶とセラの長い長い世間話は、ようやく一段落ついたー。セラは、晶たちに軽く挨拶をすると、近くの小道へと入っていった。どうやら、この近くに宿を取っているらしい。

「すまん、夢中になりすぎた・・・」
 
 一つのことに夢中になると、周囲の物事が見えなくなるという自覚があるのか、晶はバツが悪そうに頭を掻きながら、みんなに謝罪した。

「まあ、わしはええけどな。晶が一つのことに集中すると周りが見えなくなるのはよくわかっておるつもりじゃし」

「うんうん、私もOKだよ。気にしてない」

オスというもニョは、誰であれそういうところがあると言いますからニャー」

「おいらの方も問題ないぞ、晶」

 みんな、理解してくれる連中でありがたかった。

「さて、そろそろおいらの家に着くぞ」

「おお」

 地上のモリガンのアトリエから数時間、途中ある程度休憩を挟んだとはいえ、ほとんど歩きっぱなしの半日だったので、さすがにみんな足がパンパンであった。

「悪いな、ベンジャミン。疲れているだろうに、さらに長話までしてしまって」

「おいらは別に構わないぞ。この程度の移動なら慣れている方だし」

「まあ、わしらはさすがに疲れたのう。特に、わしの場合は歩きよりも浮遊術で飛び回る方が得意じゃて」

 そういえば、モリガンはどこへ移動するにも浮遊術を活用していた。今回みたいに長距離を歩きで移動するのは、彼女からしてみれば珍しい方だろう。

 ちなみに、モリガンは魔女ではあるが、よくおとぎ話やファンタジーにありがちな「箒にまたがって飛び回る」ということは一切しない。これは、彼女自身の感想であるが、一度過去の逸話に倣って箒にまたがって飛ぼうとしたところ、とてもバランスが悪く、スピードなんて出せるものでもない。さらにはお股が痛くなりすぎて、とてもではないが実用的ではないという話だった。

「あんなものは、所詮、前文明時代の空想の産物にすぎんわ」

と、かつて彼女が力説していたのを思い出す。

 ・・・まあ、実際に試してみたからこその感想ともいえよう。

 浮遊術には、風を操る場合と、局所的に重力を制御して疑似的に飛行する場合がある。どちらかといえば、重力制御の方が高度ではあるが、モリガンの場合は後者の方が使いやすいらしい。この辺りは、さすがに「秋の領域最大の魔女」を自称するだけのことはあった。

「我輩も疲れましたニャー」

 ミケさんの髭がだらしなく垂れ下がっている。表情は、相変わらずの糸目ニャンコなのだが、髭の角度で疲労度が判別できるのだ。

「・・・お前さんの場合は、半分以上清野に抱っこされていたけどな・・・まあ、それはともかく」

 晶はコホンと軽く咳ばらいをしながら、

「ベンジャミン、悪いな、ここまでしてもらって」

「なに、いいってことよ。うちの子供らや嫁さんもきっと喜ぶだろうし」

「土竜さんの家族、早くご挨拶したいな~」

 早苗は、早くベンジャミンの家族に会いたくて仕方がないようだ。

「というわけで、ここが我が家だ」

 ベンジャミンに案内されて向かった先は、旧市街の真ん中あたりにある一軒の民家だった。レンガ造りの家で、旧市街の雰囲気にぴったりの作りをしていたー。

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