テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

ミケとポン太

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カルミナとブラーナ(第22話)

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「幻覚だって?」

 翔が驚愕の表情と共に、黒羽を振り返る。

「そうですね、あの花弁・・・もともとは強い幻覚作用を引き起こす植物で、麻薬などの原料にもなっていたようです」

「麻薬の原料か・・・なんでそんなものをこいつは右肩に生やしているんだ?」

「おそらく、この害蟲がその植物を取り込んだのでしょう・・・それを、自身の魔力で生育を速め、活性化させたのがあの花弁だと推測できます」

 黒羽が指し示す先にある花弁は、今この瞬間にも紫色の気体をまき散らしている。このまま散布され続ければ、やがて三人とも幻覚に冒されてしまうだろう。

「どのような幻覚作用を引き起こすかまではわかりませんが、麻薬の原料ということからもわかる通り、強い常習性を持っているのは間違いないかと」

 前文明時代にも、麻薬のせいで国を滅ぼしたという記録はある。アヘンの蔓延により当時の列強国の侵略に遭い、蹂躙された国もあるほどだった。現在までの記録に残っているものでは、「アヘン戦争」がある。

「これは・・・害蟲とかいう以前に、何が何でも倒さなきゃいけない相手のようだな・・・」

 卓が顔を引き締めて、敵を見据える。敵は、紫色の気体を辺り一面にまき散らしながら、三人を待ち構えている。どうやら、敵の方はいつでも迎え撃てる自身があるのだろう。

「・・・一人腕一本狙いってのはどうだ?」

 翔が両手に装着したツメを鳴らしながら、後ろにいる二人に尋ねた。

「その前に、あの花の毒を何とかしないとな・・・」

「幻覚物質を抑えるのであれば、私の能力も活用できますが・・・ただ、100%完全耐性というわけではありません。どのみち、敵に接近する際に、いささかなりとも幻覚物質の影響は受けてしまうでしょう」

 黒羽の周囲には、いつの間にか無数の黒い羽根が舞い散っている。その羽根が、より黒々と輝き始めた。

「その羽根で抑えるのか」

 翔も卓も、黒羽の能力を全て知っているわけではない。前に一度戦った時に、いくらか彼女の能力を目にした程度だ。戦い以外の普段の場でも、探索系の能力以外使ったのを見たことはない。

「そうですね」

「お前の羽根って、色々なものに利用できて便利だよな・・・いまいち能力の正体がわからないけど」

「翔、誰もが人に言えない秘密というものを抱えているのですよ」

 黒羽は、ウィンクのつもりなのか、軽く左目を閉じ、人差し指を上に向けながら悪戯っぽい笑みを浮かべた。普段の陰気な彼女には珍しい表情だけに、翔も卓も少なからず驚く・・・と、共にー。

 ーーマジ、可愛いーー

 ・・・思わず鼻の下を伸ばしてしまう二人であった。

「とにかく、私の能力である程度は毒は抑えられます。そこで・・・」

 黒羽は、再び表情を戻し、今度は敵の花弁を指さした。

「まずはあの花弁を速やかに潰しましょう。私が時間を稼ぎますので、お二人ともお願いします」

「わかった」

「おう、任せろ」

 黒羽の作戦に従い、翔と卓は敵の花弁に狙いを定めることにしたー。
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