上 下
231 / 464

水無杏里の物語(第30話)

しおりを挟む
 カイトの脳裏に、チームマスターである「親父さん」が厳重に保管していた、用途のよくわからない遺物の姿が浮かび上がった。

「確かに・・・蒼き風アウラ・カエルレウムには、親父さんー僕たちのチームマスターが厳重に保管しているものがいくつかあります。やつらの狙いがそれだと・・・」

「可能性は高いな・・・そもそも、なんで君たちはやつらと戦っていたんだ?」

 そう言えば、楓もモリガンも、なぜカイトたちが燎原リンイェンの連中と戦うことになったのか、その経緯については確認していない。使い魔で戦いの様子を見ていたモリガンも、途中からその様子を窺っていたにすぎないのだ。

「いきなり襲われた・・・というわけでもないんだろう?」

 楓に尋ねられて、カイトが少し思案顔になりながら静かに答えた。

「もともと、僕たちはこの空域にいると言われている神威を探していました。何週間か探し回って、そして、実際に神威らしきものを見かけて、そこに行こうとした時ー」

 そこまで語ってから、しばしカイトが沈黙する。

 ちなみに、神威とは、前文明時代には神話や伝説上の中で語られていた神々のことで、それが、現文明になり、魔力が世界中いたるところに発生したことで、顕現化したものだとされている。上級の魔法使いであれば、神威を「召喚」することさえ可能なのだ。

 魔力の量だけでいえば、モリガンでも神威の召喚は可能だろう。ただ、モリガン自身には神威と契約して従えるという意志はない。はっきり言えば、モリガン自身が単に神威に関わりたくないだけだったりするが・・・。

 ちなみに、モリガンの母であるエレオノーラは、実際に神威と契約を結んで召喚したこともある。その様子は、娘であるモリガン自身も見ていた。

 神威の力は、確かにすさまじい。秋の領域最大の魔女を自称するモリガンも、そのことは認めざるを得なかった。

 ゆえに、あまり神威とは関わりたくないとも同時に思ったものだった。有り余る力を持つとろくなことがないということを、彼女は「継承の儀」で受け継いだ「魔力の叡智」から悟っていたからだ。

 しばしの沈黙の後、ようやくカイトが話を続けた。

「そこに、あいつが・・・紫の牙ズーツァオリャが現れたんです。どうやら、やつもその神威を狙っていたらしく、それで・・・」

「結局は戦闘になった・・・というわけか」

 戦いの顛末は、先ほどモリガンが語った通りだった。2人の先輩は倒され、結局はカイトだけが何とか生き延びたのだ。

燎原リンイェンのやつらも神威を狙っていたというわけか・・・しかし、出張ってきたのが寄りにもよって最強クラスの飛空鎧アルマ・ヴォランテスだったとは、なんともはや」

 これは、一筋縄でいかない相手に目をつけられたものだーと楓は頭を振った。燎原リンイェンは、古代遺物だけでなく、神威まで狙っていたのだー。



 
しおりを挟む

処理中です...