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モリガン一人旅(第25話)

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「ようやく来たか・・・待ちくたびれたよ」

 森の真ん中ー桐ケ谷楓のアトリエにたどり着くなり、家主の楓から文句を言われるモリガン。

「久しぶりの空旅行じゃて・・・いろいろと見るものが多かったのじゃよ」

 実際、これまでに珍しい出来事を見てきた。特に、飛空鎧同士の戦いや、邪術師、東方の女剣士と、旅の土産話には事欠かないはずである。

「お待ちしておりましたぞ、モリガン様」

 ホーホウと、フクロウ特有の不思議な鳴き声が玄関に響き渡る。楓が勝手に自身の執事にした、魔法フクロウのホルルだった。

「久方ぶりじゃな、お主も・・・さっそく上がらせてもらうぞ」

「ホーホウ。お部屋までご案内いたしますぞ」

「先に居間でくつろいでてくれ、後から行く」

 ホルルがモリガンを居間まで案内する。もっとも、モリガンもこの家には何度も足を運んでいるので、どこに何があるのか全部把握はしているが、案内も執事たるホルルの役目である以上、無下にすることもできない。

「では部屋で待つとするかのう」

ーー

「ほれ、これがお土産じゃ・・・頼まれていた大樹の鉱石を持ってきてやったぞ」

 楓が居間に入ってきたので、先にくつろいでいたモリガンが、頼まれ物を差し出した。小さな麻袋に入ったそれは、七色に輝くなんとも幻想的な鉱石で、大樹で生産される結晶体の一つだ。特に、魔力内包度が高いというわけでもないのだが、その美しさから観賞用としてしばしば用いられている。

「サンキュー。さっそく部屋に飾っとくよ」

 麻袋から取り出した鉱石を確認し、思わず顔をほころばせる楓。ほとんど出不精の彼女にとって、外の世界とのつながりがあるのは、唯一モリガンだけだったりする。

「・・・相変わらずの引きこもり生活か・・・お主の人嫌いも大概なもんじゃのう」

 なにせ、外出するということがほとんどない彼女である。大樹どころか、おそらくはこの浮遊大陸の付近の町すらほとんど出向くことはないだろう。

「私にはお前さんがいる・・・それに杏里やこいつもいるし、今のところそれで十分間に合ってるよ」

 こいつ・・・とは、魔法フクロウのホルルのことを指している。

「杏里・・・というのは」

 モリガンが、先ほど使い魔に様子を探らせていたあの白いワンピースの少女のことだ。先ほどの飛空鎧の乗り手の少年とその白いワンピースの少女との会話の内容は知っているので、やはりあの娘が楓の家に週一で通い詰めていた楓の顔見知りだということになる。

「確か・・・お主の世話をしてくれている女子じゃな」

「世話なんて人聞きが悪いなぁ、彼女とはお友達だよ」

「友ねぇ・・・」

 なんとも皮肉っぽい声色で適当に相槌を打つモリガン。まあ、楓の数少ない顔見知りであるのは間違いないが。

「ちょうど、彼女がこの辺りに不時着した飛空鎧の乗り手と会話しとったのでな・・・気になって使い魔に話の内容を確認させたのじゃ」

「ああ、彼女はちょうど、私の家から帰るところだったからね・・・って!」

 楓が突然驚きの声を上げる。それを聞いて、これまた少しばかり慌てるモリガン。

「な・・・何じゃ、どうしたのじゃ?」

「ひ、飛空鎧が不時着しただって!?」

 ・・・今更ながらに、そのことについて吃驚する楓であったー。
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