テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

咲那・全裸の逃避行（第25話）

　場面は変わって、再び咲那ー。

「・・・やべえ」

　今、咲那は局部だけを隠した状態で、森の中を逃げ回っている。さっきまでは、火を焚いて取った魚を焼いて食べていたのだが・・・。

「まさか、あいつら夜にも捜索すんのかよ！！」

　なんと、一旦町まで戻っていた依頼人たちが今度はさらに多くの人間を連れて戻ってきたのだ！・・・どうやら、昼と夕方に限られた人数で探しても見つからない咲那を本格的に捜索しようというらしい。

「・・・ああもう！！」

　本当に、親切過ぎて困る連中だ・・・せめて、今日はもう諦めてそのまま帰ったままでいてくれたらよかったのに。

　明日の朝になれば、鏡香に連絡して、あいつらから逃げ回りながら、別のところにランデブー地点を決め、そこで落ち合うということもできたのだが・・・。

「今は無理だろ、まだ鏡香は泊ってるだろうし」

　鏡香の話では、一旦近くの旅館に泊まり、明日の午前中にこの島行きの便に乗るとのことー当然、今、彼女に連絡しても意味はない。無用に心配させるだけだ。

　さらに始末の悪いことにー。

「あたしの焚火の跡が見つかったからな・・・この近くにいるってことはばれちまったぞ、もう」

　咲那が先ほどまで使っていた焚火の跡を見つけた彼らは、咲那がこの森の中にいることを確信して懐中電灯などの灯りを片手に探し回っているというわけだ。

「こりゃ・・・一旦ここを離れる必要はありそうだな・・・」

　木陰から、捜索隊の姿を確認して、冷や汗をかきながら、咲那は独り言ちる。はっきり言って、下手な害蟲よりも面倒な連中であったー。

「・・・ある意味、あたしが今まで相手してきた中で、一番厄介な連中なんじゃねえか・・・」

　口元を引きつらせ、苦笑いを浮かべながら、木と木の間を素早く駆け抜ける咲那。ほぼ裸だから、あまり森の中を動き回りたくはないのだが、捜索隊に見つかるよりははるかにましである。

「さっきの洞穴は・・・やっぱり調べられてるよな・・・きっと」

　おそらく、捜索隊は付近一帯を洗うだろう。当然、一度は身を隠していたあの洞穴も、その対象となるのは目に見えていた・・・。

「・・・一旦、幹線道路に出て・・・ああ、いやでも、別のやつらが待機している可能性もあるしな・・・」

　咲那には、もちろん逃げ切る自信もあったのだが・・・。

「あんまり近づきすぎると、ドライブレコーダーに映っちまう可能性もあるしな・・・車の影を縫うというのも、いささか冒険が過ぎるか・・・」

　森の中を、車が止まっていない方の斜面まで移動しながら、幹線道路上に逃れ、その後はー。

「多分、あいつらはここいらの森を丹念に調べるだろうから、反対側や頂上の方までは、そうそう来ないだろうが」

　夜の捜索ともなれば、あまり捜索範囲を広げるとも思えない。何より、彼らは咲那の焚火の跡を見て、この森を重点的に調べるだろう。その間に、人がいそうにない側に逃れて、一晩待った方がいいかもしれない。

「参ったな・・・こりゃマッパで徹夜となりそうだぜ、マジで」

　頭をぼりぼりとかきながら、未だ森の中を照らして回る懐中電灯の明かりを観察する咲那ー。

「ふう」

　こりゃ、今日は今日で最悪だーと愚痴をこぼしながら、咲那は幹線道路上を疾走したー。