テキトーすぎな《ユグドラシル》の皆さん

ミケとポン太

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我ら悠久王国なり(第1話)

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 チーム《ユグドラシル》が、カイトや杏里と不思議な邂逅を果たし、その後モリガンが行方不明になる少し前ー。

 天空ーに浮かぶ巨大な城ーとはいえ、この城自体は、普通には認知することはできない。その特殊な次元結界のため、位相をずらされており、少なくとも普通の手段では認識できないようになっている。

 座標でいえば、大樹よりはるか北東に位置しているのだが、本来その空域には何も存在せず、人が訪れるようなこともない。また、訪れたとしても、空間の位相そのものをずらされてしまっているため、この世界の住人達は、この城に接触を果たすことすらかなわないのだ。

 この城は悠久王国レギューム・エタールヌムの拠点である。数名の不死者が最高幹部を務め、その下に不老の力を授かった幹部クラスの戦士たち、あとはまだ不老の力すら与えられていない私兵により構成された組織だ。

「王国」とは名乗っているものの、実際には臣民などおらず、不死者とその信奉者のみで構成されており、特に領土なども持たないことから、正式な国家とも呼べないーこの世界での共通認識として、彼らはテロリスト扱いだ。

 その城にてー。

 長い廊下を歩く一人の青年の姿があった。名を来栖忍という。ノーブルゴシック的な服装に、手には紅い球体が嵌められたステッキを携えている。旧文明時代の和名を名乗ってはいるものの、その顔立ちはどちらかと言えば北欧系のように彫りの深いもので、黒々とした髪と瞳が、そのノーブルゴシック的な服装によく似合っている。年の頃は20歳前後に見えるが・・・。

「さて・・・司は今起きているか・・・?」

 この城の主であり、来栖にとっては唯一無二の友でもある結城司の部屋へと向かう途中だ。もっとも、司の下へとたどり着くには、幾重にも及ぶ魔法結界のカギを外す必要があるが、それも今や手慣れたものだった。

 かつて、前文明時代において、ソビエト社会主義共和国連邦という国家があったそうだが、その2代目の独裁者ヨシフ・スターリンは、その猜疑心から、暗殺を恐れて毎日のように寝室を変えていたという。小心者で、誰も本心から信じることができなかったこの男は、恐怖で人を支配した。だが、スターリン自身も人に対して恐怖していたのだ。

 いつ自分が寝首をかかれることになるやもしれぬーという猜疑心は、やがて「大粛清」という形でこの世に現出した。全て彼自身の恐怖から生み出された悲劇だった。

 恐怖国家とは、ただ国民が支配者に恐怖するだけではなく、支配者側もまた国民に恐怖するからこそ成り立つのである。

 ・・・しかし。

「司の場合、毎日のように部屋を変え魔法結界を張り巡らせるのは、恐怖というより単なる戯れだがな・・・」

 死を恐れる必要のない不死者にとって、他者に対する恐怖も希薄なものだ。何者も、自分の存在を脅かすことはできないからである。よって、司が毎日のように部屋を変えて魔法結界を張り巡らせるのも、単なる彼の気まぐれースターリンのように、自分の身を守るためにやっているわけではないのだ。

 さらに言えば、司はこの悠久王国の主であることからもわかる通り、その戦闘能力は最強である。つまりは、誰も彼を脅かすものなどいないーそれが現実だ。

「そして私も、やつの戯れに毎度付き合ってやっているわけか・・・」

 皮肉気に独り言ちながら、来栖は主の間へと続く道の魔法結界を順番に解除していく・・・最初は解除するのにかかった時間も、今やもはや一瞬だ。

 最後の魔法結界を解除した時に、目の前に現れたのは扉だ。この扉を開ければ、彼の主がいる。

「まあ、やつの戯れに付き合うのも暇つぶしにはなるがな」

 時間は無限・・・そんな彼らにとっては、このような一見すると意味のないことでも十分暇つぶしとなる。

 来栖は、扉に手をかけ、主の待つ部屋へと足を踏み入れたー。
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