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続・モリガン一人旅(第13話)

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「待て、ガレスとやら」

 アサギが刀を抜き、ガレスの目の前に突きつけるー。

「その二人のことは知らんが、少なくとも、お前たちだけはこのまま見過ごすわけにもいかん・・・私の方からお相手をしてもらおうか」

「おや・・・」

 ガレスが、自分に刀の切っ先を向けるアサギを、さも愉快そうな表情で見やる。

「もちろん、あなたのことも忘れてはおりませんよ・・・あなた方3人に、我が城へとお越しいただくつもりですので」

「誰が貴様らの城などに・・・この場で斬り捨ててくれるわ!」

 アサギが叫ぶのと同時に、仮面とローブを身に着けた男たちが、アサギに一斉に襲い掛かる。

「・・・!!」

 アサギが刀を横なぎに一閃する。4人の手下のうち、一人がもろに腹部を斬られて鮮血をほとばしらせた。彼から大量に放たれた血液が、本棚の書物を汚していくー。

 そればかりではない。刀から放たれた衝撃波が、後ろの本棚を無残に切り裂いたのだったー。

「あああ!!」

 楓が、もはや言葉にもならない悲鳴を上げた。

「・・・あ、ああ、なんてことしてくれるんだ!?そこにある本は、今ではもう手に入らない貴重なものばかりなんだぞ!!」

 楓の書斎には、もう普通では手に入らないような古書が多く収納されていた。中には、所有しているだけでかなりの値打ちとなる初版本などもある。これでは、楓でなくとも悲鳴を上げたくなるのも当然と言えよう。

「歴史書の値打ちもわからんくせに、好き勝手なことするな!!」

 自分も今危険な状況にあるというのに、本のことを真っ先に気にしてしまう辺り、楓らしいと言えば楓らしい。

「ええい、今は本のことより、この状況をどうやって打破するかじゃろうが!!」

 古書を台無しにされ、喚き散らす友人の正気を取り戻すべく、怒鳴りつけるモリガン。

「・・・あのアサギという女子、腕は確かに立つ・・・あやつに任せておけば、この場はうまく切り抜けられるかもしれん・・・」

 一人を見事斬り伏せたアサギを見て、モリガンは何とかそこに活路を見出そうとする。

 一方、ガレスは、倒れた部下を冷めた表情で見下ろしながら、

「まったく、不老の力すら授かっていない雑魚ではお話にもなりませんね・・・」

「ああ、それに関しては全くの同感だ。こんな奴ら、例え100人200人でかかってこようが、私の敵ではないぞ」

 モリガン達を抑えている二人とガレスを除き、敵は後3人ー。

 だが、たかが下っ端の構成員など、東方有数の使い手であるアサギにかかれば物の数にはならないだろう。

「・・・だが、ここはちと狭いな・・・今からしてやろう・・・ガレスとやら、そうすれば貴様とは思い切りやり合えそうだしな」

 アサギが、口角を釣り上げ、不敵な笑みを浮かべながら、自身の闘気を高めていくー。

「貴様は少しは骨がありそうだしな・・・」

 ただならぬアサギの様子に、このアトリエの家主である楓が狼狽し始めた。

「お、おい・・・広くするって、どういうことだよ・・・!?」

 ものすごく嫌な予感がするーそして、そういった予感は、往々にして当たるものであるー。
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