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黒羽一人旅(第5話)

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「そう言えば、アサギと戦う前に、万が一に備えてこの子たちをまき散らしておいたのを忘れていました」

 黒羽の魔力の結晶である黒い羽根を、まるで自らの子供やペットのように慈しむような口調で語る。ある意味、自らの魔力から生まれたものだから、「我が子」と言えなくはないのだが・・・。

「この子達を通して、今モリガン達がどうしているのか確認しましょうか」

 ゼルキンス村へ徒歩で向かいつつ、黒羽はあらかじめ村の中にまき散らしておいた黒い羽根に意識を同調させた。これにより、村の今の情景が脳裏に映像として再生されるのだ。

「・・・カルミナは、何もない村だと言っていましたが、本当に何もない村ですね」
 
 皮肉気に口角を上げながら、独り言ちる黒羽。カルミナの名を呟いて、ふと《ラピュタ》のメンバーのことを思い起こす。

アサギとの戦いの果てに、自らが邪術師であり、いずれは周囲に禍をもたらす存在になることが同じチームの面々に知られてしまったが、それでも《ラピュタ》のメンバー達は彼女を今まで通り仲間として受け入れ、さらには彼女を救う手立てがないか、色々と方々を当たってくれるようになった。最初こそ黒羽を懐疑的に見ていたブラーナも、最初から彼女の正体に気が付いていた武人も同様である。

「まったく、お人好しばかりですね、うちのチームは」

 感謝してもしきれないーどこへ行っても迫害の対象でしかない自分を救うために、色々と手を尽くしてくれる面々は、黒羽にとってはかけがえのない宝物である。

「・・・きっと、あなたのチームも同じなんでしょうね、モリガン」

 黒い羽根を通し、ゼルキンス村にたどり着いてからのモリガン達の足取りを追っていた黒羽は、ある一軒家において、なんとも幸福そうな寝顔をしながら横たわるモリガンー現在はメリルの姿を見て思う。

 この子は、同じチームの仲間たちに大事にされているのだなーと。

 このモリガンという少女は、元々は大樹のある領域に住む魔女であったらしいが、今は大樹のチーム《ユグドラシル》に在籍しているというのは既に確認済みだ。《ラピュタ》は空、《ユグドラシル》は大樹ーお互い、活動の領域は異なるものの、今のモリガンの様子を見ていると、何となくだが《ラピュタ》も《ユグドラシル》も似た者同士なのではないかと思う黒羽であった。

「今行って、起こすのはさすがに気がひけますが・・・同じ民宿に「偶然」泊るくらいならいいのではないでしょうか」

 誰の影響かー少々質の悪い悪戯を思いついた子供のような表情で、黒羽はほくそ笑んだ。

 夜の闇がさらに深くなるー。



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