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黒羽一人旅(第10話)

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 黒羽が、モリガンの使い魔にちょっとした細工をした直後ー。

「おや、あれは・・・」

 ちょうど、黒羽がいる通り道に、メリルとアメリアが通りかかったところだった。

「あら、女子学生さん・・・もうお出かけになっていましたか」

 そう声をかけてきたのはメリルーつまりはモリガンの方だった。アメリアの方は、特に黒羽の方を見るわけでもなく、一面の綿花畑を眺めている。

「そうですね・・・まあ、自由研究の傍ら、久しぶりの田舎の風景を目に焼き付けておきたいと思いまして」

 黒羽は、今のところ北方の都市にある学校に通う女子学生ということになっている。

「ああ、そういえば、先ほど名前を名乗るのを忘れていましたね・・・申し訳ありません。私は白木真央しらきまおと申します」

 さっき、民宿の廊下で会った時に、名前を名乗り忘れたことを思い出し、謝罪しながら偽名を告げる黒羽。即席で思いついた名前なので、果たして怪しまれないかどうか、自身はなかったが。

「白木さん・・・とおっしゃるのね。そう・・・田舎は久しぶりなんですね」

「そうですね・・・ずっと学校の寮で暮らしていましたから、なかなか校外に出る機会もなかったもので、羽根を伸ばそうかな、と」

 学校の寮ーというのはもちろん嘘ではあるが、しかし、外に出る機会がなかったというのは、あながち間違いというわけでもない。実際、黒羽は邪術師の体質ゆえに、「白波号」の外に出る機会はあまりなかったのだった。最近までは、そのことについて特に不満はなかったのだが・・・。

「あら、寮生さんだったのね・・・親元を離れての学業は大変でしょう?」

 特に、こちらの様子を怪しいとも思っていないようだ。親し気に世間話をしてくるメリルに親しみを覚えつつ、自分はメリルの正体を知っているということで、彼女をだましているといううしろめたさも同時に感じていた。

「まあ、でも寮の中なら安全だし、友達もいるので、何とか楽しくやっていますよ」

 寮ではなく、飛空船の中で、友達というより仲間たちと一緒に楽しくやっているというのが、黒羽の現状である。邪術師という立場でありながら、これほど恵まれていることもないと、改めて実感した。

「おい・・・」

 アメリアが、メリルを小突いた。そろそろ話を切り上げろというジェスチャーらしい。

 確かに、道端で長々と立ち話しするのも、そろそろ終わらせるべきかもしれない。自分の正体がすぐにばれるということも無いだろうが、何がきっかけで露見するのかわからない以上、あまり親しく話しすぎるのも避けるべきだ。

「ごめんなさいね、白木さん・・・もっとお話ししたかったけど」

 メリルが、アメリアの顔をちらっと盗み見て、

「私たちもそろそろ行くわ・・・それじゃあ、自由研究、頑張ってね」

 メリルが手をヒラヒラ振りながら、アメリアを伴って歩いて行ったー。
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