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日向荘にて(第3話)

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「悪い、待たせたな、カイト」

 縁側で騒いでいたミケさん達を一喝し、中庭へと戻ってきた晶ー。

「いやあ、僕の方は全然OKだよ」

 カイトはいつでも晶を迎え撃てるように準備万端といった感じだった。

「カイトの獲物は・・・魔法剣か。本当なら、咲那姉から教わるのが一番いいんだろうが」

 晶は、エメラルドグリーンの刀身を生やした自身の魔笛をちらっと一瞥してから、

「オレだって、剣の扱いに関しては、それなりに自身はある。というわけで、さっそく始めるか、カイト!!」

「ああ、頼むよ、晶」

 カイトも、自身の魔法剣の具合を確認してから、改めて晶と向き合った。

「では・・・勝負開始!!」

 言うが早いか、カイトは晶めがけてそのまま斬りかかってきた。

「動きは速いな・・・さすが、空のチームで鍛えられただけはあるな、カイト」

 カイトの魔法剣を魔笛剣で受け止め、その威力と速さを改めて確認する晶。激しい鍔競り合いとなった。

 カイトには、速さとパワーがある。だが・・・。

「なるほど、確かに速さと力はあるようだ・・・でもなカイト。魔法剣ってのは、ただ斬り合うだけの剣術とは異なるんだよ」

「!」

 晶の魔笛剣の刀身の光が、さらに強くなる。そして、カイトの魔法剣が、弾かれたー。

「・・・どういうことだ?」

 お互いの剣は切り結ばれていたはずだったが、まるでカイトの剣が、棒で壁を叩いて弾かれたような挙動を示した。当然、魔法剣を構えていたカイトも、その勢いのまま後ろへよろめいてしまう。

「単純にスピードとパワーだけならば、わざわざ魔法剣にする必要もないだろ?」

 魔力を帯びてこその魔法剣ー晶はそう語った。

「僕の剣も魔力を帯びているはずなのに・・・」

 カイトが納得いかないといった表情で自身の魔法剣を見つめる。

「確かに、お前さんの剣にも魔力は宿ってるさ・・・しかも、なかなかに強い」

 そう言うと、晶は自身の魔笛剣に対し、今度は今までとは属性の異なる魔力を宿らせ始めた。

「・・・!?」

 いや、正確に言えば、魔力の属性が異なるというよりも、これは・・・。

「蟲・・・?」

 晶の魔笛剣が放つ魔力の波動は、いわゆる蟲の放つものーそれも害蟲が放つものに極めて酷似しているーによく似ていたのだった。

「まあ、普通は驚くよな・・・これを見せつけられれば」

 晶は害蟲駆除を専門としているチーム《ユグドラシル》の一員のはず・・・その彼が、まさか害蟲を使役しているというのかー。

「ことわざにもあるだろ、カイト?」

 晶が、口の端を歪めて不敵な笑みを浮かべた。

「毒を以て毒を制す、とな」

 悠然と語る晶の魔笛剣は、害蟲特有の黒い瘴気のようなものを纏い始めていたー。
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