上 下
441 / 464

日向荘にて(第12話)

しおりを挟む
 いつぞやの時のように、早苗によって引きずられていくニャンドラゴラーその顔は、いうまでもなく恐怖によって彩られていたー。

「うわあぁぁぁ!!た、助けてくれ~」

 半狂乱になっているニャンドラゴラと、やけに笑顔が眩しい早苗ー対照的な二人の姿を見て、杏里はなぜか、身動きすることができなかったー。

「え、ええと・・・」

「じゃあ杏里ちゃん、ちょっと待っててね~」

 早苗がやけに楽し気にそう告げると、ニャンドラゴラと共に木陰へと入っていくー。

 その後、ものすごく哀れな悲鳴が中庭に響き渡ったー。

ーー

 なんだかやけにボコボコになっているニャンドラゴラと、先ほどと全く変わらない笑顔の早苗が杏里の前に姿を見せたのは、時間にして30分くらい後のことであった。

「待たせたね、杏里ちゃん・・・これで訓練を再開できるよ!!」

 やけに力強く杏里に告げる早苗に対し、肝心のニャンドラゴラの方は、

「・・・」

 もはや、言葉を発するだけの気力もないらしく、ただうなだれているだけである。

「ええと・・・あの、早苗さん・・・いいんでしょうか?」

「・・・?ああ、ニャンドラゴラ君のことなら、気にしなくてもいいよ、むしろ、杏里ちゃんの能力の効き具合を知るには、これくらいはしてもらわないと・・・ね?」

 杏里の問いかけに対し、先ほどと全く変わらぬ満面の笑みを浮かべて答える早苗。まあ、確かに、杏里の治癒能力の効果を実際に知るためには、対象であるニャンドラゴラが満身創痍であった方がいいわけではあるのだが・・・。

 何か、納得してはいけないものを感じながらも、訓練はやらねばならないー杏里は、傷ついているニャンドラゴラを見据えて、遠距離でどれくらいの効果を発揮できるか、改めて予測した。

「さて、それではニャンドラゴラ君・・・もう1回おとなしく縛られててね」

「・・・うひぃぃぃ」

 相変わらずの笑顔を浮かべたまま、ニャンドラゴラを木に吊るしてその動きを固定する早苗。一応、改めて準備完了といった感じである。

「それじゃあ、杏里ちゃん。改めて訓練再開しようか!!」

「・・・はい」

 早苗がやけにハイテンションなのが気にはなったが、今は訓練をやらねばならない。杏里はヒーラーだ。傷ついた者が目の前にいたのであれば、それがだれであれ、救済しなければならないのだ!!

 ・・・例えそれが得体の知れない魔法生物であったとしても、である。

「では、ええと、ニャンドラゴラさん?これから改めて訓練を再開しますので、またよろしくお願いいたしますね」

 こうして、杏里の訓練が再開されたー。
しおりを挟む

処理中です...