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日向荘にて(第11話)

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 ヒーラーとして町で活躍してきた杏里にとって、早苗の指摘はなかなかの難題のようにも思えたー。

「うーん、早苗さんが言うこともわかるんですけど、具体的に、どんな訓練をすればよいのでしょうか・・・?」

 ヒーラーである杏里は非力でもある。それは、彼女が内包している魔力容量と、それを外部へと放出する力にも影響していた。

 もともと、ヒーラーは自分が触れた相手の自然治癒力を高めるか、あるいは術者の治癒魔力を相手の体内に送り込むことで対象を治療するのを専門としている。

 中には、確かに遠距離の相手に対して治癒効果を与える術者もいることはいるのだが、かなり高位に位置する者達であり、当然ながら、そう簡単にはそのレベルに達することはできない。

 また、そう言った高位の者達は、他の能力と兼業でやっていることもあり、単純にヒーラー専門でそのレベルに達している者ともなれば、さらにその割合は限られてくるのだった。

 ・・・そうなってくれば、当然ではあるが・・・。

「実は、私にもどうやればいいのかわからないんだよね~」

「・・・え?」

 あまりにもあっけらかんとした口調で早苗が答えたので、杏里の方も拍子抜けして反応に困ってしまった。何せ、これから杏里を指導しようとする早苗自身が、訓練のやり方をわからないというのだから、当然のことである。

「まあ、まずはこのニャンドラゴラ君を相手に、とりあえず今までみたいな調子で、離れた場所から治癒術をかけていくーと。ああ、ただニャンドラゴラ君が無傷だと、その効果の具合がわからないから・・・」

 そこまで言って、早苗は木に吊るされっぱなしのニャンドラゴラに対して、凄惨な笑みを向けたーどちらかというと、その表情は怒らせた時の鏡香に限りなく近いものがあった。

「さあ、ニャンドラゴラ君・・・杏里ちゃんに思いっきり治療してもらうためにも、ちょ~~っとばかりケガしてみようかな?」

 フフフ・・・と何やら不気味な笑い声もかすかに聞こえたような気がするー当然ながら、哀れなニャンドラゴラは再び恐慌状態に陥ってしまったー。
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