百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

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第2章 確かなもの

第47話 紗耶香というもの

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「・・・だから、お前にそれを求めたんだよ。無理やり犯したのは、お前を敢えて傷つけるためだったんだよ」
 紗耶香の独白に、咲那はにわかには言葉を返せなかった。
「お前が傷ついて・・・その分あたしに怒りをぶつけてくれるのを期待したんだ。お前にキスしたのは、敢えてお前の最初を奪うためさ・・・他でもない、鏡香よりも先に、ね」
 鏡香の名前を出された咲那は、自分でも知らぬ間に手を振り上げ、再び紗耶香の頬を叩いていた。
 パァァン!
 乾いた音が、道場に響く。紗耶香は甘んじて咲那の平手打ちを受けたが、その顔には愉悦の表情が浮かんでいた。
「・・・いい顔だね、咲那」
「はあはあ・・・」
 紗耶香の思惑通りの行動をしてしまったのはわかる。多分、今の自分の顔は怒りと屈辱に満ちていただろう。
 だが、それでもやらざるを得なかった。どうしても、紗耶香を許せなかったのだ。
「そうだ、その顔だ・・・あはは、もっとあたしに怒りをぶつけてよ、咲那。そうすれば、あたしたちはもっと深いところまでつながることができるんだから」
「ふざけるな!!」
 咲那の怒声が道場内に響き渡る。
「お前が、鏡香のことを好きなのは、あたしでもわかるよ・・・何となくだけどね。そして、多分あたし自身は、誰かに対しその感情を抱くようなことはないだろうね」
 張られた頬に手を当て、紗耶香はその瞳を閉じる。まるで、その余韻に浸っているかのような仕草だった。
「この頬の痛みも、そして心の痛みも、お前があたしにくれた繋がり・・・そして、お前の怒りもまた、あたしとお前のつながりになるのさ」
「黙れ!!」
 咲那は、瞳に涙をためながら、咲那を怒鳴りつけるー自分の初めてを奪われた悲痛ー本来なら、鏡香と共にしたかった行為。
 咲那は、近いうちに鏡香に対して自らの想いを告白するつもりでいた。なかなか踏み出せずにいたが、ようやく彼女との約束を取り付けることができたのだ。
 それをー。
「お前が傷つき、あたしにその怒りと憎しみをぶつけてくれる限りにおいては・・・あたしは鏡香には一切手を出さないよ」
 それが、紗耶香の望みだった。
「あたしは、鏡香にお前を独占されるのは嫌だーそれが愛だとか、好きだとか、そんな繊細で曖昧で理解不能なもので、お前を取られるのは我慢ならない」
 それは、歪んだ嫉妬ー自分が相手を好いているから、誰かに奪われたくないというのではなく、他の誰かに奪われることにより、自分に向けられる負の感情が薄まるのが嫌だからーというもの。
 その負の感情は、全て自分だけに向けてほしい、いや、向けられなければならないのだー。
「紗耶香、お前、鏡香をどうするつもりだ?」
 紗耶香は言ったー咲那が自分に怒りと憎しみをぶつける限りにおいては、鏡香には手を出さない、とー
 それは、場合によっては鏡香になにがしかの危害を加える可能性があることも同時に示唆していた。
「言葉通りさ・・・あたしにそれをぶつけてくれるなら、あたしは鏡香には手を出さない。だけど」
 紗耶香は、一旦そこで言葉を区切ると、軽く息をつきながら、
「お前が鏡香のものになるのなら、多分お前はあたしにそれを向けてこなくなるだろう?それは、あたしとしても非常に困るんだよ、咲那。そうしないと、あたしらは繋がれないんだからさ」
「本当に、お前は、そんなやり方でしか、他人と繋がれないのかよ・・・?今までのは、全て演技で、嘘だったってのか!?」
 咲那の問いかけに、一瞬の間を置いてから、紗耶香は当然のように答えた。
「ああ、そうだよ」
 と。
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