47 / 499
第2章 確かなもの
第47話 紗耶香というもの
しおりを挟む
「・・・だから、お前にそれを求めたんだよ。無理やり犯したのは、お前を敢えて傷つけるためだったんだよ」
紗耶香の独白に、咲那はにわかには言葉を返せなかった。
「お前が傷ついて・・・その分あたしに怒りをぶつけてくれるのを期待したんだ。お前にキスしたのは、敢えてお前の最初を奪うためさ・・・他でもない、鏡香よりも先に、ね」
鏡香の名前を出された咲那は、自分でも知らぬ間に手を振り上げ、再び紗耶香の頬を叩いていた。
パァァン!
乾いた音が、道場に響く。紗耶香は甘んじて咲那の平手打ちを受けたが、その顔には愉悦の表情が浮かんでいた。
「・・・いい顔だね、咲那」
「はあはあ・・・」
紗耶香の思惑通りの行動をしてしまったのはわかる。多分、今の自分の顔は怒りと屈辱に満ちていただろう。
だが、それでもやらざるを得なかった。どうしても、紗耶香を許せなかったのだ。
「そうだ、その顔だ・・・あはは、もっとあたしに怒りをぶつけてよ、咲那。そうすれば、あたしたちはもっと深いところまでつながることができるんだから」
「ふざけるな!!」
咲那の怒声が道場内に響き渡る。
「お前が、鏡香のことを好きなのは、あたしでもわかるよ・・・何となくだけどね。そして、多分あたし自身は、誰かに対しその感情を抱くようなことはないだろうね」
張られた頬に手を当て、紗耶香はその瞳を閉じる。まるで、その余韻に浸っているかのような仕草だった。
「この頬の痛みも、そして心の痛みも、お前があたしにくれた繋がり・・・そして、お前の怒りもまた、あたしとお前のつながりになるのさ」
「黙れ!!」
咲那は、瞳に涙をためながら、咲那を怒鳴りつけるー自分の初めてを奪われた悲痛ー本来なら、鏡香と共にしたかった行為。
咲那は、近いうちに鏡香に対して自らの想いを告白するつもりでいた。なかなか踏み出せずにいたが、ようやく彼女との約束を取り付けることができたのだ。
それをー。
「お前が傷つき、あたしにその怒りと憎しみをぶつけてくれる限りにおいては・・・あたしは鏡香には一切手を出さないよ」
それが、紗耶香の望みだった。
「あたしは、鏡香にお前を独占されるのは嫌だーそれが愛だとか、好きだとか、そんな繊細で曖昧で理解不能なもので、お前を取られるのは我慢ならない」
それは、歪んだ嫉妬ー自分が相手を好いているから、誰かに奪われたくないというのではなく、他の誰かに奪われることにより、自分に向けられる負の感情が薄まるのが嫌だからーというもの。
その負の感情は、全て自分だけに向けてほしい、いや、向けられなければならないのだー。
「紗耶香、お前、鏡香をどうするつもりだ?」
紗耶香は言ったー咲那が自分に怒りと憎しみをぶつける限りにおいては、鏡香には手を出さない、とー
それは、場合によっては鏡香になにがしかの危害を加える可能性があることも同時に示唆していた。
「言葉通りさ・・・あたしにそれをぶつけてくれるなら、あたしは鏡香には手を出さない。だけど」
紗耶香は、一旦そこで言葉を区切ると、軽く息をつきながら、
「お前が鏡香のものになるのなら、多分お前はあたしにそれを向けてこなくなるだろう?それは、あたしとしても非常に困るんだよ、咲那。そうしないと、あたしらは繋がれないんだからさ」
「本当に、お前は、そんなやり方でしか、他人と繋がれないのかよ・・・?今までのは、全て演技で、嘘だったってのか!?」
咲那の問いかけに、一瞬の間を置いてから、紗耶香は当然のように答えた。
「ああ、そうだよ」
と。
紗耶香の独白に、咲那はにわかには言葉を返せなかった。
「お前が傷ついて・・・その分あたしに怒りをぶつけてくれるのを期待したんだ。お前にキスしたのは、敢えてお前の最初を奪うためさ・・・他でもない、鏡香よりも先に、ね」
鏡香の名前を出された咲那は、自分でも知らぬ間に手を振り上げ、再び紗耶香の頬を叩いていた。
パァァン!
乾いた音が、道場に響く。紗耶香は甘んじて咲那の平手打ちを受けたが、その顔には愉悦の表情が浮かんでいた。
「・・・いい顔だね、咲那」
「はあはあ・・・」
紗耶香の思惑通りの行動をしてしまったのはわかる。多分、今の自分の顔は怒りと屈辱に満ちていただろう。
だが、それでもやらざるを得なかった。どうしても、紗耶香を許せなかったのだ。
「そうだ、その顔だ・・・あはは、もっとあたしに怒りをぶつけてよ、咲那。そうすれば、あたしたちはもっと深いところまでつながることができるんだから」
「ふざけるな!!」
咲那の怒声が道場内に響き渡る。
「お前が、鏡香のことを好きなのは、あたしでもわかるよ・・・何となくだけどね。そして、多分あたし自身は、誰かに対しその感情を抱くようなことはないだろうね」
張られた頬に手を当て、紗耶香はその瞳を閉じる。まるで、その余韻に浸っているかのような仕草だった。
「この頬の痛みも、そして心の痛みも、お前があたしにくれた繋がり・・・そして、お前の怒りもまた、あたしとお前のつながりになるのさ」
「黙れ!!」
咲那は、瞳に涙をためながら、咲那を怒鳴りつけるー自分の初めてを奪われた悲痛ー本来なら、鏡香と共にしたかった行為。
咲那は、近いうちに鏡香に対して自らの想いを告白するつもりでいた。なかなか踏み出せずにいたが、ようやく彼女との約束を取り付けることができたのだ。
それをー。
「お前が傷つき、あたしにその怒りと憎しみをぶつけてくれる限りにおいては・・・あたしは鏡香には一切手を出さないよ」
それが、紗耶香の望みだった。
「あたしは、鏡香にお前を独占されるのは嫌だーそれが愛だとか、好きだとか、そんな繊細で曖昧で理解不能なもので、お前を取られるのは我慢ならない」
それは、歪んだ嫉妬ー自分が相手を好いているから、誰かに奪われたくないというのではなく、他の誰かに奪われることにより、自分に向けられる負の感情が薄まるのが嫌だからーというもの。
その負の感情は、全て自分だけに向けてほしい、いや、向けられなければならないのだー。
「紗耶香、お前、鏡香をどうするつもりだ?」
紗耶香は言ったー咲那が自分に怒りと憎しみをぶつける限りにおいては、鏡香には手を出さない、とー
それは、場合によっては鏡香になにがしかの危害を加える可能性があることも同時に示唆していた。
「言葉通りさ・・・あたしにそれをぶつけてくれるなら、あたしは鏡香には手を出さない。だけど」
紗耶香は、一旦そこで言葉を区切ると、軽く息をつきながら、
「お前が鏡香のものになるのなら、多分お前はあたしにそれを向けてこなくなるだろう?それは、あたしとしても非常に困るんだよ、咲那。そうしないと、あたしらは繋がれないんだからさ」
「本当に、お前は、そんなやり方でしか、他人と繋がれないのかよ・・・?今までのは、全て演技で、嘘だったってのか!?」
咲那の問いかけに、一瞬の間を置いてから、紗耶香は当然のように答えた。
「ああ、そうだよ」
と。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!
千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!?
百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。
すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる