百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

文字の大きさ
56 / 499
第2章 確かなもの

第56話 怖さ

しおりを挟む
 勅使河原の得体の知れない恐怖を間近に感じた紗耶香と葉月。
 それでも、紗耶香の方はまだ彼女に対しては対抗できる自身があった。しかしー。
「葉月、もう大丈夫だ・・・しかし、まさかあんなのがここに入り込んでたなんてな・・・」
 迂闊にも、葉月を一人きりにしてしまったことが悔やまれた。葉月なら、そう簡単に後れを取ることはないだろうと高を括っていた自分を呪った。
 葉月自身は、まだ紗耶香の胸元に顔をうずめて嗚咽を漏らしている。あの不気味な女にいいようにされたのが、よほどショックだったのかー。
「葉月・・・」
 とりあえず、葉月はいましばらくは安静にさせた方がいいだろう。紗耶香は、葉月を連れて再び保健室へと足を運んだ。
「普通の学校なら保険医がいるんだけどな・・・」
 保険医は、生徒達の体のケガだけでなく、心のケアも同時に行う。しかし、このアルカディア島にそんな人間などいるはずもない。
 結局、自分たちの身に起きたことは自分たちで対処するしかない。
「・・・もう心配はいらないよ、葉月。これからしばらくの間、お前と一緒にいてやるから、もうあんな奴に好き勝手な真似はさせないさ」
 葉月を、先ほどまで二人が寝ていたベッドに腰掛けさせ、まるで子供をあやすように頭をナデナデしてやりながら、何とか葉月を落ち着かせようとする。
 ーこいつ自身、昨日は成城女学院のお嬢様を犯してはいるんだけどなー
 さすがに、その翌日に自分が似たような目に遭わされるとは、夢にも思っていなかったのだろう。
「・・・先輩」
 先ほどの恐慌状態よりは幾分か落ち着いた葉月が、顔を上げて紗耶香を見やる。
「落ち着いたか・・・悪かった、お前を一人きりにして」
 気遣う紗耶香に対し、葉月は少しだけ首を振って、
「いえ、あたしも油断してたっす・・・」
「いや、あいつは・・・少なくとも今のお前ではどうにかなるようなやつじゃなかった・・・もう少し遅かったら、あたしでも止められなかったかもしれない」
 それは事実だ。あのまま勅使河原が行為に及び、お互いに擬体を纏う段階になってしまえば、もはや紗耶香と言えども一切手出しはできなくなる。危うく、葉月の首を取られかねない状況だったのだ。
「先輩、あたし、あの女に絡まれた時、どういうわけか、自分の体が全く動かなくなったっす」
 まるで、金縛りにでもあったような状態だったと、葉月は語る。
 それを聞いて、紗耶香も、それはそうだろうと思った。
 あの勅使河原という女に関しては、単純な力量以上に、得体の知れない「何か恐怖を誘引するもの」を秘めているように思えた。実際、それは相対した紗耶香自身もいやというほど痛感させられた。もちろん、勝負となれば負けることはないだろうが、うまく言い表せないが、とにかく「やりたくない相手」だった。
 多分、葉月の体も本能的にそれを感じ取っていたのだろう。生理的嫌悪感とでもいうべきだろうかーだから、葉月は勅使河原にいいように弄ばれて、動くことさえままならなかったのだ。
「葉月、お前の言いたいことはわかるつもりだ・・・正直、あたしもあの女とはもう関わりたくはない」
 本音である。
「ただ、実際の勝負になれば、あたしはあいつには負けるつもりはない・・・だから、葉月。お前、しばらくの間、一人きりでの狩りは控えろ」
 葉月は一瞬、何かを言おうとして、言葉を飲み込んだ。ここはおとなしく、先輩の言うことを聞くべきだーそう、本能が告げている。
「・・・わかりましたっす」
「獲物はあたしと一緒に探す。あいつのことが片付くまでは、しばらく我慢だ。いいな?」
「はいっす」
 普段とは異なり聞き分けのよい葉月の姿に思わず頬を綻ばせながら、
「じゃあ、これからお口直ししてやるよ」
「え、あ、はむっ」
 葉月の唇を自らのそれで塞ぎ、舌を忍ばせたー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...