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第2章 確かなもの
第56話 怖さ
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勅使河原の得体の知れない恐怖を間近に感じた紗耶香と葉月。
それでも、紗耶香の方はまだ彼女に対しては対抗できる自身があった。しかしー。
「葉月、もう大丈夫だ・・・しかし、まさかあんなのがここに入り込んでたなんてな・・・」
迂闊にも、葉月を一人きりにしてしまったことが悔やまれた。葉月なら、そう簡単に後れを取ることはないだろうと高を括っていた自分を呪った。
葉月自身は、まだ紗耶香の胸元に顔をうずめて嗚咽を漏らしている。あの不気味な女にいいようにされたのが、よほどショックだったのかー。
「葉月・・・」
とりあえず、葉月はいましばらくは安静にさせた方がいいだろう。紗耶香は、葉月を連れて再び保健室へと足を運んだ。
「普通の学校なら保険医がいるんだけどな・・・」
保険医は、生徒達の体のケガだけでなく、心のケアも同時に行う。しかし、このアルカディア島にそんな人間などいるはずもない。
結局、自分たちの身に起きたことは自分たちで対処するしかない。
「・・・もう心配はいらないよ、葉月。これからしばらくの間、お前と一緒にいてやるから、もうあんな奴に好き勝手な真似はさせないさ」
葉月を、先ほどまで二人が寝ていたベッドに腰掛けさせ、まるで子供をあやすように頭をナデナデしてやりながら、何とか葉月を落ち着かせようとする。
ーこいつ自身、昨日は成城女学院のお嬢様を犯してはいるんだけどなー
さすがに、その翌日に自分が似たような目に遭わされるとは、夢にも思っていなかったのだろう。
「・・・先輩」
先ほどの恐慌状態よりは幾分か落ち着いた葉月が、顔を上げて紗耶香を見やる。
「落ち着いたか・・・悪かった、お前を一人きりにして」
気遣う紗耶香に対し、葉月は少しだけ首を振って、
「いえ、あたしも油断してたっす・・・」
「いや、あいつは・・・少なくとも今のお前ではどうにかなるようなやつじゃなかった・・・もう少し遅かったら、あたしでも止められなかったかもしれない」
それは事実だ。あのまま勅使河原が行為に及び、お互いに擬体を纏う段階になってしまえば、もはや紗耶香と言えども一切手出しはできなくなる。危うく、葉月の首を取られかねない状況だったのだ。
「先輩、あたし、あの女に絡まれた時、どういうわけか、自分の体が全く動かなくなったっす」
まるで、金縛りにでもあったような状態だったと、葉月は語る。
それを聞いて、紗耶香も、それはそうだろうと思った。
あの勅使河原という女に関しては、単純な力量以上に、得体の知れない「何か恐怖を誘引するもの」を秘めているように思えた。実際、それは相対した紗耶香自身もいやというほど痛感させられた。もちろん、勝負となれば負けることはないだろうが、うまく言い表せないが、とにかく「やりたくない相手」だった。
多分、葉月の体も本能的にそれを感じ取っていたのだろう。生理的嫌悪感とでもいうべきだろうかーだから、葉月は勅使河原にいいように弄ばれて、動くことさえままならなかったのだ。
「葉月、お前の言いたいことはわかるつもりだ・・・正直、あたしもあの女とはもう関わりたくはない」
本音である。
「ただ、実際の勝負になれば、あたしはあいつには負けるつもりはない・・・だから、葉月。お前、しばらくの間、一人きりでの狩りは控えろ」
葉月は一瞬、何かを言おうとして、言葉を飲み込んだ。ここはおとなしく、先輩の言うことを聞くべきだーそう、本能が告げている。
「・・・わかりましたっす」
「獲物はあたしと一緒に探す。あいつのことが片付くまでは、しばらく我慢だ。いいな?」
「はいっす」
普段とは異なり聞き分けのよい葉月の姿に思わず頬を綻ばせながら、
「じゃあ、これからお口直ししてやるよ」
「え、あ、はむっ」
葉月の唇を自らのそれで塞ぎ、舌を忍ばせたー。
それでも、紗耶香の方はまだ彼女に対しては対抗できる自身があった。しかしー。
「葉月、もう大丈夫だ・・・しかし、まさかあんなのがここに入り込んでたなんてな・・・」
迂闊にも、葉月を一人きりにしてしまったことが悔やまれた。葉月なら、そう簡単に後れを取ることはないだろうと高を括っていた自分を呪った。
葉月自身は、まだ紗耶香の胸元に顔をうずめて嗚咽を漏らしている。あの不気味な女にいいようにされたのが、よほどショックだったのかー。
「葉月・・・」
とりあえず、葉月はいましばらくは安静にさせた方がいいだろう。紗耶香は、葉月を連れて再び保健室へと足を運んだ。
「普通の学校なら保険医がいるんだけどな・・・」
保険医は、生徒達の体のケガだけでなく、心のケアも同時に行う。しかし、このアルカディア島にそんな人間などいるはずもない。
結局、自分たちの身に起きたことは自分たちで対処するしかない。
「・・・もう心配はいらないよ、葉月。これからしばらくの間、お前と一緒にいてやるから、もうあんな奴に好き勝手な真似はさせないさ」
葉月を、先ほどまで二人が寝ていたベッドに腰掛けさせ、まるで子供をあやすように頭をナデナデしてやりながら、何とか葉月を落ち着かせようとする。
ーこいつ自身、昨日は成城女学院のお嬢様を犯してはいるんだけどなー
さすがに、その翌日に自分が似たような目に遭わされるとは、夢にも思っていなかったのだろう。
「・・・先輩」
先ほどの恐慌状態よりは幾分か落ち着いた葉月が、顔を上げて紗耶香を見やる。
「落ち着いたか・・・悪かった、お前を一人きりにして」
気遣う紗耶香に対し、葉月は少しだけ首を振って、
「いえ、あたしも油断してたっす・・・」
「いや、あいつは・・・少なくとも今のお前ではどうにかなるようなやつじゃなかった・・・もう少し遅かったら、あたしでも止められなかったかもしれない」
それは事実だ。あのまま勅使河原が行為に及び、お互いに擬体を纏う段階になってしまえば、もはや紗耶香と言えども一切手出しはできなくなる。危うく、葉月の首を取られかねない状況だったのだ。
「先輩、あたし、あの女に絡まれた時、どういうわけか、自分の体が全く動かなくなったっす」
まるで、金縛りにでもあったような状態だったと、葉月は語る。
それを聞いて、紗耶香も、それはそうだろうと思った。
あの勅使河原という女に関しては、単純な力量以上に、得体の知れない「何か恐怖を誘引するもの」を秘めているように思えた。実際、それは相対した紗耶香自身もいやというほど痛感させられた。もちろん、勝負となれば負けることはないだろうが、うまく言い表せないが、とにかく「やりたくない相手」だった。
多分、葉月の体も本能的にそれを感じ取っていたのだろう。生理的嫌悪感とでもいうべきだろうかーだから、葉月は勅使河原にいいように弄ばれて、動くことさえままならなかったのだ。
「葉月、お前の言いたいことはわかるつもりだ・・・正直、あたしもあの女とはもう関わりたくはない」
本音である。
「ただ、実際の勝負になれば、あたしはあいつには負けるつもりはない・・・だから、葉月。お前、しばらくの間、一人きりでの狩りは控えろ」
葉月は一瞬、何かを言おうとして、言葉を飲み込んだ。ここはおとなしく、先輩の言うことを聞くべきだーそう、本能が告げている。
「・・・わかりましたっす」
「獲物はあたしと一緒に探す。あいつのことが片付くまでは、しばらく我慢だ。いいな?」
「はいっす」
普段とは異なり聞き分けのよい葉月の姿に思わず頬を綻ばせながら、
「じゃあ、これからお口直ししてやるよ」
「え、あ、はむっ」
葉月の唇を自らのそれで塞ぎ、舌を忍ばせたー。
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