百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

文字の大きさ
106 / 499
第3章 虚ろなる人形

第105話 人形の戦い

しおりを挟む
 勅使河原と氷上は、氷上の拠点であった住居を後にし、近くの公園へと移動した。
「この島の建物や公共物は、全て日本のものをまねられたらしいわね」
 見たところ、この公園も日本のどこの町にでもあるありふれたものだったーただ、公園ではあるものの、そこは憩いの場として活用されることは今後もないと言っていいだろう。
「あら、先客がいたようね・・・」
 勅使河原が、公園のブランコの上にある物を見て、かすかに口元を歪めた。
 そこにあるのは、首ーやはり美しい少女の首が、なんとブランコの上に置かれていたのだった。
「首札によると・・・赤石絵里さんというのかしら・・・この子も綺麗ね」
 切断され、晒されていた首は、うつろな表情で公園に入り込んできた勅使河原と氷上を見つめ続けていたー実際には、もはや何も映ってはいない瞳だったが、なぜか見つめられているような気がしてしまう。この辺りが、一般人から見れば生首というものが気色悪いとされる所以だろう。
 ブランコがわずかでも揺れれば、赤石絵里の首は地面に落ちて転がるだろうが、それでもかまわず、この戦いの勝利者はここに置いたのだろう。
「勝利者の姿は・・・もういないわね。一度見てみたかったわ」
 公園の中に、赤石絵里を殺した勝利者の姿はなく、既にここから立ち去ったみたいだ。近くを見回してみると、公園に生えている大きな樹の根元に、首のない制服姿の死体がある。樹に寄りかかるようになっていることから、わざわざ勝利者がこの赤石絵里の胴体をそのようにしたーということだろう。
 この赤石絵里の相手をした人物は、なかなか手の込んだことを好んでいるのかもしれない。
「次は、あなたの番かしら?氷上さん」
 赤石絵里の生首を一通り観察した後、勅使河原は背後にいる氷上の方に向き直り、わずかに目を細めた。
「・・・ずいぶんな自信ね。負けるのは、あなたなのかもしれないわよ」
 勅使河原を見返しながら、氷上は自らの両腕に装着した鉤爪を構えた。擬体化した際の、彼女の武器は、この両腕に装着された鉤爪ー近接攻撃及びスピードファイター型の氷上にとってはうってつけの武器ともいえる。
「あら、ずいぶんと似合っているわね・・・氷上さん」
 氷上は、両腕の鉤爪をこれ見よがしに勅使河原に突き出すと、
「先ほどまでのお返しは、存分にさせてもらうわ・・・覚悟なさい」
 対する勅使河原は、悠然としたままで、
「・・・確かに、あなたにはよく似合っているとは思うけれど、でもだからと言って、それで私に勝てるとは思わないことね」
 勅使河原は、その場に立ち尽くしたまま、両手を開き、そこから例の鋼線を出現させた。
「さっきまでの鋼線とは思わないことね・・・こちらは擬体化によってさらに強靭かつ柔軟になっているわ・・・つまりは、先ほどのものにあっけなく縛られてしまったあなたに勝ち目はないということよ」
 まるで、勅使河原の意志に反応しているかのように、銀色に輝く鋼の糸が怪しく蠢いていた。もしかしたら、実際に彼女の意志のままに操れるものなのかもしれない。
「やってみなければわからないわ」
 氷上は、自らの中に生まれた不安を打ち消すかの如く叫び、勅使河原に突進していった。
「氷上亜美対勅使河原マヤ、勝負開始!」
 ジャッジの声が、公園内に響き渡った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

処理中です...