百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

文字の大きさ
118 / 499
第3章 虚ろなる人形

第117話 空虚

しおりを挟む
「・・・勅使河原マヤ。空っぽな人」
 氷上の呟きに、思わず氷上の首に両手をかける勅使河原。
「勅使河原マヤ、この大会ルールでは、敗者は斬首によってその命を絶たなければならないはずよ」
「・・・わかっているわ、あなたに言われなくても」
 先ほどまで余裕と勝利の笑みを浮かべていたはずの勅使河原の表情が、憎々しく歪んでいく。この戦いで、初めて勅使河原が見せた、本来の表情ー少なくとも、氷上にはそのように見えた。
「あなたでも、そんな顔をするのね、勅使河原マヤ。ようやく、本来のあなたの顔が少し見えた気がするわ」
 苦々しく表情を歪ませていく勅使河原とは対照的に、今度は氷上の方が悠然とした態度で笑みを浮かべていた。これから殺されるというのに、既に氷上には、先ほどまで感じていたはずの恐怖はなくなっていたのだ。
 そして、氷上はそんな自分のことをどこか不思議に思いつつ、俯瞰的に捉えていた。
「思い出したわ・・・あなたの事件。私自身は犯人の名前に関心がなかったから、あなたの名前を聞いてもにわかには気が付かなかったけど、あなた、道場斬首事件の後に、3人の女子高生を殺した、あの事件の犯人でしょう?」
 当時未成年者であった勅使河原の氏名は、公式には公表されてはいないものの、このネット社会においてはすぐに個人情報流出は起こる。だから、調べようとすれば、あの女子高生3人を殺害した勅使河原のことは分かった。
 だが、氷上自身はこの事件に関しては、道場斬首事件よりも興味をひくものでも無かったため、そこまで調べてみようという気もなく、また氷上自身もその後まもなくして死亡しているので、調べる機会もなかったのだ。
 とはいえ、さすがに事件の概要くらいは、テレビでも盛んにやっていたので知ってはいる。勅使河原マヤが、同じクラスメイト3人を絞殺後、その首を切断し、自宅に保管しておいたーというものだった。そして、家宅捜索の結果、彼女が一条紗耶香の事件にひどく強い関心を持ち、影響を受けていたことも明らかとなった。
「あまり関心のない事件だったから気が付くのが遅れたわ」
「・・・今更気が付いたとして、何が言いたいのかしら、亜美」
 勅使河原は、その口調に苛立ちが混じるのも隠さずに、氷上に問いかける。自然と首に回した手に力が入りそうになるが、何とかこらえようとする。
「オリジナリティのなさ、自分という存在の芯のなさ、かしらね」
 氷上は、口の端を歪めつつ、しかし瞳には強い意志を込めたまま、勅使河原を見据えて言った。
「逮捕された少女は芸術家の娘だった。また、本人も芸術関連の道を志望していた。でも、その割には、あなたという人間には芯がない、個性がない」
 氷上の言葉が、勅使河原をえぐる。
「あなたの事件も、絞殺という手段はとっているけれど、所詮は一条紗耶香という存在やインパクトには遠く及ばない。殺した後に首を切断したところで、一条さんに近づけるわけもないのに」
 氷上の言葉が、視線が、心が、勅使河原の空虚な内面にツメを立て、傷つけていく。
 とどめと言わんばかりに、氷上は付け加えた。
「あなたと言う人間は、自分がないのよ。余裕があるように見えるけど、実はその逆で自身がないのよ。だから、あなたは空っぽのまま。そうでしょう?勅使河原マヤ」
 勅使河原の、悲鳴にも近い絶叫がプールサイドに木霊したー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...