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第3章 虚ろなる人形
第117話 空虚
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「・・・勅使河原マヤ。空っぽな人」
氷上の呟きに、思わず氷上の首に両手をかける勅使河原。
「勅使河原マヤ、この大会ルールでは、敗者は斬首によってその命を絶たなければならないはずよ」
「・・・わかっているわ、あなたに言われなくても」
先ほどまで余裕と勝利の笑みを浮かべていたはずの勅使河原の表情が、憎々しく歪んでいく。この戦いで、初めて勅使河原が見せた、本来の表情ー少なくとも、氷上にはそのように見えた。
「あなたでも、そんな顔をするのね、勅使河原マヤ。ようやく、本来のあなたの顔が少し見えた気がするわ」
苦々しく表情を歪ませていく勅使河原とは対照的に、今度は氷上の方が悠然とした態度で笑みを浮かべていた。これから殺されるというのに、既に氷上には、先ほどまで感じていたはずの恐怖はなくなっていたのだ。
そして、氷上はそんな自分のことをどこか不思議に思いつつ、俯瞰的に捉えていた。
「思い出したわ・・・あなたの事件。私自身は犯人の名前に関心がなかったから、あなたの名前を聞いてもにわかには気が付かなかったけど、あなた、道場斬首事件の後に、3人の女子高生を殺した、あの事件の犯人でしょう?」
当時未成年者であった勅使河原の氏名は、公式には公表されてはいないものの、このネット社会においてはすぐに個人情報流出は起こる。だから、調べようとすれば、あの女子高生3人を殺害した勅使河原のことは分かった。
だが、氷上自身はこの事件に関しては、道場斬首事件よりも興味をひくものでも無かったため、そこまで調べてみようという気もなく、また氷上自身もその後まもなくして死亡しているので、調べる機会もなかったのだ。
とはいえ、さすがに事件の概要くらいは、テレビでも盛んにやっていたので知ってはいる。勅使河原マヤが、同じクラスメイト3人を絞殺後、その首を切断し、自宅に保管しておいたーというものだった。そして、家宅捜索の結果、彼女が一条紗耶香の事件にひどく強い関心を持ち、影響を受けていたことも明らかとなった。
「あまり関心のない事件だったから気が付くのが遅れたわ」
「・・・今更気が付いたとして、何が言いたいのかしら、亜美」
勅使河原は、その口調に苛立ちが混じるのも隠さずに、氷上に問いかける。自然と首に回した手に力が入りそうになるが、何とかこらえようとする。
「オリジナリティのなさ、自分という存在の芯のなさ、かしらね」
氷上は、口の端を歪めつつ、しかし瞳には強い意志を込めたまま、勅使河原を見据えて言った。
「逮捕された少女は芸術家の娘だった。また、本人も芸術関連の道を志望していた。でも、その割には、あなたという人間には芯がない、個性がない」
氷上の言葉が、勅使河原をえぐる。
「あなたの事件も、絞殺という手段はとっているけれど、所詮は一条紗耶香という存在やインパクトには遠く及ばない。殺した後に首を切断したところで、一条さんに近づけるわけもないのに」
氷上の言葉が、視線が、心が、勅使河原の空虚な内面にツメを立て、傷つけていく。
とどめと言わんばかりに、氷上は付け加えた。
「あなたと言う人間は、自分がないのよ。余裕があるように見えるけど、実はその逆で自身がないのよ。だから、あなたは空っぽのまま。そうでしょう?勅使河原マヤ」
勅使河原の、悲鳴にも近い絶叫がプールサイドに木霊したー
氷上の呟きに、思わず氷上の首に両手をかける勅使河原。
「勅使河原マヤ、この大会ルールでは、敗者は斬首によってその命を絶たなければならないはずよ」
「・・・わかっているわ、あなたに言われなくても」
先ほどまで余裕と勝利の笑みを浮かべていたはずの勅使河原の表情が、憎々しく歪んでいく。この戦いで、初めて勅使河原が見せた、本来の表情ー少なくとも、氷上にはそのように見えた。
「あなたでも、そんな顔をするのね、勅使河原マヤ。ようやく、本来のあなたの顔が少し見えた気がするわ」
苦々しく表情を歪ませていく勅使河原とは対照的に、今度は氷上の方が悠然とした態度で笑みを浮かべていた。これから殺されるというのに、既に氷上には、先ほどまで感じていたはずの恐怖はなくなっていたのだ。
そして、氷上はそんな自分のことをどこか不思議に思いつつ、俯瞰的に捉えていた。
「思い出したわ・・・あなたの事件。私自身は犯人の名前に関心がなかったから、あなたの名前を聞いてもにわかには気が付かなかったけど、あなた、道場斬首事件の後に、3人の女子高生を殺した、あの事件の犯人でしょう?」
当時未成年者であった勅使河原の氏名は、公式には公表されてはいないものの、このネット社会においてはすぐに個人情報流出は起こる。だから、調べようとすれば、あの女子高生3人を殺害した勅使河原のことは分かった。
だが、氷上自身はこの事件に関しては、道場斬首事件よりも興味をひくものでも無かったため、そこまで調べてみようという気もなく、また氷上自身もその後まもなくして死亡しているので、調べる機会もなかったのだ。
とはいえ、さすがに事件の概要くらいは、テレビでも盛んにやっていたので知ってはいる。勅使河原マヤが、同じクラスメイト3人を絞殺後、その首を切断し、自宅に保管しておいたーというものだった。そして、家宅捜索の結果、彼女が一条紗耶香の事件にひどく強い関心を持ち、影響を受けていたことも明らかとなった。
「あまり関心のない事件だったから気が付くのが遅れたわ」
「・・・今更気が付いたとして、何が言いたいのかしら、亜美」
勅使河原は、その口調に苛立ちが混じるのも隠さずに、氷上に問いかける。自然と首に回した手に力が入りそうになるが、何とかこらえようとする。
「オリジナリティのなさ、自分という存在の芯のなさ、かしらね」
氷上は、口の端を歪めつつ、しかし瞳には強い意志を込めたまま、勅使河原を見据えて言った。
「逮捕された少女は芸術家の娘だった。また、本人も芸術関連の道を志望していた。でも、その割には、あなたという人間には芯がない、個性がない」
氷上の言葉が、勅使河原をえぐる。
「あなたの事件も、絞殺という手段はとっているけれど、所詮は一条紗耶香という存在やインパクトには遠く及ばない。殺した後に首を切断したところで、一条さんに近づけるわけもないのに」
氷上の言葉が、視線が、心が、勅使河原の空虚な内面にツメを立て、傷つけていく。
とどめと言わんばかりに、氷上は付け加えた。
「あなたと言う人間は、自分がないのよ。余裕があるように見えるけど、実はその逆で自身がないのよ。だから、あなたは空っぽのまま。そうでしょう?勅使河原マヤ」
勅使河原の、悲鳴にも近い絶叫がプールサイドに木霊したー
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