百合斬首~晒しな日記~

ミケとポン太

文字の大きさ
128 / 499
第4章 更なる戦い

第127話 楽園の屍血山河

しおりを挟む
「おやおや・・・先ほどの首なしどもの頭の方を見つけたようだよ」
 優華が、その黒々とした瞳をわずかに細めた。隣に立つ静も眉をひそめて3つの生首を見下ろしている。
 廃墟の中庭ーおそらくは休憩用に設けられた古びたベンチという設定だろうがーのベンチには、3つの首が並んでおかれていた。
 普通なら、この光景を見るだけで吐き気を催すものだが、優香も静も、落ち着き払った様子で観察している。
「おかっぱ頭、ギャル風、サイドテール・・・こりゃまた個性的な組み合わせだな・・・見事に接点がない」
 優華は、鉄扇を閉じ、その先端で、軽く生首たちの頭を小突く。その様子を見て、少しだけ静が引いていた。
「接点と言えば、この子たちがあの中の首なし死体だというのなら、3人とも同じ高校出身ってことですよね」
 廃墟の1階で瓦礫だらけの床に倒れていた首なし死体は、いずれも同じ高校の制服を着ていた。
「こいつらは、間違いなくあの首なしどもの成れの果てだよ・・・私の鼻がそう言ってる」
 優華の嗅覚は、擬体の残滓を嗅ぎ分けることに特化している。この敗北者たちが戦いの際にまとっていた擬体の成分は、残り香として優華に嗅ぎ取られていた。
「こいつらはこの廃墟で戦い、そして負けて首を刎ねられた。やられた順番としては、おかっぱ、ギャル風、サイドテールだ・・・それにしても、3人ともよほど悔しかったのかねぇ。なんというか、表情がきついな」
 優華の指摘したとおり、3人の首は「屈辱」と「怒り」に満ちたものだった。
「負けたのがよほど信じられなかったのでしょうね・・・自分たちがレイプした相手に負けるなんて、さすがに屈辱だったとは思います」
「だろうな・・・だが、それは相手を見くびったこいつらの自業自得だ・・・別に同情するようなものでもないさ」
 ベンチに置かれた3人の首は、もはや何も語ることはない。ただ、死ぬ直前の表情をそのまま残し続けるのみである。
 廃墟の中庭に、どことなく生ぬるさを伴った風が吹いていた。その風に、この3人の血の匂いも混じっているのがよくわかる。鉄分を含んだ臭いが優香の鼻を刺激し、優華は少し眉をひそめた。
 ただ死臭はない。なぜなら、運営側に投与された防腐措置により、肉体の腐敗や死臭漏洩が起こらないように手を加えられているからだ。
 つまりは、決して朽ちることのない屍ー不滅の骸なのだった。
 辺りに漂う血の匂いを嗅ぎながら、優華はポツリと呟いた。
「屍血山河・・・」
「え・・・?」
 優華の呟いた言葉に思わず振り返る静。
 優華は口元を開いた鉄扇で覆い隠しながら、
「このアルカディア島の今の状況さ・・・そこらに血を噴き上げる胴体やら生首やらが転がっているこの島は、楽園アルカディアと銘打ちながら、実は屍血山河の地獄ってわけさ。案外、楽園と地獄は近いところに存在するものだ」
「天国に一番近い生き地獄・・・」
 静の呟きに、閉じた鉄扇の先端を静に向けながら、
「まさに、それだな。そういう場所に、今の私たちはいるってことさ」
「・・・」
 優華の言葉に、改めて自分がい参る場所がどういうところなのかを実感する静だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】【百合論争】こんなの百合って認めない!

千鶴田ルト
ライト文芸
百合同人作家の茜音と、百合研究学生の悠乃はSNS上で百合の定義に関する論争を繰り広げる。やがてその議論はオフ会に持ち越される。そして、そこで起こったこととは…!? 百合に人生を賭けた二人が、ぶつかり合い、話し合い、惹かれ合う。百合とは何か。友情とは。恋愛とは。 すべての百合好きに捧げる、論争系百合コメディ!

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

処理中です...