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第二章 共に過ごした二つの刻
第二十一話
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コトリが初めて訪れた日から、彼女は毎日私に会いに来ていた。他愛もない世間話をしたり、今日の出来事を話してくれたりしていた。そして、遂に訪れた約束の日。私は二人の騎士が横に付き、中央広場に設置された断頭台に連れていかれた。なるほど、私は民衆の晒し者になるわけか。
「おら、歩け!」
ぼーっとそんなことを考えていたら、騎士の一人に背中を押された。私は処刑台へと再び歩き始め、数段の階段を登る。上から見えるのは、悪意と好奇心の塊を持った大勢の人々。
「罪状を読み上げる! エリック・ラインズは、時計塔に無断で侵入した罪。他、魔女裁判により魔女と決まったため、本日の午後二時に処刑する!」
ざわつき始める観衆達。「魔女は殺せ!」「そうだそうだ!」その声が伝染し、民衆が「殺せ、殺せ」と騒ぎはじめる。その群衆の中に、前に出てこようとする小さな人影を見つけた。それが、フードを被ったコトリだということに私は気づいた。わざわざ来ていたのかと思いながら、私は無理矢理断頭台に寝かせられた。その時、コトリが人混みをかき分けて、最前列に出てきて顔を見ることができた。
「師匠!」
そう呼ばれるが私は軽く笑みを浮かべただけで、あとは時間が来るのを待つばかり。空は嫌なくらい晴れていて「何故こんな天気の良い日に大衆に晒し者にされなければならないのか」と、疑問に思う。ぼんやりとそうやって考えていると、騎士が近づいてきて私に約束の時間になることを告げた。
「そろそろ時間だ。何か言い残すことはないか?」
「そうだな…… 特に無いが、ひとつだけ。愛していたよ、とても」
言い終わった頃に時計塔の鐘が辺りに鳴り響き、約束の午後二時を告げる。どよめく観衆。伸ばされる小さな手。だが私には、もうその手を取ることは出来ない。こんな私を許してくれ、コトリ。
「嫌! 師匠!」
コトリの嘆声が聞こるが、周りの喧騒にかき消される。大丈夫。教えられることは、たくさん教えてきた。君はもう、一人でも歩いていけるはずだよ、コトリ。だから、どうか。
「幸せになってくれ」
そうコトリに小さく呟き、静かに私は目を閉じる。瞼の裏に浮かんでくるのは、彼女と初めて会った日から今日までの思い出の数々。雨の日に出会ってから共に過ごして、時には問題が起きたこともあった。夜中になっても帰ってこない日や、死神の噂を確かめる為に街に出たこと。魔術の練習をしても成功せずに膨れていた彼女のために、御守りを作るろうと夜中まで作業もしたこと。飼っていた愛猫が亡くなり、泣いていた彼女と一緒にお墓を作ったことも覚えている。そんな様々な思い出が浮かんでは消えていき、私は寂しい気持ちになった。
「では、処刑を開始する」
「しーしょー!」
それが、私の聞いた最後の声だった。
「おら、歩け!」
ぼーっとそんなことを考えていたら、騎士の一人に背中を押された。私は処刑台へと再び歩き始め、数段の階段を登る。上から見えるのは、悪意と好奇心の塊を持った大勢の人々。
「罪状を読み上げる! エリック・ラインズは、時計塔に無断で侵入した罪。他、魔女裁判により魔女と決まったため、本日の午後二時に処刑する!」
ざわつき始める観衆達。「魔女は殺せ!」「そうだそうだ!」その声が伝染し、民衆が「殺せ、殺せ」と騒ぎはじめる。その群衆の中に、前に出てこようとする小さな人影を見つけた。それが、フードを被ったコトリだということに私は気づいた。わざわざ来ていたのかと思いながら、私は無理矢理断頭台に寝かせられた。その時、コトリが人混みをかき分けて、最前列に出てきて顔を見ることができた。
「師匠!」
そう呼ばれるが私は軽く笑みを浮かべただけで、あとは時間が来るのを待つばかり。空は嫌なくらい晴れていて「何故こんな天気の良い日に大衆に晒し者にされなければならないのか」と、疑問に思う。ぼんやりとそうやって考えていると、騎士が近づいてきて私に約束の時間になることを告げた。
「そろそろ時間だ。何か言い残すことはないか?」
「そうだな…… 特に無いが、ひとつだけ。愛していたよ、とても」
言い終わった頃に時計塔の鐘が辺りに鳴り響き、約束の午後二時を告げる。どよめく観衆。伸ばされる小さな手。だが私には、もうその手を取ることは出来ない。こんな私を許してくれ、コトリ。
「嫌! 師匠!」
コトリの嘆声が聞こるが、周りの喧騒にかき消される。大丈夫。教えられることは、たくさん教えてきた。君はもう、一人でも歩いていけるはずだよ、コトリ。だから、どうか。
「幸せになってくれ」
そうコトリに小さく呟き、静かに私は目を閉じる。瞼の裏に浮かんでくるのは、彼女と初めて会った日から今日までの思い出の数々。雨の日に出会ってから共に過ごして、時には問題が起きたこともあった。夜中になっても帰ってこない日や、死神の噂を確かめる為に街に出たこと。魔術の練習をしても成功せずに膨れていた彼女のために、御守りを作るろうと夜中まで作業もしたこと。飼っていた愛猫が亡くなり、泣いていた彼女と一緒にお墓を作ったことも覚えている。そんな様々な思い出が浮かんでは消えていき、私は寂しい気持ちになった。
「では、処刑を開始する」
「しーしょー!」
それが、私の聞いた最後の声だった。
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