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超能力を得るということは幸せなことだろうか。それとも不幸なことだろうか。普通の人間にはわからないだろう。多くの人は超能力者は幸せだと思うはずだ。他人と違う力を持ちそれを行使することで他者と違う世界が見られるということは、ある種の優越感を得るのであろうからと。
だが、能力者がなぜその超能力を得たのかについてはあまり深く考えない。遺伝子の突然変異なのか、地球外生命体の寄生によってなのか、何かの実験の副作用なのか。そうであるのなら、それは幸せとはあまり繋がらないところから生まれてくるものなのではないだろうか。
爆発。夜の街に響く轟音。赤く燃える街の一角。集まり始める野次馬。
何かの事故だろうか。駆け寄る救助隊。そして、再びの爆発。逃げ惑う人たち。
テロだ。このところこの日本でも珍しくなくなっていた。特定宗教を狙い打ちにしたような公安警察の捜査手法が彼らの一部に反感を植え付け、それに目をつけた外国のテロ組織が彼らを扇動したとされている。
本当にそうなのか。本当のことは誰も知らない。いや、知っていても誰にも伝わらなかった。
政府はテロの広がりを恐れ、メディアを官房機密費で買収し詳細を報道させなかった。
「最近、物騒になったわねぇ。あの宗教の人たちでしょ? 日本から出て行けばいいのに」
などとナショナリズムの高鳴る気配が見えた。
大友ユウジはこの間まで普通のサラリーマンだった。今は違う。現在の彼は無職だった。
先月まで働いていた会社はいきなりの業績不振で倒産。一部上場まで果たしていたのに潰れるのはあっという間だった。ミスの連鎖。大友ユウジはこの倒産をそう見ている。そして、その連鎖の出発点が誰も気がついていないが自分だったと自覚している。
「FAXを送り間違えた。いや、むしろ送れなかった。あんな単純なミスを今までしたことなんかなかった。送信ボタンを押したはずだった。もう少しだけ強く押して、動いたのを確認しておけば、こんなことにならなかったはずだ。ほんの少しの力だ。それが足りなかった」
そして、そのFAXを次の者が確かめずもせずに一緒に送信。取引先の信用を一気に失う事態となった。更に納品依頼を多重で重ねるという不幸。あの日は、皆どうかしていた。
大友ユウジは、ゆっくりと爆発現場に足を踏み入れた。スマートフォンを片手に現場に向かってカメラを構える。ここに来るまでにだいぶ時間がかかってしまったが、まだ間に合う。動画を撮って公開すれば、人の不幸で飯が食えるのだ。
「これで、小銭を稼ぐ!」
そう宣言した瞬間に急に土砂降りになって現場の火事が消える。野次馬が逃げ、救急の増援部隊が難なく現場入りし怪我人の救助に向かう。
「防水仕様じゃないのかよ」
大友ユウジは電源の入らなくなったスマートフォンをポケットの中にしまいこんだ。そして、現場に背中を向ける。ふと、物陰に隠れていた全身黒ずくめの男たちに目がとまる。
彼らの一人はなにかスイッチのようなものを押そうとしていた。
「おい、もしかして……」
大友ユウジが手を伸ばす。黒ずくめはスイッチを押す。が、何も起こらない。男も首を傾げる。男の仲間たちも首を傾げる。黒ずくめたちがユウジに気がつく。あっという間に五人の黒ずくめの男たちが取り囲む。
「どうやら見てはいけない物を見てしまったようだな」
「見たけど、撮ってない。スマホ壊れちゃったんだ」
男の一人がユウジの肩をつかもうとした。が、スマホを出そうとした動きで上げた肘が男のみぞおちに食い込む。
「あ、ごめん!」
慌てて頭を下げると、腹部を抑えてうずくまろうとする男の後頭部に頭突きを食らわす結果となる。残りは四人。
「貴様!」
男の一人が何処かからナイフを取り出す。そして、ユウジめがけて突進をしようとすると足元にあったスナック菓子の空き袋を踏んで滑って転んで頭を地面に打ち据える。残りは三人。
顔を上げるユウジの前に屈強そうな黒ずくめが二人。ジリジリと迫ってくる。
「違います違います」
思い切り右手を振って否定するところに一人がタイミングよく突っ込んで来て往復ビンタを何度も食らう。
「ああ、ごめんなさい!」
と左手で顔を抑えようとした時に、くしゃみが出て黒ずくめの男のアゴに掌底を食らわせてしまう。残り二人。
「本当に違うんです!」
と説明するためにもう一人に近づこうとすると、倒れていた男にけつまずく。体制を崩したことで飛んできていたパンチを交わし、腹部に頭突き。上げた頭で黒ずくめのアゴに頭突き。残り一人。
あっという間に一人になってしまった黒ずくめの男は、呆然としていた。スイッチを握ったまま動けずにいた。
「誤解なんです! 本当に誤解なんです!」
その言葉が信じられなかったのだろう。残された男はどこかから拳銃を取り出す。と、手が滑って上に放り投げてしまう。あっと思っているうちに銃は壁や看板を跳ね返り黒ずくめの男の頭を強打する。
ユウジは恐ろしくなってその場を逃げ出した。
翌朝、警察がテロの犯行グループ5人を逮捕したニュースが流れたが、ユウジはテレビを見ていなかった。
だが、能力者がなぜその超能力を得たのかについてはあまり深く考えない。遺伝子の突然変異なのか、地球外生命体の寄生によってなのか、何かの実験の副作用なのか。そうであるのなら、それは幸せとはあまり繋がらないところから生まれてくるものなのではないだろうか。
爆発。夜の街に響く轟音。赤く燃える街の一角。集まり始める野次馬。
何かの事故だろうか。駆け寄る救助隊。そして、再びの爆発。逃げ惑う人たち。
テロだ。このところこの日本でも珍しくなくなっていた。特定宗教を狙い打ちにしたような公安警察の捜査手法が彼らの一部に反感を植え付け、それに目をつけた外国のテロ組織が彼らを扇動したとされている。
本当にそうなのか。本当のことは誰も知らない。いや、知っていても誰にも伝わらなかった。
政府はテロの広がりを恐れ、メディアを官房機密費で買収し詳細を報道させなかった。
「最近、物騒になったわねぇ。あの宗教の人たちでしょ? 日本から出て行けばいいのに」
などとナショナリズムの高鳴る気配が見えた。
大友ユウジはこの間まで普通のサラリーマンだった。今は違う。現在の彼は無職だった。
先月まで働いていた会社はいきなりの業績不振で倒産。一部上場まで果たしていたのに潰れるのはあっという間だった。ミスの連鎖。大友ユウジはこの倒産をそう見ている。そして、その連鎖の出発点が誰も気がついていないが自分だったと自覚している。
「FAXを送り間違えた。いや、むしろ送れなかった。あんな単純なミスを今までしたことなんかなかった。送信ボタンを押したはずだった。もう少しだけ強く押して、動いたのを確認しておけば、こんなことにならなかったはずだ。ほんの少しの力だ。それが足りなかった」
そして、そのFAXを次の者が確かめずもせずに一緒に送信。取引先の信用を一気に失う事態となった。更に納品依頼を多重で重ねるという不幸。あの日は、皆どうかしていた。
大友ユウジは、ゆっくりと爆発現場に足を踏み入れた。スマートフォンを片手に現場に向かってカメラを構える。ここに来るまでにだいぶ時間がかかってしまったが、まだ間に合う。動画を撮って公開すれば、人の不幸で飯が食えるのだ。
「これで、小銭を稼ぐ!」
そう宣言した瞬間に急に土砂降りになって現場の火事が消える。野次馬が逃げ、救急の増援部隊が難なく現場入りし怪我人の救助に向かう。
「防水仕様じゃないのかよ」
大友ユウジは電源の入らなくなったスマートフォンをポケットの中にしまいこんだ。そして、現場に背中を向ける。ふと、物陰に隠れていた全身黒ずくめの男たちに目がとまる。
彼らの一人はなにかスイッチのようなものを押そうとしていた。
「おい、もしかして……」
大友ユウジが手を伸ばす。黒ずくめはスイッチを押す。が、何も起こらない。男も首を傾げる。男の仲間たちも首を傾げる。黒ずくめたちがユウジに気がつく。あっという間に五人の黒ずくめの男たちが取り囲む。
「どうやら見てはいけない物を見てしまったようだな」
「見たけど、撮ってない。スマホ壊れちゃったんだ」
男の一人がユウジの肩をつかもうとした。が、スマホを出そうとした動きで上げた肘が男のみぞおちに食い込む。
「あ、ごめん!」
慌てて頭を下げると、腹部を抑えてうずくまろうとする男の後頭部に頭突きを食らわす結果となる。残りは四人。
「貴様!」
男の一人が何処かからナイフを取り出す。そして、ユウジめがけて突進をしようとすると足元にあったスナック菓子の空き袋を踏んで滑って転んで頭を地面に打ち据える。残りは三人。
顔を上げるユウジの前に屈強そうな黒ずくめが二人。ジリジリと迫ってくる。
「違います違います」
思い切り右手を振って否定するところに一人がタイミングよく突っ込んで来て往復ビンタを何度も食らう。
「ああ、ごめんなさい!」
と左手で顔を抑えようとした時に、くしゃみが出て黒ずくめの男のアゴに掌底を食らわせてしまう。残り二人。
「本当に違うんです!」
と説明するためにもう一人に近づこうとすると、倒れていた男にけつまずく。体制を崩したことで飛んできていたパンチを交わし、腹部に頭突き。上げた頭で黒ずくめのアゴに頭突き。残り一人。
あっという間に一人になってしまった黒ずくめの男は、呆然としていた。スイッチを握ったまま動けずにいた。
「誤解なんです! 本当に誤解なんです!」
その言葉が信じられなかったのだろう。残された男はどこかから拳銃を取り出す。と、手が滑って上に放り投げてしまう。あっと思っているうちに銃は壁や看板を跳ね返り黒ずくめの男の頭を強打する。
ユウジは恐ろしくなってその場を逃げ出した。
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