Vicky!

大秦頼太

文字の大きさ
上 下
19 / 42
ミュージカル版

第十七場

しおりを挟む
●第十七場● 谷3 夜
1.■音響………023_冷たい風(FI)
2.□照明………3_舞台中央奥スポット + 1_ピアノ(FI)

   山で遭難したビッキーとマーゴ。夜になって冷え込みが強くなる。
   ビッキーが先に歩いてくる。ビッキーは寒さも疲れも感じない。
   ビッキーが2、3度振り返ると、マーゴが寒さに震えながら弱弱しく歩いてくる。

ビッキー 黒豹さん、どこに行ったのかしら。
マーゴ  ビッキー、もう歩けないよ。
ビッキー 大丈夫?

   座り込むマーゴ。ビッキーはマーゴを抱きしめる。
   が、ビッキーには体温が無い。

マーゴ  冷たい。寒い。
ビッキー 私が温かければ良かったのに。私の体が木じゃなかったら良かったのに。
マーゴ  ……眠い。
ビッキー 眠ったらダメよ。頑張って起きていて。

   ビッキー立ち上がろうとする。マーゴがしっかりとつかむ。

ビッキー 大丈夫。助けを呼んでくるだけだから。ここから動かないでね。
マーゴ  怖い。行かないで。
ビッキー でも、このままここにいたら危険よ。じゃあ、歩きましょ。
マーゴ  もう、歩けない。
ビッキー どうしたらいいのかしら。どうしたら……。
マーゴ  ビッキー、側にいてね。
ビッキー ……うん。

   マーゴは眠ってしまう。

ビッキー ダメよ。起きて。誰か! 誰か、助けてください! (呼びかける人ごとに返
    事を待つように間を開ける)お爺さん! 妖精さん! 黒豹さん! 悪魔さんで
    もいいわ! 私たちを助けてください! この子を助けて、お願いします。神様! 
    お願いします。どうかマーゴだけでも。

■音響………024_冷たい風

   風の音の間に暗闇の中に数人が立つ。明かりの届かない所にバラバラに。
   手にはLEDロウソクを点けて出てくる。絶対に忘れないように!
   歌に自信がなければ2、3人ならまとまっても可。

♪暗闇の中から
(人影たち)寒い寒い黒い影が お前に見えるか
(人影たち)ヒタヒタと忍び寄る死の影が お前に分かるか
(人影たち)お前は作られたただの人形 生き物ではないお前には
(人影たち)この冷たさも痛みも怖さも分かるまい
(ビッキー)それでも私は心を持っている この張り裂けそうな痛みが教えてくれる
(人影たち)人ではないお前の 人形のお前の偽物の心が 誰の心に残ると言うのか

■音響………025_冷たい風
   風の音が小さくなってくると暗闇の中から声が聞こえてくる。
   自分の台詞が終わったら、LEDロウソクを消さずに立ち去る。

村人A  その子は人間よ。人間には夜の山で一夜を過ごすことは出来ないわ。夜の冷た
    さが熱を奪うから。その子は死ぬのよ。
ビッキー ダメよ!
テルマ  ちょうどいいじゃない。あなたはその子の代わりに作られたんだから。
妖精   弱っていく命の火がお前にも見えるだろう? 木で作られたお前の体にはなん
    でもないこの寒さでも、人間の幼い子には無理さ。無理さ。
ビッキー 木で作られた私の体。
お爺さん その子が死ねば、お前は本当の人間になれる。人間になりたかったんだろう?
ビッキー ……そうよ、そうだわ!
村人B  そうさ、そうだ。
ビッキー 起きて、起きてちょうだい。私の体を燃やすのよ。私を燃やして焚き火をして
    体を温めるのよ。

   マーゴはすでに眠りの中。

ドーリス だめだよ。そんなことをしたら、あなたが灰になるじゃない。
ビッキー 大丈夫よ。お爺さんがきっと直してくれるわ。ううん。たとえ元に戻れなくて
    も、この子たちが助かればそれでいいの。私はそのために生まれたのよ。私がこ
    の子を助けるのよ。

□照明………2_舞台中央スポット + 1_ピアノ(CF)
   ビッキーが祈る。

♪命の火 (座りながら歌うかも)
心の奥にそっと燃えているもの それが私の命 命の火
誰かを救うため 我が身に火をつける それしか出来ない小さな存在
闇の風の冷たさに 負けないように
凍える小さな命を守れるように 離れないよう 強さを下さい
生きて 生きて 生きて もう一度
あなたたちと触れ合うの 笑い合うの
そうすればきっと きっと 私の心は本物になるはず

   ビッキーが歌い終わる。
□照明………同時に暗転(FO)
■音響………026_燃える音(FI)(音だけでも26秒あるので落ち着いて)
☆裏方………ビッキーがいた辺りに燃え尽きた手を置く台座なし。
■音響………027_谷の朝(FI)
□照明………10_全体明かり(FI)
   朝が来ると、羊飼い兄がマーゴを見つける。

ヤン   ヨーゼフさん、こっちこっち!

   お爺さんかけてくる。

お爺さん ああ、マーゴット。良かった。おい、目を開けるんだ。
マーゴ  もう朝なの? まだ眠い。それに寒い。
お爺さん ああ、良かった良かった。後はおうちに帰ってゆっくり休もう。さあ、起きて。
    おうちに帰るんだ。お前のお母さんも心配しているよ。
マーゴ  子羊は?
ヤン   ごめんよ。いなくなったと思ったら、小屋の中にいたんだ。俺があわてんぼう
    だったからこんなことになっちゃって……。
マーゴ  ビッキーがお爺ちゃんたちを呼んできてくれたの?
お爺さん ビッキー?

   お爺さん周囲を見回す。

お爺さん ビッキーは(いない、と言いかける。が、足元に燃え残るビッキーの白い手に
    気がつく)、ああ、ビッキーはお前を夜の寒さから守ってくれたんだ。
マーゴ  ビッキー……。

   お爺さん、ビッキーの手が熱くないか軽く指先でつつき確かめてから拾い上げる。

マーゴ  ビッキーは直るよね? お願い直して。
お爺さん (寂しそうな笑顔をして応える)さあ、帰ろう。お母さんが心配しているよ。

   お爺さんとマーゴが帰る。
□照明………帰りだしたらゆっくりと暗転。(FO)

しおりを挟む

処理中です...