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呪われた子 1
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細長く切れた森の裂け目の上を暗く重たい灰色の雲が覆っている。
森の中の細い道を静かに進む皮鎧を着た集団がいた。誰もが黙々と歩を進める中、最後尾を歩く線の細い少年がふと足を止めた。服も体も泥にまみれた少年は他の者と頭一つほど背が低い。真っ黒に汚れた包帯で巻かれた右手を首から下げた布が吊っている。
少年は、木々の隙間から覗く空を見上げる。陽の光は見えない。
「世界は四角い箱の中……」
その声はかすれていた。瞳には、子ども本来の明るさは無い。見れば腕や顔に痣を抱え、その体躯は痩せて骨ばっている。
「喉が渇いたな……」
雨でも降ってくれれば少しはましになるのに。恨めしそうに見上げても、少年の思いは雲には届かなかった。
少年はいきなり突き飛ばされた。転げはしなかったが、続けざまに頭を殴られた。
「セヴル、いつまでそうやってボーっと突っ立てるつもりだ」
右手を吊った少年セヴルの目の前に釣りあがった目をした若い男が立っていた。
若い男は親指で小隊を指差す。気がつけば小隊は、大分先を歩いている。
進む小隊の中で恰幅のいい中年男がセヴルたちをにらみつけている。中年男は側にいた者に腕をつかみ顎で指示を出す。
「すぐ行くよ」
セヴルは、小隊に向かって走り出す。
「片手が使えないお前を養ってやっている優しいお方は、どこのどなた様だ?」
側を無言で駆け抜けようとするセヴルの背を若い男は蹴り上げる。
セヴルは避けることも出来ずに森の下草の中に突っ込んだ。
「言えよ」
若い男はセヴルを見下ろす。その顔は実にうれしそうだった。が、セヴルの顔が自分に向けられたときその顔は醜くゆがんだ。
「マムル様だよ。レハじゃない」
若い男レハは、セヴルの顔に唾を吐きかけた。セヴルは唾を避けるように体をひねる。
「お前のその目が気にいらねぇんだよ。奴隷の癖に!」
レハの足が、セヴルの右腕を踏みつける。
「俺は奴隷じゃない」
「じゃあ、なんだ? 家畜か?」
セヴルは唇をかんでレハをにらみつけるが、レハはそれを意にも介さない。むしろ楽しそうだった。
「図星か? 捨て子が偉そうにすんじゃねえよ」
「……レハだって同じじゃないか」
「なにぃ?」
レハの眉が上がる。
「ここの連中はみんな同じさ、どいつもこいつも戦って死ぬのが怖いから、戦場の死体の身包みを剥いで生活の足しにしてる腰抜けだろうが……」
言葉が終わらないうちにレハの蹴りがセヴルを地面に転がす。セヴルはわずかな幅の道に転がった。レハはそのままの勢いでセヴルの背中を踏みつける。
「拾ってやった恩を忘れやがって」
「……お前に拾われたわけじゃない」
「何だと! もういっぺん……」
「何度でも……うぅ」
レハの踏みつける足に力がかかるとセヴルがうめき声を上げる。同時にレハが地面に倒れる。
「それぐらいにしておけ。馬鹿共が」
地面から見上げる二人の前に、拳をなでる恰幅のいい中年男が立っている。
「隊長」
「マムル様」
「死にたくなかったら、口を閉じろ。そろそろムシが出るぞ」
小隊の長マムルは二人に背を向けると、小隊に向かって歩いていった。
細長く切れた森の裂け目の上を暗く重たい灰色の雲が覆っている。
森の中の細い道を静かに進む皮鎧を着た集団がいた。誰もが黙々と歩を進める中、最後尾を歩く線の細い少年がふと足を止めた。服も体も泥にまみれた少年は他の者と頭一つほど背が低い。真っ黒に汚れた包帯で巻かれた右手を首から下げた布が吊っている。
少年は、木々の隙間から覗く空を見上げる。陽の光は見えない。
「世界は四角い箱の中……」
その声はかすれていた。瞳には、子ども本来の明るさは無い。見れば腕や顔に痣を抱え、その体躯は痩せて骨ばっている。
「喉が渇いたな……」
雨でも降ってくれれば少しはましになるのに。恨めしそうに見上げても、少年の思いは雲には届かなかった。
少年はいきなり突き飛ばされた。転げはしなかったが、続けざまに頭を殴られた。
「セヴル、いつまでそうやってボーっと突っ立てるつもりだ」
右手を吊った少年セヴルの目の前に釣りあがった目をした若い男が立っていた。
若い男は親指で小隊を指差す。気がつけば小隊は、大分先を歩いている。
進む小隊の中で恰幅のいい中年男がセヴルたちをにらみつけている。中年男は側にいた者に腕をつかみ顎で指示を出す。
「すぐ行くよ」
セヴルは、小隊に向かって走り出す。
「片手が使えないお前を養ってやっている優しいお方は、どこのどなた様だ?」
側を無言で駆け抜けようとするセヴルの背を若い男は蹴り上げる。
セヴルは避けることも出来ずに森の下草の中に突っ込んだ。
「言えよ」
若い男はセヴルを見下ろす。その顔は実にうれしそうだった。が、セヴルの顔が自分に向けられたときその顔は醜くゆがんだ。
「マムル様だよ。レハじゃない」
若い男レハは、セヴルの顔に唾を吐きかけた。セヴルは唾を避けるように体をひねる。
「お前のその目が気にいらねぇんだよ。奴隷の癖に!」
レハの足が、セヴルの右腕を踏みつける。
「俺は奴隷じゃない」
「じゃあ、なんだ? 家畜か?」
セヴルは唇をかんでレハをにらみつけるが、レハはそれを意にも介さない。むしろ楽しそうだった。
「図星か? 捨て子が偉そうにすんじゃねえよ」
「……レハだって同じじゃないか」
「なにぃ?」
レハの眉が上がる。
「ここの連中はみんな同じさ、どいつもこいつも戦って死ぬのが怖いから、戦場の死体の身包みを剥いで生活の足しにしてる腰抜けだろうが……」
言葉が終わらないうちにレハの蹴りがセヴルを地面に転がす。セヴルはわずかな幅の道に転がった。レハはそのままの勢いでセヴルの背中を踏みつける。
「拾ってやった恩を忘れやがって」
「……お前に拾われたわけじゃない」
「何だと! もういっぺん……」
「何度でも……うぅ」
レハの踏みつける足に力がかかるとセヴルがうめき声を上げる。同時にレハが地面に倒れる。
「それぐらいにしておけ。馬鹿共が」
地面から見上げる二人の前に、拳をなでる恰幅のいい中年男が立っている。
「隊長」
「マムル様」
「死にたくなかったら、口を閉じろ。そろそろムシが出るぞ」
小隊の長マムルは二人に背を向けると、小隊に向かって歩いていった。
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