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呪われた子 8
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草原の中の一軒家。戦場になったり蟲が出る草原に不釣合いなほどののどかな雰囲気が違和感を感じさせた。
「ずっと昔はね、蟲なんていなかったんだよ」
入り口のドアを開くとバリュフは中に入っていく。セヴルも恐る恐る中へと入っていく。
家の中は明るかった。入ってすぐに食卓があり、大きめな机の上には、食器と本が無造作に置かれている。左右と奥にドアが三つあった。
「弟子が一人いるんだけどね。どうしたものか」
バリュフは机の上の本を抱えて右の部屋に行く。
「そこの椅子にかけていてくれ。グロウ? グロウ?」
セヴルは言われたままに椅子に座る。それから思い出したように懐から汚れた包帯を取り出した。
「グロウ……」
戻ってきたバリュフが眉をひそめる。
「僕はこれでもきれい好きなんでね。これを使いたまえ」
バリュフは布切れを投げてよこす。そして、そのまま左手のドアに手をかける。ドアは開かない。鍵がかかっているようだ。
「いるんだね? 開けなさい」
「嫌です」
ドアの奥から、かわいらしい声が返ってくる。バリュフは優しげな声を出す。その眉間には深いしわが生まれていた。
「グロウ。怒らないから安心して出ておいで」
「嫌です。先生は絶対に怒ります」
バリュフは深いしわを険しくしながら笑顔を作って見せた。
「怒らないって」
「怒ります」
すぐに返ってくる可愛い声を聞くたびにバリュフの顔が赤みを増していく。
「怒らないってば」
「怒ります」
「怒らないってばー」
「怒ります」
「怒らないよ」
「怒ります」
「怒らないって言ってるだろうが!」
バリュフは突然ドアが壊れるような勢いで蹴りまくる。
「ふざけんなこのガキが!」
「ほら、怒った」
咳払いを一つして、バリュフはセヴルに笑顔を作る。
「……。お客さんが来てるんで、何か食べるものを出してくれるかな?」
「騙されませんよ」
「嘘なんかつかないって」
「騙されません」
「このクソガキ! さっさと出てこないと丸焼きにするぞ!」
「もう絶対開けません!」
「あの、俺、外に出てましょうか?」
「あぁ?」
セヴルを見るバリュフの形相は悪鬼そのものだった。そのとき、扉が開いてバリュフは吹き飛ばされる。
「あれ? 本当にお客さんだ。いらっしゃいませ」
床に寝転んだバリュフとセヴルを交互に見る小さな男の子が、部屋から出てきた。男の子も農民風な格好をしていたが、その外見は異質なものだった。
セヴルは、その男の子の可愛げのある顔に不釣合いな、太く毛深い獣の腕を見比べた。
「先生、洗濯中に腕がこうなっちゃって……」
「なんだ。そんなことですか」
バリュフは腰を抑えながら立ち上がる。男の子の次の言葉を聴いて凍りつく。
「先生のパンツが全部ビリビリに……」
セヴルは布で右腕を吊ると、椅子から立ち上がる。
「それ、本物?」
男の子の腕を指差し、ゆっくりと近づこうとする。男の子は腕を背中に隠そうとするが、あまりに大きい腕はうまく隠し切ることが出来ない。
「……うん。時々、なっちゃうんだ」
男の子は部屋の中に駆けていく。顔だけ出してセヴルを見る。バリュフが腰を落とし、グロウに手招きをする。
「グロウは草原に住んでいた一族の末なのさ」
「草原に人が住んでたの?」
あんな蟲がいるところに人間が住んでいたなんて信じられない。
「うん。さっきも言ったように、昔は蟲なんていなかったからね。人間も沢山住んでいたのさ」
「悪い蟲使いが、草原からみんなを追い出したんだよ」
グロウがバリュフの元に歩いてくる。
「さ、手を貸して。続きはご飯を食べながらにしようか」
バリュフがグロウの手を取り、ブツブツとつぶやくと男の子の腕が小さくなっていく。
「先生ごめんね」
「いいんだ、いいんだよ。気にしてないから」
「良かった。へへへ、先生は情緒不安定だから、優しいときもあるんだよ」
「それは、誉めてないね」
男の子の腕は、すっかりと人間の子どもの腕に戻った。
草原の中の一軒家。戦場になったり蟲が出る草原に不釣合いなほどののどかな雰囲気が違和感を感じさせた。
「ずっと昔はね、蟲なんていなかったんだよ」
入り口のドアを開くとバリュフは中に入っていく。セヴルも恐る恐る中へと入っていく。
家の中は明るかった。入ってすぐに食卓があり、大きめな机の上には、食器と本が無造作に置かれている。左右と奥にドアが三つあった。
「弟子が一人いるんだけどね。どうしたものか」
バリュフは机の上の本を抱えて右の部屋に行く。
「そこの椅子にかけていてくれ。グロウ? グロウ?」
セヴルは言われたままに椅子に座る。それから思い出したように懐から汚れた包帯を取り出した。
「グロウ……」
戻ってきたバリュフが眉をひそめる。
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バリュフは布切れを投げてよこす。そして、そのまま左手のドアに手をかける。ドアは開かない。鍵がかかっているようだ。
「いるんだね? 開けなさい」
「嫌です」
ドアの奥から、かわいらしい声が返ってくる。バリュフは優しげな声を出す。その眉間には深いしわが生まれていた。
「グロウ。怒らないから安心して出ておいで」
「嫌です。先生は絶対に怒ります」
バリュフは深いしわを険しくしながら笑顔を作って見せた。
「怒らないって」
「怒ります」
すぐに返ってくる可愛い声を聞くたびにバリュフの顔が赤みを増していく。
「怒らないってば」
「怒ります」
「怒らないってばー」
「怒ります」
「怒らないよ」
「怒ります」
「怒らないって言ってるだろうが!」
バリュフは突然ドアが壊れるような勢いで蹴りまくる。
「ふざけんなこのガキが!」
「ほら、怒った」
咳払いを一つして、バリュフはセヴルに笑顔を作る。
「……。お客さんが来てるんで、何か食べるものを出してくれるかな?」
「騙されませんよ」
「嘘なんかつかないって」
「騙されません」
「このクソガキ! さっさと出てこないと丸焼きにするぞ!」
「もう絶対開けません!」
「あの、俺、外に出てましょうか?」
「あぁ?」
セヴルを見るバリュフの形相は悪鬼そのものだった。そのとき、扉が開いてバリュフは吹き飛ばされる。
「あれ? 本当にお客さんだ。いらっしゃいませ」
床に寝転んだバリュフとセヴルを交互に見る小さな男の子が、部屋から出てきた。男の子も農民風な格好をしていたが、その外見は異質なものだった。
セヴルは、その男の子の可愛げのある顔に不釣合いな、太く毛深い獣の腕を見比べた。
「先生、洗濯中に腕がこうなっちゃって……」
「なんだ。そんなことですか」
バリュフは腰を抑えながら立ち上がる。男の子の次の言葉を聴いて凍りつく。
「先生のパンツが全部ビリビリに……」
セヴルは布で右腕を吊ると、椅子から立ち上がる。
「それ、本物?」
男の子の腕を指差し、ゆっくりと近づこうとする。男の子は腕を背中に隠そうとするが、あまりに大きい腕はうまく隠し切ることが出来ない。
「……うん。時々、なっちゃうんだ」
男の子は部屋の中に駆けていく。顔だけ出してセヴルを見る。バリュフが腰を落とし、グロウに手招きをする。
「グロウは草原に住んでいた一族の末なのさ」
「草原に人が住んでたの?」
あんな蟲がいるところに人間が住んでいたなんて信じられない。
「うん。さっきも言ったように、昔は蟲なんていなかったからね。人間も沢山住んでいたのさ」
「悪い蟲使いが、草原からみんなを追い出したんだよ」
グロウがバリュフの元に歩いてくる。
「さ、手を貸して。続きはご飯を食べながらにしようか」
バリュフがグロウの手を取り、ブツブツとつぶやくと男の子の腕が小さくなっていく。
「先生ごめんね」
「いいんだ、いいんだよ。気にしてないから」
「良かった。へへへ、先生は情緒不安定だから、優しいときもあるんだよ」
「それは、誉めてないね」
男の子の腕は、すっかりと人間の子どもの腕に戻った。
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