立方世界 呪われた子

大秦頼太

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呪われた子 14

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 セヴルは真っ白い部屋の中で一人きりだった。血や泥で汚れた体は染みのような存在だった。
 長い机も椅子も真っ白で、歩き回ろうとするとついどこかに躓いてしまう。仕方なく椅子に座って部屋の中を見回す。
 見上げても天井の高さは分からなかった。ただただ明るくどれほど高いのか、そんなに高くないのか。全てが真っ白で、距離感を失ってしまう。
「こんな世界があるんだな」
 声は、すぐに消えてしまう。音自体も大して響かない不思議な部屋だった。
 白い部屋に一筋の隙間が生まれると、扉のように開かれ、若い男女が聖導師パに連れられてやって来た。二人ともセヴルと同じくらいの年に見える。
 聖導師パは背が低いことには気がついていたが、子どもくらいの身長しかなかった。フードに隠れた顔は角度が悪く見ることが出来ない。
 ぼんやりと眺めていると若い女が突然怒鳴り出した。。
「跪きなさい!」
 セヴルは、若い女の声を無視する。椅子から立ち上がると聖導師パの前に歩み寄る。
「よいよい」
 聖導師パが、若い女を制する。
 若い女はむっとした表情をしていて、男の方は、笑顔で優しそうな顔をしていた。
 二人とも似たような格好をしていて、皮製の胸当てに布のズボン、背中に丸盾を背負っている。革のベルトには、先端の方がふくらんだ鉄の棒が下がっている。
「ほほほほ。この子たちは若いが法師の修行をしている優秀な子たちです。この子たちを監視役としてつける」
「僕はガリウス。こっちはサアラ。どうぞよろしく」
 ガリウスの出された右手を見る。
「悪いね、右手は傷だらけなんだ」
 セヴルは左手を出す。ガリウスも笑顔のまま左手を出し二人は握手をした。
「よろしく」
「早く化けの皮がはがれるといいわね。殺人犯さん」
 サアラは、セヴルにそう言うと、荷物を投げてよこした。
「乱暴な奴」
 セヴルは、荷物から布を引き出すとすぐに右腕を吊った。
「うるさいわね。早く支度しなさいよ」
「そんなに嫌がるなって」
 ガリウスがサアラをなだめるが、彼女は激しく燃え上がるのみだった。
「冗談じゃないわよ。罪人と一緒に旅だなんて、私の人生の最大の汚点だわ」
「君らは、輪っか持ってるの?」
 セヴルの問いにサアラが鼻息荒く答える。
「当然」
「うん。僕らのは君の持っているのと違って、銀製なんだ」
「そうなんだ」
 ガリウスが見せる銀製の輪っかには、装飾が施されていた。サアラが自慢げに自分の輪っかを見せる。
「光の言葉が刻んであるこの輪はね、蟲を追っ払えるのよ。兵士たちの鉄の輪っかなんて、寄せ付けないようにするのがやっとなのにね」
「そんなものがあるのに、退治できないんだ」
 鼻で笑うセヴルに噛み付く勢いでサアラが飛び掛ろうとするのを聖導師パが笑いで止める。
「ほほほほ。追い払うことは出来ても、いるものをどうにかできるわけではないのですよ」
「僕らの武器は、外殻を潰すためにこういう鈍器なんだ」
 ガリウスは、腰に下げた棒を見せる。先端の方に向かってふくらんでいる鉄の棒だった。
「メイスやモーニングスターというような特殊な棍棒だね」
「へー、痛そう」
 ガリウスはとても楽しそうだった。
「君の武器は?」
「俺のは、拾った剣だね。折れてるし」
「これで外殻を貫いたの?」
「どうやって?」
「それは、そのうち」
 押しの強い笑顔の若者をなだめようと苦心していると、聖導師パがセヴルに近づいてくる。
「ほほほほ。警戒する気持ちも分かるが、もう少し信用してもらっても良いと思うぞ。親しみやすいように同い年の子達を用意したのだからな」
「それも、そのうちに」
 聖導師の伸ばした手が、セヴルの左手に触れる。咄嗟に手を引くセヴル。
「恐れることなかれ」
「あ?」
 聖導師の手がセヴルの顔にかざされると、セヴルの顔の痣や傷が消えていく。
「なんだよ?」
 サアラの声にイライラがこめられて吐き出される。
「聖導師様の奇跡を安っぽく受けるんじゃないわよ」
「奇跡?」
 セヴルはハッとして、左手で顔を触る。
「え? 何? あんた今のやったの?」
「ほほほほ。そうじゃよ」
「あんた、すごいな! なあ、あんたが一緒に来てくれよ。こいつよりも役に立ちそうだし」
 セヴルは親指でサアラを指差すと、聖導師パに尊敬のまなざしを向けた。サアラは床を踏み鳴らして抗議する。
「あのねえ!」
「ほほほほ。残念だが、そうすることは出来ぬ」
 ガリウスがセヴルに笑いかける。
「聖導師様は、お体の具合が良くないから、僕らが行くことになったのさ」
「なんだ……」
 肩を落としてがっかりするセヴルにサアラが噛み付く。
「なんだとは何よ!」
「まあまあ。それじゃあ、行こうか」
 ガリウスはこの狂犬の調教師なのか、あっさりとサアラをなだめると三人は出発をすることになった。
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