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ラブ鬼
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最近、若い子恋人たちの間で流行っているというラブ鬼という遊びあるそうだ。なんでもラブ鬼をすると恋人たちの仲はより深まるという。私も離婚する前にそんな遊びを知っていたら良かったように思うが、そもそもそういう遊びができるカップルであれば普通に仲が良いはずなのでこの遊び自体は関係がないだろう。しかし、ラブ鬼とかいうネーミングはあまりにも安直なような気がする。わかりやすいのが良いのかもしれないが、なんともすごくダサい感じがする。ダサいという反応や言葉遣いがそもそもダサいのかもしれないが、私もずいぶん年を取ったものである。
さて、このラブ鬼なるものであるが、やり方は実にシンプルである。まずはじめに手と手をつなぎ合って「しは はばびと ぼげぐ」という言葉を共に言うのである。そして、それから七日の間は互いにその体に触れてはならない。終わらせるときは七日後に始めたときと同様に手をつなぎ合い「しは はばた はぞぼ」とともに唱えるのだそうだ。まぁ、一種のおまじないのようなものなのだろう。今度編集の若い子に教えてやらせてみようかと思う。
ということで早速編集作業に来ているA子にラブ鬼のことを聞いてみた。彼女はラブ鬼のことを全く知らなかった上に興味も無いようだった。でも、やらせてみたい友人がいるということなのでそのやり方を教えてあげた。
次の脚本の打ち合わせに追われていてしばらくこの事を忘れていたのだが、A子のほうから結果を教えてくれた。
「友達に教えてあげたんですけど、なんか別れちゃったみたいで……」
「そうなの? まぁ、そんなもんだよね」
「そろそろ別れたいって言ってたんでそんな気持ちが変わればいいなって思っていたんですけど難しいですね」
「まぁ、結局は仲がいいカップルがやるもんだろうからね」
「えー、でも、それじゃあ意味なくないですか?」
「おまじないなんてそんなものだよ」
それっきりこのラブ鬼のことは忘れていたが、はじめにこのことを教えてくれた倉庫の管理会社の佐々木さんがまたやってきてこんな話をしてくれた。
「ラブ鬼って前にあったでしょ? あれね、どうも縁切りのまじないらしいんだ。うん。でね、去年さ、N大学で学生が事件を起こしたでしょ? どうもあれってラブ鬼のせいじゃないかって話なんだよね」
「N大学の事件ってなんでしたっけ?」
「女の子が交際していた男の子をバラバラにしちゃったって事件」
「そんな事件ありましたっけ?」
「結構テレビとかでもやってたけどなぁ」
「私、テレビ見ないんで」
「ああ、そう。でも、ネットでも結構大騒ぎだった気がするんだけどなぁ」
「舞台の演出で忙しかった頃だったら見てないかも」
「あんな50人も来ないような舞台なんてやめちゃえば? オカルトのほうが儲かるでしょ?」
「いいんです。ほっといて下さい。それよりどんな話だったか聞かせて下さい」
N大学の学生池田ユリ(仮名)は2つ上の上級生の春日シュン(仮名)と交際をしていた。付き合ってから1年が経過していたが春日は相当な女好きでユリの他にも何人かと隠れて交際をしていたそうである。また、新入生がやってくるとまたそちらにも手を出すような男だったそうだ。ユリにとっては初めて交際した男が春日のような男だったこともあり別れることも出来ずにズルズルと交際を続けてしまっていた。ユリ自身は周りの女友達にも「別れたい」と漏らすこともあったがそれでも春日から離れられずに日々を過ごしていたという。
そんなときにユリがどこかでラブ鬼の話を耳にして春日と一緒にやってみたそうだ。春日は真面目には取らなかったようだがユリにとっては人生をかけた瞬間だったのかもしれない。
七日の間交際相手に触らない。これは一見、簡単なことのようだが下半身が先行して生きているような人間にとっては七日間と言うのは地獄なのかもしれない。ところがである。複数交際をしていた春日にとっては好都合だったのか、ユリが触れられない事をいいことにここぞとばかりに交際女性数人と関係を持ったようだ。逆にそれに耐えられなかったのがユリの方である。ユリは七日保たずに春日の手に触れた。そして、衆人環視の中で大喧嘩の末にユリは春日を捨てた。
話はここで終わればよかった。しかし、今度は捨てられた春日がユリに執着を見せるようになったという。そして、春日の熱心さにユリは心を動かされたのか縒りを戻す。しかし、春日の性根は治らず、ユリはまた春日から離れる。離れると春日がユリを求める。
そんな繰り返しの末に今度は春日の方からラブ鬼をしようと提案した。二人の関係に冷めきっていたユリは別れるのにちょうどいい機会だと思ってその提案に乗ったという。不思議なことに春日をバラバラにしたユリはすでに春日との関係を終わらせたがっていたのである。後の取り調べでユリはこんな事を言っていたという。
「一週間触れなかったら彼もまた他の女とくっつくでしょ。そうしたら別れる理由が出来ると思ったんだけど、彼、私の部屋で他の女としてたのよ。呆れちゃって私が部屋を出ていったらしばらくして追いかけてきたのよ。私の手を握って、もう二度としないって言うの。もう何回もその言葉を聞いたんだけど、手を握られてたら何か独り占めしたくなってきちゃって、それで殺そうと思ったんです」
佐々木さんが話してくれたのはそんなような中身だった。ラブ鬼はあくまできっかけであり原因ではない。ただ、少し気になることがあった。
「途中で触っちゃったんですね」
「途中で触っちゃったんだねぇ」
「2回とも途中で終わってしまったのなら、きっとどちらもきちんと終了できていないですよね」
「そうなのよ。あぁ、途中で終わらせるから縁切りになるってことなのかな」
「佐々木さん、この話、あまり広めないほうが良いかもしれませんね」
「なんで? 怖い?」
「怖いっていうか、得体の知れない不気味さがないですか?」
「そう? 何か気にしすぎじゃない?」
「殺された男にも問題があったと思うんですけど縁を切るタイミングできちんと切れてないじゃないですか」
「まぁ、所詮おまじないだし、偶然偶然」
「佐々木さんがラブ鬼のせいじゃないかって言ったんですよ」
「そうだっけ?」
「まぁ、ラブ鬼とかダサい名前の遊びが流行るとは思えないのですぐに忘れられちゃいますよ」
「ダサい? 僕はわりとこの名前スキなんだけどなぁ。ダメ? ラブ鬼って」
佐々木さんは笑って帰っていった。入れ替わりで編集のA子がやってきて教えてくれた。
「友達、なんかやり直したみたいです。おまじない効いたみたいですよ!」
また新しい事件が起こらないことを祈っている。
さて、このラブ鬼なるものであるが、やり方は実にシンプルである。まずはじめに手と手をつなぎ合って「しは はばびと ぼげぐ」という言葉を共に言うのである。そして、それから七日の間は互いにその体に触れてはならない。終わらせるときは七日後に始めたときと同様に手をつなぎ合い「しは はばた はぞぼ」とともに唱えるのだそうだ。まぁ、一種のおまじないのようなものなのだろう。今度編集の若い子に教えてやらせてみようかと思う。
ということで早速編集作業に来ているA子にラブ鬼のことを聞いてみた。彼女はラブ鬼のことを全く知らなかった上に興味も無いようだった。でも、やらせてみたい友人がいるということなのでそのやり方を教えてあげた。
次の脚本の打ち合わせに追われていてしばらくこの事を忘れていたのだが、A子のほうから結果を教えてくれた。
「友達に教えてあげたんですけど、なんか別れちゃったみたいで……」
「そうなの? まぁ、そんなもんだよね」
「そろそろ別れたいって言ってたんでそんな気持ちが変わればいいなって思っていたんですけど難しいですね」
「まぁ、結局は仲がいいカップルがやるもんだろうからね」
「えー、でも、それじゃあ意味なくないですか?」
「おまじないなんてそんなものだよ」
それっきりこのラブ鬼のことは忘れていたが、はじめにこのことを教えてくれた倉庫の管理会社の佐々木さんがまたやってきてこんな話をしてくれた。
「ラブ鬼って前にあったでしょ? あれね、どうも縁切りのまじないらしいんだ。うん。でね、去年さ、N大学で学生が事件を起こしたでしょ? どうもあれってラブ鬼のせいじゃないかって話なんだよね」
「N大学の事件ってなんでしたっけ?」
「女の子が交際していた男の子をバラバラにしちゃったって事件」
「そんな事件ありましたっけ?」
「結構テレビとかでもやってたけどなぁ」
「私、テレビ見ないんで」
「ああ、そう。でも、ネットでも結構大騒ぎだった気がするんだけどなぁ」
「舞台の演出で忙しかった頃だったら見てないかも」
「あんな50人も来ないような舞台なんてやめちゃえば? オカルトのほうが儲かるでしょ?」
「いいんです。ほっといて下さい。それよりどんな話だったか聞かせて下さい」
N大学の学生池田ユリ(仮名)は2つ上の上級生の春日シュン(仮名)と交際をしていた。付き合ってから1年が経過していたが春日は相当な女好きでユリの他にも何人かと隠れて交際をしていたそうである。また、新入生がやってくるとまたそちらにも手を出すような男だったそうだ。ユリにとっては初めて交際した男が春日のような男だったこともあり別れることも出来ずにズルズルと交際を続けてしまっていた。ユリ自身は周りの女友達にも「別れたい」と漏らすこともあったがそれでも春日から離れられずに日々を過ごしていたという。
そんなときにユリがどこかでラブ鬼の話を耳にして春日と一緒にやってみたそうだ。春日は真面目には取らなかったようだがユリにとっては人生をかけた瞬間だったのかもしれない。
七日の間交際相手に触らない。これは一見、簡単なことのようだが下半身が先行して生きているような人間にとっては七日間と言うのは地獄なのかもしれない。ところがである。複数交際をしていた春日にとっては好都合だったのか、ユリが触れられない事をいいことにここぞとばかりに交際女性数人と関係を持ったようだ。逆にそれに耐えられなかったのがユリの方である。ユリは七日保たずに春日の手に触れた。そして、衆人環視の中で大喧嘩の末にユリは春日を捨てた。
話はここで終わればよかった。しかし、今度は捨てられた春日がユリに執着を見せるようになったという。そして、春日の熱心さにユリは心を動かされたのか縒りを戻す。しかし、春日の性根は治らず、ユリはまた春日から離れる。離れると春日がユリを求める。
そんな繰り返しの末に今度は春日の方からラブ鬼をしようと提案した。二人の関係に冷めきっていたユリは別れるのにちょうどいい機会だと思ってその提案に乗ったという。不思議なことに春日をバラバラにしたユリはすでに春日との関係を終わらせたがっていたのである。後の取り調べでユリはこんな事を言っていたという。
「一週間触れなかったら彼もまた他の女とくっつくでしょ。そうしたら別れる理由が出来ると思ったんだけど、彼、私の部屋で他の女としてたのよ。呆れちゃって私が部屋を出ていったらしばらくして追いかけてきたのよ。私の手を握って、もう二度としないって言うの。もう何回もその言葉を聞いたんだけど、手を握られてたら何か独り占めしたくなってきちゃって、それで殺そうと思ったんです」
佐々木さんが話してくれたのはそんなような中身だった。ラブ鬼はあくまできっかけであり原因ではない。ただ、少し気になることがあった。
「途中で触っちゃったんですね」
「途中で触っちゃったんだねぇ」
「2回とも途中で終わってしまったのなら、きっとどちらもきちんと終了できていないですよね」
「そうなのよ。あぁ、途中で終わらせるから縁切りになるってことなのかな」
「佐々木さん、この話、あまり広めないほうが良いかもしれませんね」
「なんで? 怖い?」
「怖いっていうか、得体の知れない不気味さがないですか?」
「そう? 何か気にしすぎじゃない?」
「殺された男にも問題があったと思うんですけど縁を切るタイミングできちんと切れてないじゃないですか」
「まぁ、所詮おまじないだし、偶然偶然」
「佐々木さんがラブ鬼のせいじゃないかって言ったんですよ」
「そうだっけ?」
「まぁ、ラブ鬼とかダサい名前の遊びが流行るとは思えないのですぐに忘れられちゃいますよ」
「ダサい? 僕はわりとこの名前スキなんだけどなぁ。ダメ? ラブ鬼って」
佐々木さんは笑って帰っていった。入れ替わりで編集のA子がやってきて教えてくれた。
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また新しい事件が起こらないことを祈っている。
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