ホラーみてごらん……。

大秦頼太

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真夏のホラー_その1

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 3ヶ月前に亡くなった友人Aから手紙が来た。誰かのイタズラかと思ったが、書かれている文面を読んでいくと確かに亡くなった友人Aのようである。では、死ぬ前に書かれたのかと封筒の消印を見れば一週間ほど前である。

 短い挨拶と雑談のあとに少し気になることがあるから会いに行くと書かれている。その文を見た時、ゾワゾワっと背筋が寒くなった。と、いうのも友人Aに対して、一つ、たった一つだが嘘をついていたことがあったのだ。それは中学生時代の小さな嘘だ。我が身可愛さゆえの嘘とでも言うのだろうか。

 学生時代、友人Aには好きな女子がいた。私たちはそれを知って彼をけしかけたがAは決して乗らなかった。そこで偽のラブレターを書いてAの下駄箱に入れたのだ。そのイタズラは決して良い結果を産まなかった。Aは執拗にその子を追いかけ回し、その子は夏休みが終わる頃に引っ越しをしてしまったのだ。

 私たちは誰もラブレターが嘘だったことは言わなかった。もしそれをAが知れば、あの女子に行われていたような執拗な付きまといが私たちにも行われることが想像できたからである。あの一見のお陰で、Aとは長い間友人でいることにもなった。そうでなければ卒業するまでの短い縁だったろう。

 高校大学と別の道を進んでもAは友人であり続けた。ほぼ毎朝駅で顔を見かけたし、こちらのバイト先にもよく遊びに来ていた。本当は知っていたのかもしれない。Aはこっちから謝ってくるのを待っていたのかもしれない。
そう思うと死んだAが可愛そうに思えてきた。

 共通の友人を誘って今度Aの墓参りに行くことにした。時間は過ぎて行き、あっという間にその何日か前になった。その晩のことである。
 その晩は蒸し蒸ししていてどうにも寝心地が悪く、眠りが浅かった。普段は気にならないクーラーの風切音が妙に大きく聞こえた。

 その音の中に、誰かの話し声が紛れ込んでいることに気がついた。ぱっと目を開けると、時計は夜二時を少し回った頃。身体を起こそうとしたが動かない。声は、音とともにどんどんと大きくなっていく。
 私は夢中で声にならない声をつぶやいた。
「悪かった。あのラブレターを書いたのは俺たちなんだ」

 クーラーの風切音が突然止んで、Aの声だけがクリアに聞こえた。耳のそばで言われたくらいにはっきりと。
「ねぇ、僕があの子を殺したのを知ってた?」
 ギョッと驚いたが身体は動かなかった。声の主を捜した目だけがAを捉えた。
 Aはクーラーの通風口の隙間から濁った目をこちらに向けていた。

 情けないことに、気がついた時には朝だった。特にそれ以上のことはなかった。自分自身の後ろめたさが引き金になって悪い夢を見たのだ。
 それから数日後、友人数人とAの家に行くとAの母親がAの部屋に通してくれた。亡くなって以降もずっとそのままだという。

 居心地が悪かったがすぐ帰るわけにも行かないので、Aの思い出話をすることになった。私には思った以上のAとの思い出はなく、数日前の奇妙な夢の話をした。するとである。全員が同じような夢を見ていたのだ。
 すぐにでも帰りたかったが、そんな中、誰かがAの日記を見つけた。

 Aの日記には、何でもない日常のことが書いてあった。
 後数ページで終わりそうだったが、急に白紙になり、そこには長い髪が挟んであった。そしてうっすらと、
「しられてたらぜんいんころす」とインクの無くなったペンで文字が書かれていた。
 私たちは気持ちが悪くなったのですぐに帰ることにした。

 しばらく経って、友人の一人が自殺をした。
 私は怖くて葬式に行けなかった。不義理だとは思ったが、どうしても行けなかった。
 その葬式の帰りに別の友人が事故にあって死んだ。

 真夜中のクーラーからは誰かの声が聞こえてくる。最近は、何人かで会話をしている。


                                               了
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