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新おいてけ堀
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おいてけぼりって言う話がありましてね。本所七不思議の中の一つなんですが、落語でも有名な話なんですね。
ただ、これはもう江戸時代の典型的な都市伝説でして、まぁご存じない方のために少しだけ話しておきますと、江戸の頃は本所の辺りはとても水路が多かったそうです。
錦糸町辺りにある堀で仲の良い釣り人が二人。釣りを始めるとこれが面白いようによく釣れる。二人はもう夢中になって入れればかかる魚を釣り続けたわけなんですな。
気がつけばもう夕方だ。そろそろ帰らなきゃならねえ。っていうことで二人は良い土産が出来たと気分よく帰ろうとした。ところがだ。魚かごを担いで堀を離れようとしたときに後ろから声がする。二人は互いに顔を向けて自分たちの声じゃないと思った。
「……おいてけ」
おいてけ。声は確かにそう聞こえる。堀から離れようとするとその声も近づいてくる。
「おいてけ……」
今度はずいぶんとはっきり聞こえたもんだから、二人は飛び上がって魚かごを捨てて逃げ帰った。だいぶ走ったところで「あれは一体なんだったんだ」と言う話になって、二人は恐る恐る見に戻った。
するとそこには空になった魚かごが転がっているばかりであった。
と、まぁこんな感じのお話なんですがね。今日これからお話しするのは、このおいてけぼりに似ている話なんですね。
千葉県にはこれまた堀とまではいかないが沼や池のようなものがたくさんあって、釣り人がブラックバスなんかを勝手に放流して釣りを楽しんでいるようなところも多いんですが、ある山の中にある沼がその舞台なんです。
その沼は、皆さんが行かれては困るのでA沼とでもしておきましょうか。ここに二人の釣り人がやってきた。これも最近は個人情報がどうだのって言うんで仮に後藤さんと清水さんって言うことにしておきましょう。
後藤さんと清水さんは十数年来の釣り友達で、千葉県中のありとあらゆるところで釣りを楽しんでいました。お互いにそろそろ県外にも行きたいもんだね。仕事を定年したら全国を回ろうか。いや、世界中を回ろうじゃないかと笑いあっておりました。
千葉県の中で知らない場所は無いって言う二人だったんですが、このA沼はこの二人にとっても初めての釣り場だったんですね。それと言うのも、山の中にあって急に開けた場所にある沼だったもんで、これは清水さんが航空写真で偶然発見したんですな。
それで清水さんは、仲の良い後藤さんだけに声をかけて夜も明けないうちに連れ立ってA沼に向かいました。車でしばらく行くとすぐに車道なんかはなくなりますから、二人は獣道を枝や草を掻き分けて進んでいくわけですね。肩には大きなクーラーボックスをそれぞれ担いでどんどん行くんですね。
そうやって二時間くらい進みますと、急に目の前が開けました。その光景に後藤さんも清水さんも感嘆しましてね。
「なんでこんな良さそうなところが今まで有名にならなかったんだろうかね」
後藤さんはそう言って風景を写真に収めたんですね。その間にも清水さんは釣りの準備を始めまして早速ポイントを探すんですね。
「帰りのことも考えると、すぐに始めないと損だぞ」
そう言うと竿を水の中に投げ入れたんですね。するとどうですか。十秒もしないうちにくくっと糸を引く手ごたえがあって、清水さんはすぐに大物を釣り上げたんですな。
これには後藤さんもびっくりして自分もすぐに支度をして、釣りを始めました。するとこっちも十秒もしないうちに清水さんよりも大きな魚があがってくるんですな。
二人は互いにむきになって釣っては入れ、釣っては入れを繰り返しました。
あっという間にクーラーボックスもいっぱいになり、昼前でしたが二人はそろそろ帰ろうかという感じになったんですな。
二人がクーラーボックスを担いで沼に背を向けると、周りの木々がざわめくんですな。
あれ? おかしいな。さっきまで風一つ吹いていなかったのに。
そう思いながらも行きに来た森へ向かって歩き出すんですね。そんな二人の背中の方から、
「……たすけて」
という声が聞こえてくるんですね。男の声とも女の声とも着かない、人間の声じゃないようなそんな声が聞こえてくるもんで、後藤さんも清水さんも恐ろしくてそっちには向けないんで互いに目を合わせて、「走って逃げよう」と合図をした。それで呼吸を合わせて走り出したんだが、このとき清水さんはクーラーボックスを捨てて走り出したのに対し、後藤さんはそれが原因で草むらの中に転んでしまった。
「たすけてぇ!」
絶叫のような声がして、後藤さんの背の上を何かが恐ろしい勢いで通り過ぎると、だいぶ前を走っていた清水さんに黒い何かが覆いかぶさった。その黒い物体は清水さんをくちばしのような物で清水さんの頭を執拗に突き続ける。清水さんも暴れながら「助けてくれ! 助けてくれ! 後藤! お願いだ!」と叫び声をあげるんですね。後藤さんはただただ恐ろしくて、ゆっくりと立ち上がって黒い影に気がつかれないように側の森に身を隠し清水さんが解体されていくところを見ていました。
その間も清水さんの声が聞こえてくるんですよ。
「助けてくれ! 助けてくれ! ゴトー、タスケテ! オネガイダ!」
頭はもう黒い影に飲み込まれたしまってるのに声だけは聞こえてくる。後藤さんは怖くて耳をふさぎながらも、一部始終を見届けないわけには行かなかった。黒い影は千切れんばかりに清水さんの腕を左右に振ってどうやっても取れないと思うと、影は清水さんの体をくちばしで空に向かって抱えあげると口を開いて清水さんの体を飲み込んでしまった。
それから辺りを何かを探すようにうかがって二本の太い足で草原を歩き回る。
「タスケテ! ゴトー! ゴトー! オネガイダ!」
清水さんの声だと思っていたのは、その黒い影の声だったんです。
後藤さんはね後で教えてくれたんですよ。その黒い影のことを。
それは大きな鳥だったんですよ。何て言うんでしょうかね。毛が生えていたけどなんだか恐竜みたいなそんな感じがしたって言うんですね。
後藤さんが森の中に入って息を殺してじっといたらその大きな鳥は首をかしげて飛んでいってしまったそうです。それでもまだ動くことが出来ずに後藤さんは夜を待って帰って行ったそうです。
ただ、これはもう江戸時代の典型的な都市伝説でして、まぁご存じない方のために少しだけ話しておきますと、江戸の頃は本所の辺りはとても水路が多かったそうです。
錦糸町辺りにある堀で仲の良い釣り人が二人。釣りを始めるとこれが面白いようによく釣れる。二人はもう夢中になって入れればかかる魚を釣り続けたわけなんですな。
気がつけばもう夕方だ。そろそろ帰らなきゃならねえ。っていうことで二人は良い土産が出来たと気分よく帰ろうとした。ところがだ。魚かごを担いで堀を離れようとしたときに後ろから声がする。二人は互いに顔を向けて自分たちの声じゃないと思った。
「……おいてけ」
おいてけ。声は確かにそう聞こえる。堀から離れようとするとその声も近づいてくる。
「おいてけ……」
今度はずいぶんとはっきり聞こえたもんだから、二人は飛び上がって魚かごを捨てて逃げ帰った。だいぶ走ったところで「あれは一体なんだったんだ」と言う話になって、二人は恐る恐る見に戻った。
するとそこには空になった魚かごが転がっているばかりであった。
と、まぁこんな感じのお話なんですがね。今日これからお話しするのは、このおいてけぼりに似ている話なんですね。
千葉県にはこれまた堀とまではいかないが沼や池のようなものがたくさんあって、釣り人がブラックバスなんかを勝手に放流して釣りを楽しんでいるようなところも多いんですが、ある山の中にある沼がその舞台なんです。
その沼は、皆さんが行かれては困るのでA沼とでもしておきましょうか。ここに二人の釣り人がやってきた。これも最近は個人情報がどうだのって言うんで仮に後藤さんと清水さんって言うことにしておきましょう。
後藤さんと清水さんは十数年来の釣り友達で、千葉県中のありとあらゆるところで釣りを楽しんでいました。お互いにそろそろ県外にも行きたいもんだね。仕事を定年したら全国を回ろうか。いや、世界中を回ろうじゃないかと笑いあっておりました。
千葉県の中で知らない場所は無いって言う二人だったんですが、このA沼はこの二人にとっても初めての釣り場だったんですね。それと言うのも、山の中にあって急に開けた場所にある沼だったもんで、これは清水さんが航空写真で偶然発見したんですな。
それで清水さんは、仲の良い後藤さんだけに声をかけて夜も明けないうちに連れ立ってA沼に向かいました。車でしばらく行くとすぐに車道なんかはなくなりますから、二人は獣道を枝や草を掻き分けて進んでいくわけですね。肩には大きなクーラーボックスをそれぞれ担いでどんどん行くんですね。
そうやって二時間くらい進みますと、急に目の前が開けました。その光景に後藤さんも清水さんも感嘆しましてね。
「なんでこんな良さそうなところが今まで有名にならなかったんだろうかね」
後藤さんはそう言って風景を写真に収めたんですね。その間にも清水さんは釣りの準備を始めまして早速ポイントを探すんですね。
「帰りのことも考えると、すぐに始めないと損だぞ」
そう言うと竿を水の中に投げ入れたんですね。するとどうですか。十秒もしないうちにくくっと糸を引く手ごたえがあって、清水さんはすぐに大物を釣り上げたんですな。
これには後藤さんもびっくりして自分もすぐに支度をして、釣りを始めました。するとこっちも十秒もしないうちに清水さんよりも大きな魚があがってくるんですな。
二人は互いにむきになって釣っては入れ、釣っては入れを繰り返しました。
あっという間にクーラーボックスもいっぱいになり、昼前でしたが二人はそろそろ帰ろうかという感じになったんですな。
二人がクーラーボックスを担いで沼に背を向けると、周りの木々がざわめくんですな。
あれ? おかしいな。さっきまで風一つ吹いていなかったのに。
そう思いながらも行きに来た森へ向かって歩き出すんですね。そんな二人の背中の方から、
「……たすけて」
という声が聞こえてくるんですね。男の声とも女の声とも着かない、人間の声じゃないようなそんな声が聞こえてくるもんで、後藤さんも清水さんも恐ろしくてそっちには向けないんで互いに目を合わせて、「走って逃げよう」と合図をした。それで呼吸を合わせて走り出したんだが、このとき清水さんはクーラーボックスを捨てて走り出したのに対し、後藤さんはそれが原因で草むらの中に転んでしまった。
「たすけてぇ!」
絶叫のような声がして、後藤さんの背の上を何かが恐ろしい勢いで通り過ぎると、だいぶ前を走っていた清水さんに黒い何かが覆いかぶさった。その黒い物体は清水さんをくちばしのような物で清水さんの頭を執拗に突き続ける。清水さんも暴れながら「助けてくれ! 助けてくれ! 後藤! お願いだ!」と叫び声をあげるんですね。後藤さんはただただ恐ろしくて、ゆっくりと立ち上がって黒い影に気がつかれないように側の森に身を隠し清水さんが解体されていくところを見ていました。
その間も清水さんの声が聞こえてくるんですよ。
「助けてくれ! 助けてくれ! ゴトー、タスケテ! オネガイダ!」
頭はもう黒い影に飲み込まれたしまってるのに声だけは聞こえてくる。後藤さんは怖くて耳をふさぎながらも、一部始終を見届けないわけには行かなかった。黒い影は千切れんばかりに清水さんの腕を左右に振ってどうやっても取れないと思うと、影は清水さんの体をくちばしで空に向かって抱えあげると口を開いて清水さんの体を飲み込んでしまった。
それから辺りを何かを探すようにうかがって二本の太い足で草原を歩き回る。
「タスケテ! ゴトー! ゴトー! オネガイダ!」
清水さんの声だと思っていたのは、その黒い影の声だったんです。
後藤さんはね後で教えてくれたんですよ。その黒い影のことを。
それは大きな鳥だったんですよ。何て言うんでしょうかね。毛が生えていたけどなんだか恐竜みたいなそんな感じがしたって言うんですね。
後藤さんが森の中に入って息を殺してじっといたらその大きな鳥は首をかしげて飛んでいってしまったそうです。それでもまだ動くことが出来ずに後藤さんは夜を待って帰って行ったそうです。
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