迷宮の主

大秦頼太

文字の大きさ
36 / 107
冬のあほうつかい

冬のあほうつかい 25

しおりを挟む
25

「なんだなんだ?」
「お前らか? 独占をしてたのは?」
「つまんねー真似をしやがって」
「ここを誰の縄張りか知っての所業だろうなぁ」
「兄ちゃんショギョーって何だ?」
「仕業ってことだよ」
「ああ、ぞうか。シワザって?」
「仕業は所業のことだろ」
「ああ、ぞうか」
 怒号と罵声を上げながら坂のような階段を下りてくるのは三人の男たちだった。金属鎧に身を包む彼らはメイスや大斧を肩に担いでやってくる。
「返答次第では、生きて帰さねえぞ」
 一番前を来た髭面で髪を一本にまとめた男はメイスを肩から下ろすと、階段の上でシビトと目線を同じに合わせた。段数で言えば五段の高さの違いがあった。
「独占?」
 ナサインが脇から声を上げると髭面の右横に立っていた赤ら顔が大斧を振り上げて威嚇する。振り乱した長い髪が炎のように揺らめいている。
「してただろうが! 独占だ」
「兄ちゃんドクセンってなんだ」
 赤ら顔の男に尋ねるのは眉毛の無い三つ編みの男だった。男たちは背丈も表情もどこか類似していた。赤ら顔が眉無しに顔を向ける。
「独占って言うのは、独り占めだ」
「ぞうか、独り占めか」
 ナサインが後の二人にかまわずに前の男に話しかける。
「俺たちはここで休んでただけだ。ここにずっといるつもりは無い」
 髭面が大声で笑った。
「あんなに荒らしやがって、しらばっくれるつもりか?」
「あれじゃあ、復旧に三日はかかる」
「兄ちゃん、フッキュウって?」
「復旧は元通りに再生するってことだ」
「ああ、ぞうか。サイセイって?」
「復旧のことだ」
「ああ、ぞうか」
「緊急だったんだ」
 ナサインの言葉に髭面が笑いを止める。
「で、出たのか?」
「何が?」
「大丸蟲だよ」
「普通のより一回りくらい大きいのなら」
「ふうむ」
 髭面は考え込む。赤ら顔が周囲を見回す。
「兄貴」
「なんだ?」
 赤ら顔は階下を顎で指す。髭面はすぐに表情を和らげた。
「なんだよ。悪かったな、俺たちはお前たちに危害を加える気なんて無いんだよ。そんなに身構えるなよ」
「兄ちゃん、キガイって?」
「お前は黙ってろ」
「教えてよぉ」
「危害って言うのは、暴力だ」
「ぞうか、暴力は知ってるよ。兄ちゃんたち得意だもんね。特に相手が後ろを向いたときとか」
 髭面と赤ら顔が眉無しを見る。眉無しは不思議顔でそれを見返す。髭面と赤ら顔の拳が同時に眉無しの腹に命中し、眉無しは階段に座り込む。
「痛いよぉ」
 眉無しは一瞬無言になった。
「鎧着てるから大丈夫だった」
 そう言って頭をかく。髭面が咳払いをして仕切りなおす。
「大丸蟲はまだ出てないんだな?」
「俺たちが見たのは一回り大きい奴だけだ」
「そんなにデカイのか?」
 シビトが口を開く。ナサインがそれをにらむが、シビトは無視した。
「デカイなんてもんじゃないぜ。家だなあれは」
 ナサインはシビトに耳打ちする。
「俺はそんなの知らないぞ」
「何だ?」
 髭面に指を指されてナサインは口を開く。
「そんな丸蟲が出ることなんて知らない」
「レアモンスターだからな。知らなくても当然だ」
「書き換えなんて出来ないはずだぞ」
 ナサインは独り言を呟く。
「兄貴、二年か三年前にも同じようなことが無かったか?」
「なに?」
 髭面は顔を抑えながら考え込む。ナサインが声を上げる。
「おい、大丸蟲っていつからいるんだよ」
「昔からに決まってんだろ」
 赤ら顔が吐き捨てるように言うと、ナサインも腕を組んで考え込む。髭面とナサインのうなり声が不愉快なハーモニーになって辺りに響いていく。
「や、こいつは俺の勘違いだったようだ」
 髭面が急に笑顔を作った。
「戻るぞ」
 そう言うと赤ら顔と眉無しの肩を叩いて坂のような階段を上っていく。
「待て」
 ナサインは男たちを呼び止める。止まらない男たちになおも声をかける。
「おい」
「大丸蟲なんかいねえよ。冗談だー」
 声は立ち止まっていないことを教えてくれる。
「え? いないの? 俺見たことあるよ」
「お前は黙ってろ。俺たちが独占出来なくなるだろうが」
「え? ドクセンっていけないんじゃなかったの?」
「俺たちはいいんだよ」
 声はやがて聞こえなくなった。
「ミクモの野郎、嘘ばっかりじゃねえか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!

風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。 185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク! ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。 そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、 チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、 さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて―― 「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」 オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、 †黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...