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冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 26
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26
「氷の魔術師ロスは氷の城と迷宮の主でした。わたくしたちの一族は古くからこの地に住んでいたそうです。争いに敗れてもまた城を取り返したりと長い間この上の城に住んでいたと言います。今から五年ほど前、戦争でもここでも敗れ父は死にました。父の言葉では上の階層で母も亡くなったはずでした。それが嘘かもしれないと思ったのは、最近になって母の声を町の中で聞いたからです。その時は気のせいかと思ったのですが、直後に姿を見ることになったのです。わたくしは母を追いかけました。けれどすぐに見失ってしまい、どうして良いのかわからなくなってしまいました。そんな時、わたくしの魔術の師があなた達のことを教えてくれたのです。ここで母の死の証拠でも見つかれば全てが勘違いだったと納得できたのでしょうが、そうはなりませんでした。母が死んだと言われていた地下四階では魔物が変わっておりましたし、ここで姿が変わった母を見てしまいました」
「この杖は?」
「わたくしの父のものです」
イラリは目を閉じる。グスタフが杖をどうしようか悩んでいた。
「帰るか。マリを弔ってやりたいしな」
「イラリ、杖はどうする?」
「爺さん使うか?」
「ワシには使えん」
「なら売るか」
シミュラは左手を伸ばして象牙色の長大な杖に触れようとする。グスタフが引いて避ける。右手はまだ自由にならなかった。
「お願いです。それを返してください」
グスタフがイラリを見るがイラリは反対した。
「ダメだ。お前はここに残れ」
イラリはシミュラの非難の声を無視してマリを固めている白い塊に触れる。
「爺さん、これは壊せないのか?」
ニコデムスが傍に行き調べるがどうも難しいようだった。
反対側に回り込んだニコデムスがいきなり吹き飛んだ。かなりの高さまで浮き上がった後、頭から床に落ちてそのまま動かなくなった。イラリは長剣を抜いてニコデムスに駆け寄る。グスタフは象牙色の長大な杖をその場に捨てて金棒を身構える。シミュラと杖との距離は二十歩はあった。
イラリはニコデムスの生存確認をすると、グスタフに向かって首を横に振る。
今度はマリの体を覆っていた白い塊が砕け、マリの体と共に宙に飛んだ。
そこに立っていたのは黒い道衣の男だった。
「バカな。とどめを刺したはず」
「それは私が主だからだよっ!」
グスタフの頭上から黒い影が襲いかかりグスタフを吹き飛ばす。大蜘蛛ナミュラはそのまま体制を崩しているグスタフに突進をして上に覆いかぶさると、執拗に頭を狙って前脚を振り下ろし続ける。
「良くも騙したな!」
イラリがシミュラに向かって長剣を振り上げて息巻き走ってくる。その前に黒い道衣の男が立ちふさがる。振り下ろされる長剣を前に恐れもせずに間を詰めると左腕でイラリの両手首を受け止め、右手はイラリの腰をまわり短剣を引き抜いて奪い取った。イラリは黒い道衣の男を蹴り飛ばすと長剣を捨てて幅広の剣に持ち替える。
シミュラは象牙色の長大な杖に左手を伸ばす。届くはずのない絶望的な距離だった。
「お父様……。力を貸してください」
象牙色の長大な杖は静かに横たわるだけだった。
大蜘蛛ナミュラが逆さまの顔をシミュラに向ける。
「あいつの始末が終わったら、お前の血を吸ってやるからね」
大蜘蛛ナミュラは壁をつたって上に登っていく。
シミュラの左手が床に落ちる。頭を床に擦り付ける。淡い赤髪が震える。
「なぜ……、どうして……。せめて理由を教えてください。お母様……」
剣戟の音の他に聞こえるものはなかった。
「氷の魔術師ロスは氷の城と迷宮の主でした。わたくしたちの一族は古くからこの地に住んでいたそうです。争いに敗れてもまた城を取り返したりと長い間この上の城に住んでいたと言います。今から五年ほど前、戦争でもここでも敗れ父は死にました。父の言葉では上の階層で母も亡くなったはずでした。それが嘘かもしれないと思ったのは、最近になって母の声を町の中で聞いたからです。その時は気のせいかと思ったのですが、直後に姿を見ることになったのです。わたくしは母を追いかけました。けれどすぐに見失ってしまい、どうして良いのかわからなくなってしまいました。そんな時、わたくしの魔術の師があなた達のことを教えてくれたのです。ここで母の死の証拠でも見つかれば全てが勘違いだったと納得できたのでしょうが、そうはなりませんでした。母が死んだと言われていた地下四階では魔物が変わっておりましたし、ここで姿が変わった母を見てしまいました」
「この杖は?」
「わたくしの父のものです」
イラリは目を閉じる。グスタフが杖をどうしようか悩んでいた。
「帰るか。マリを弔ってやりたいしな」
「イラリ、杖はどうする?」
「爺さん使うか?」
「ワシには使えん」
「なら売るか」
シミュラは左手を伸ばして象牙色の長大な杖に触れようとする。グスタフが引いて避ける。右手はまだ自由にならなかった。
「お願いです。それを返してください」
グスタフがイラリを見るがイラリは反対した。
「ダメだ。お前はここに残れ」
イラリはシミュラの非難の声を無視してマリを固めている白い塊に触れる。
「爺さん、これは壊せないのか?」
ニコデムスが傍に行き調べるがどうも難しいようだった。
反対側に回り込んだニコデムスがいきなり吹き飛んだ。かなりの高さまで浮き上がった後、頭から床に落ちてそのまま動かなくなった。イラリは長剣を抜いてニコデムスに駆け寄る。グスタフは象牙色の長大な杖をその場に捨てて金棒を身構える。シミュラと杖との距離は二十歩はあった。
イラリはニコデムスの生存確認をすると、グスタフに向かって首を横に振る。
今度はマリの体を覆っていた白い塊が砕け、マリの体と共に宙に飛んだ。
そこに立っていたのは黒い道衣の男だった。
「バカな。とどめを刺したはず」
「それは私が主だからだよっ!」
グスタフの頭上から黒い影が襲いかかりグスタフを吹き飛ばす。大蜘蛛ナミュラはそのまま体制を崩しているグスタフに突進をして上に覆いかぶさると、執拗に頭を狙って前脚を振り下ろし続ける。
「良くも騙したな!」
イラリがシミュラに向かって長剣を振り上げて息巻き走ってくる。その前に黒い道衣の男が立ちふさがる。振り下ろされる長剣を前に恐れもせずに間を詰めると左腕でイラリの両手首を受け止め、右手はイラリの腰をまわり短剣を引き抜いて奪い取った。イラリは黒い道衣の男を蹴り飛ばすと長剣を捨てて幅広の剣に持ち替える。
シミュラは象牙色の長大な杖に左手を伸ばす。届くはずのない絶望的な距離だった。
「お父様……。力を貸してください」
象牙色の長大な杖は静かに横たわるだけだった。
大蜘蛛ナミュラが逆さまの顔をシミュラに向ける。
「あいつの始末が終わったら、お前の血を吸ってやるからね」
大蜘蛛ナミュラは壁をつたって上に登っていく。
シミュラの左手が床に落ちる。頭を床に擦り付ける。淡い赤髪が震える。
「なぜ……、どうして……。せめて理由を教えてください。お母様……」
剣戟の音の他に聞こえるものはなかった。
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