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冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 41
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41
雪上に投石機がずらりと並ぶ。順次弧を描いて向かってくる大石に向かって象牙色の長大な杖を向ける。
「反社鏡(ミラー)!」
空中に鏡が生み出されて大石を吸い込むと吸い込んだ勢いそのままに鏡から敵軍の投石機めがけて大石が吐き出される。複数個同時に処理することが出来ずに城壁を壊されるが、投石機の数は徐々に減っていった。
投石機を失った部隊は残骸の中からそれぞれの獲物とカンジキを取り出すと、城の前の雪原を突破しようと雪の上を二列縦隊となってやってくる。
「杖がもう一本欲しいところね」
シミュラは鏡を消すと今度は氷の槍と矢を放つ。
敵軍は氷の槍に跳ね飛ばされても氷の矢で仲間が倒されてもお構いなしに突き進んでくる。
城壁二段目のシミュラのすぐ近くに大石が炸裂して、破片がシミュラの脇を打つ。城壁の上に倒れ込むも次の大石は鏡で跳ね返すことに成功した。
象牙色の長大な杖を立ててすがりつくように立ち上がると投石機はすべて破壊できたようだった。思いの外近くにいた敵軍に氷の矢を放つ。それでも敵軍はひるまない。風に乗って歌のようなものが聞こえた。
シミュラは杖を横に振るうと柄尻で城壁を叩いた。
「雪崩(アバランチ)!」
一段目の城壁が崩壊して敵軍を一気に飲み込んでいく。城門もなくなり城の守りはなくなったに等しいがもはや攻め込んでくる者は雪の中に埋もれた。
ホッと息をついたシミュラだったが瞬間悪寒に襲われる。
「誰かが最深部に入り込んだ」
城壁の二段目が崩されたため回り道をして最深部への転移魔法陣のある寝室へに向かう。
「城攻めの最中に迷宮を攻略しに来たのか? いや、迷宮に侵入者を感じることはなかった」
廊下を二つ曲がり階段をかけ登り、寝室の扉を開け隠し扉より転移魔法陣に乗り転移を開始する。到着した部屋からすぐに扉を手をつく。
大広間に通じる扉を開くと最奥の扉にサースが手をかけるところだった。シミュラの姿に気がつくと罰が悪そうな顔をした。
「まさか敵をほったらかしにしてきたんですか?」
大広間にはかつて長いテーブルがあったが今はもう何もない。大広間はただの大広間になっている。入り口の方にはまだ数人が立っているように見えた。
「敵はもう倒したわ。そこから離れなさい」
「どうしてそんなに強いのに敵を根絶やしにしないんですか? あいつらは生きてる限り俺たちの居場所を狙ってくるのに。それじゃあ安心して寝られないんですよ」
「あなたたちの親を殺した敵と同じことをしろというの? こちらから攻め込んで村や町を襲えば、あなた達と同じ子供たちを生むのよ」
「なんだよそれ」
サースは最奥の扉に触れた。シミュラがかけてくる。
「俺の親を殺したのはあんただよ」
静かな口調だったがシミュラの足を止めるのには十分だった。
「あんたが逃した敵が俺たちの村を襲ったんだよ。子供が欲しかったんだろ? 親は邪魔だもんな。自分の言うことを聞く子供が欲しかっただけなんだあんたは。寂しかったんだろ? 当然だよな。こんなところで一人きりで暮らしてさぁ、誰も来ないもんな。あんたは孤独が嫌だったから敵を逃して村を襲わせたんだろ?」
「やめて!」
シミュラが象牙色の長大な杖を振り上げる。その瞬間、サースが最奥の扉を押した勢いで床に倒れ込んだ。
「やめてシミュラ様! カペラ、助けてくれ!」
シミュラは「なにを?」とサースを見る。その後ろから走り込んでくるカペラが見える。自身の魔法の杖をシミュラに向けて叫んだ。
「だまだまだま黙れ杖!」
途端に象牙色の長大な杖はシミュラの手を離れてドスンと床の上に倒れる。それに引きずられるように体制を崩したシミュラをサースが蹴飛ばした。
「よくやったカペラ」
サースは胸に飛び込んできたカペラの頭を撫でてやる。
床上に転がりながらサースとカペラを見るシミュラ。
「カペラ?」
シミュラの背中の上に村人が乗り、シミュラの腕をひねり上げて起き上がらせる。
「あなた見たことがある。村に移住して来た人ね」
村人は無言だった。代わりにサースが答える。
「スルホは俺の部下だよ。村人になってもらったんだ。転移魔法陣を使える仲間が欲しかったからね」
「村人を移住させようと思ったのはこういう思惑があったのね」
「あなたは百年前の人だから、今の流れについていけてないんです。このままでいれば俺たちはまた家族を失う」
「シミュラさま」
「カペラ、サースに酷いことされなかった?」
「されてないよ。喧嘩をするのをやめてほしいの。二人には仲良くしてもらいたい」
「カペラ、サースの考えとわたくしの考え方はまるで違うのよ。どちらかが諦めるしか無いの」
「俺はそうは思わない。シミュラ様だってわかってるはずだ」
サースは最奥の扉に手を触れる。扉は開かない。
「鍵がかかってる? いや、違うか。その女を連れてこい」
スルホがシミュラを引きずるようにサースの側に連れてくると、サースはシミュラの右手を取って最奥の扉に触れさせる。すると最奥の扉はゆっくりと開いていく。扉のその先には階段が下に向かって伸びていて、さらに下には大きな渦が見える。
「これでどうすれば良いんだ?」
「わたくしを殺せば良いのよ」
サースはシミュラの長い黒髪を掴んで引っ張る。
「言え!」
「わたくしを殺しなさい」
サースにはシミュラの言葉が届いていないのか、それともシミュラが自分を殺せと言っているのがただの挑戦的な態度なのかわかっていないようだった。
「スルホ、とりあえず一番下まで下がって見ろ」
サースが命じるがスルホは怯えた様子で渦を見ている。
「おい!」
サースがスルホの頬を叩くとキョトンとした顔でサースの方を見る。全身から汗が吹き出している。
「一番下まで下がって見てこい」
スルホは小刻みに頷いて階段を降り始めるのだが、思うように足を動かせなかったのか階段を踏み外して渦を取り巻く空間に投げ出されてしまう。空中で止まったスルホが安堵した顔をサースに向けたが、すぐにスルホの体はねじ切れて粉々になり空間の中に消えて無くなってしまった。
「カペラ! カペラ!」
サースの呼びかけにカペラは怯えた。魔法の杖を抱え込むようにしてサースを見る。
「カペラ、シミュラに亜法をかけろ。どうやれば俺が迷宮の主になれるか喋らせるんだ」
血走った目でカペラを見る。カペラはサースの言う通りに亜法をかける。
「しゃべしゃべしゃべーる」
サースがシミュラを見る。シミュラは悲しそうな顔をしてカペラを見つめていた。
「もう一度だ!」
「シミュラ様ごめんなさい。しゃべしゃべしゃべーる!」
カペラの亜法ほとんど鳴き声だった。魔法の杖を突き出してシュミラに向ける。
「あぁ、やはりエサイアスは死んでいたのね」
「何? それはどういう意味だ?」
「あの杖はわたくしの兄が持っていた杖」
サースはカペラが突き出している鈍く光る短い杖を見る。
「杖? あの杖がどうするんだ? 言え! カペラ!」
「しゃべしゃべしゃべーる!」
カペラの絶叫。シミュラが左手をカペラに伸ばす。
「おいで、ユーカヤック」
カペラの魔法の杖が溶けるように鈍い光に変わってシミュラの左手の中に滑り込む。その光を持ってシミュラはサースの手を払い除け突き飛ばした。最奥の扉の前でシミュラはサースを見下ろした。鈍色の短い杖がシミュラの手の中にあった。
「カペラ、心配しないで」
サースを見下ろしたままカペラを気遣うがカペラはぐしゃぐしゃな顔で泣いている。
「カペラ、なんで俺を裏切った!」
「違う。違うよ……」
座り込んで次の言葉を見つけられないカペラに変わってシミュラが続けた。
「違うわ。カペラがあなたのために亜法が使えなかったのはあなたがカペラを信じていなかったから。わたくしがもう一つの杖を取り戻せたのはただの偶然。あなたは勝負に勝っていたのに自らそれを手放したのよ」
「そうさ。俺は勝ってたんだ。カペラがミスをしなければ俺がこの迷宮の主になっていたんだ」
シミュラは右手でサースの頬を叩いた。
「カペラの亜法を奪ったのはあなたよ。あなたも亜法使いだったのに忘れたの? 不安や恐怖は亜法の力を奪うものじゃないの。人のものを羨むのはもうやめなさい!」
サースはしばらくは黙ってうなだれたままだったが、シミュラから逃げるように立ち上がって大広間の扉の方へ戻っていく。
シミュラは最奥の扉を閉じる。
「カペラ」
差し出したシミュラの手をカペラは振り払ってサースを追いかけた。
二人が大広間から出ていくのを見送ってシミュラは象牙色の長大な杖を拾い上げる。鈍色の短い杖はシミュラの左腕に蛇のように巻き付いて腕輪に変わる。
雪上に投石機がずらりと並ぶ。順次弧を描いて向かってくる大石に向かって象牙色の長大な杖を向ける。
「反社鏡(ミラー)!」
空中に鏡が生み出されて大石を吸い込むと吸い込んだ勢いそのままに鏡から敵軍の投石機めがけて大石が吐き出される。複数個同時に処理することが出来ずに城壁を壊されるが、投石機の数は徐々に減っていった。
投石機を失った部隊は残骸の中からそれぞれの獲物とカンジキを取り出すと、城の前の雪原を突破しようと雪の上を二列縦隊となってやってくる。
「杖がもう一本欲しいところね」
シミュラは鏡を消すと今度は氷の槍と矢を放つ。
敵軍は氷の槍に跳ね飛ばされても氷の矢で仲間が倒されてもお構いなしに突き進んでくる。
城壁二段目のシミュラのすぐ近くに大石が炸裂して、破片がシミュラの脇を打つ。城壁の上に倒れ込むも次の大石は鏡で跳ね返すことに成功した。
象牙色の長大な杖を立ててすがりつくように立ち上がると投石機はすべて破壊できたようだった。思いの外近くにいた敵軍に氷の矢を放つ。それでも敵軍はひるまない。風に乗って歌のようなものが聞こえた。
シミュラは杖を横に振るうと柄尻で城壁を叩いた。
「雪崩(アバランチ)!」
一段目の城壁が崩壊して敵軍を一気に飲み込んでいく。城門もなくなり城の守りはなくなったに等しいがもはや攻め込んでくる者は雪の中に埋もれた。
ホッと息をついたシミュラだったが瞬間悪寒に襲われる。
「誰かが最深部に入り込んだ」
城壁の二段目が崩されたため回り道をして最深部への転移魔法陣のある寝室へに向かう。
「城攻めの最中に迷宮を攻略しに来たのか? いや、迷宮に侵入者を感じることはなかった」
廊下を二つ曲がり階段をかけ登り、寝室の扉を開け隠し扉より転移魔法陣に乗り転移を開始する。到着した部屋からすぐに扉を手をつく。
大広間に通じる扉を開くと最奥の扉にサースが手をかけるところだった。シミュラの姿に気がつくと罰が悪そうな顔をした。
「まさか敵をほったらかしにしてきたんですか?」
大広間にはかつて長いテーブルがあったが今はもう何もない。大広間はただの大広間になっている。入り口の方にはまだ数人が立っているように見えた。
「敵はもう倒したわ。そこから離れなさい」
「どうしてそんなに強いのに敵を根絶やしにしないんですか? あいつらは生きてる限り俺たちの居場所を狙ってくるのに。それじゃあ安心して寝られないんですよ」
「あなたたちの親を殺した敵と同じことをしろというの? こちらから攻め込んで村や町を襲えば、あなた達と同じ子供たちを生むのよ」
「なんだよそれ」
サースは最奥の扉に触れた。シミュラがかけてくる。
「俺の親を殺したのはあんただよ」
静かな口調だったがシミュラの足を止めるのには十分だった。
「あんたが逃した敵が俺たちの村を襲ったんだよ。子供が欲しかったんだろ? 親は邪魔だもんな。自分の言うことを聞く子供が欲しかっただけなんだあんたは。寂しかったんだろ? 当然だよな。こんなところで一人きりで暮らしてさぁ、誰も来ないもんな。あんたは孤独が嫌だったから敵を逃して村を襲わせたんだろ?」
「やめて!」
シミュラが象牙色の長大な杖を振り上げる。その瞬間、サースが最奥の扉を押した勢いで床に倒れ込んだ。
「やめてシミュラ様! カペラ、助けてくれ!」
シミュラは「なにを?」とサースを見る。その後ろから走り込んでくるカペラが見える。自身の魔法の杖をシミュラに向けて叫んだ。
「だまだまだま黙れ杖!」
途端に象牙色の長大な杖はシミュラの手を離れてドスンと床の上に倒れる。それに引きずられるように体制を崩したシミュラをサースが蹴飛ばした。
「よくやったカペラ」
サースは胸に飛び込んできたカペラの頭を撫でてやる。
床上に転がりながらサースとカペラを見るシミュラ。
「カペラ?」
シミュラの背中の上に村人が乗り、シミュラの腕をひねり上げて起き上がらせる。
「あなた見たことがある。村に移住して来た人ね」
村人は無言だった。代わりにサースが答える。
「スルホは俺の部下だよ。村人になってもらったんだ。転移魔法陣を使える仲間が欲しかったからね」
「村人を移住させようと思ったのはこういう思惑があったのね」
「あなたは百年前の人だから、今の流れについていけてないんです。このままでいれば俺たちはまた家族を失う」
「シミュラさま」
「カペラ、サースに酷いことされなかった?」
「されてないよ。喧嘩をするのをやめてほしいの。二人には仲良くしてもらいたい」
「カペラ、サースの考えとわたくしの考え方はまるで違うのよ。どちらかが諦めるしか無いの」
「俺はそうは思わない。シミュラ様だってわかってるはずだ」
サースは最奥の扉に手を触れる。扉は開かない。
「鍵がかかってる? いや、違うか。その女を連れてこい」
スルホがシミュラを引きずるようにサースの側に連れてくると、サースはシミュラの右手を取って最奥の扉に触れさせる。すると最奥の扉はゆっくりと開いていく。扉のその先には階段が下に向かって伸びていて、さらに下には大きな渦が見える。
「これでどうすれば良いんだ?」
「わたくしを殺せば良いのよ」
サースはシミュラの長い黒髪を掴んで引っ張る。
「言え!」
「わたくしを殺しなさい」
サースにはシミュラの言葉が届いていないのか、それともシミュラが自分を殺せと言っているのがただの挑戦的な態度なのかわかっていないようだった。
「スルホ、とりあえず一番下まで下がって見ろ」
サースが命じるがスルホは怯えた様子で渦を見ている。
「おい!」
サースがスルホの頬を叩くとキョトンとした顔でサースの方を見る。全身から汗が吹き出している。
「一番下まで下がって見てこい」
スルホは小刻みに頷いて階段を降り始めるのだが、思うように足を動かせなかったのか階段を踏み外して渦を取り巻く空間に投げ出されてしまう。空中で止まったスルホが安堵した顔をサースに向けたが、すぐにスルホの体はねじ切れて粉々になり空間の中に消えて無くなってしまった。
「カペラ! カペラ!」
サースの呼びかけにカペラは怯えた。魔法の杖を抱え込むようにしてサースを見る。
「カペラ、シミュラに亜法をかけろ。どうやれば俺が迷宮の主になれるか喋らせるんだ」
血走った目でカペラを見る。カペラはサースの言う通りに亜法をかける。
「しゃべしゃべしゃべーる」
サースがシミュラを見る。シミュラは悲しそうな顔をしてカペラを見つめていた。
「もう一度だ!」
「シミュラ様ごめんなさい。しゃべしゃべしゃべーる!」
カペラの亜法ほとんど鳴き声だった。魔法の杖を突き出してシュミラに向ける。
「あぁ、やはりエサイアスは死んでいたのね」
「何? それはどういう意味だ?」
「あの杖はわたくしの兄が持っていた杖」
サースはカペラが突き出している鈍く光る短い杖を見る。
「杖? あの杖がどうするんだ? 言え! カペラ!」
「しゃべしゃべしゃべーる!」
カペラの絶叫。シミュラが左手をカペラに伸ばす。
「おいで、ユーカヤック」
カペラの魔法の杖が溶けるように鈍い光に変わってシミュラの左手の中に滑り込む。その光を持ってシミュラはサースの手を払い除け突き飛ばした。最奥の扉の前でシミュラはサースを見下ろした。鈍色の短い杖がシミュラの手の中にあった。
「カペラ、心配しないで」
サースを見下ろしたままカペラを気遣うがカペラはぐしゃぐしゃな顔で泣いている。
「カペラ、なんで俺を裏切った!」
「違う。違うよ……」
座り込んで次の言葉を見つけられないカペラに変わってシミュラが続けた。
「違うわ。カペラがあなたのために亜法が使えなかったのはあなたがカペラを信じていなかったから。わたくしがもう一つの杖を取り戻せたのはただの偶然。あなたは勝負に勝っていたのに自らそれを手放したのよ」
「そうさ。俺は勝ってたんだ。カペラがミスをしなければ俺がこの迷宮の主になっていたんだ」
シミュラは右手でサースの頬を叩いた。
「カペラの亜法を奪ったのはあなたよ。あなたも亜法使いだったのに忘れたの? 不安や恐怖は亜法の力を奪うものじゃないの。人のものを羨むのはもうやめなさい!」
サースはしばらくは黙ってうなだれたままだったが、シミュラから逃げるように立ち上がって大広間の扉の方へ戻っていく。
シミュラは最奥の扉を閉じる。
「カペラ」
差し出したシミュラの手をカペラは振り払ってサースを追いかけた。
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