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冬のあほうつかい
冬のあほうつかい 40
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40
シミュラさまと私たちは違う。シミュラさまはこれからもずっとこの地を守り続ける。私たちは大人になって歳を重ねてやがて死ぬ。亜法使いの私がここにいられるのは亜法使いだから。もうじき私は亜法使いでなくなってしまう。大人になんてなりたくない。マイラもアイニも私と同じで村が無くなってここで暮らし始めた。彼女らは今はもう大人の女だけど亜法使いだったわけじゃない。亜法使いだった名残があるのは迷宮のフロアだけだ。誰もが皆忘れられたくなくて必死で自分というものをそこに刻みつけた。そんな中、サースは戻ってきた。それはどうしてだろう。もしかしたらサースは私を迎えに来たのかもしれない。思えばサースが来てからというもの私の心配が減った。怖さが減った。亜法の力が以前より格段に強くなった。シミュラさまではなくサースに出会うために私は亜法使いになったのかもしれない。サースは私に砂浜を見せたいと言ってくれた。寒いところが嫌いな私の心を知っていてくれるのはサースだけなのだ。畑を作りたかったのは、外がとても寒かったからだし、とてもひもじかったからだ。冬の中頃になると魚の干物は尽きてアザラシの脂肪もほとんどなく父についてウザギを狩りに行ってもテンに罠を壊されてしまったり散々だった。お腹が減った毎日が続いて木の枝をかじって飢えを凌ぐこともあった。異国の兵士たちが来て父や母を殴り殺した。ここが寒いところだから。もし、いっぱいの食べ物があれば異国の兵士を椅子に座らせて一緒になって笑顔で食事ができたかもしれない。いや、わざわざ兵士は家にやって来ないだろう。ここが暖かければ畑だって一年中出来るのだから。
「敵襲! 敵だよ! 敵が来たよ! 早いところ地下農場に避難するんだよ!」
マイラが子供たちの部屋を回って声をかけた。
ゴォーン。
城が揺れて鈍い音が響く。外はまだ暗い。氷の壁や雪が光を反射しても昼間のような明るさはない。それでも真っ暗ではない。
ゴォーン。
再びの揺れと低音。窓の方で城壁の二段目に立つシュミラさまの姿が見えた。他の子供たちが怯えないように私が守ってあげなきゃいけない。私の亜法を強くしてくれる魔法の杖を手にとって廊下に出る。何人か光る杖を持って出てきていた。暗い廊下を歩くにはそれはすごく便利だった。みんなに声をかけて食堂の脇から外に出て畑への転移魔法陣を目指す。城の城壁が崩れているところがあった。そこから外が見えるのがすごく怖かった。もしかしたらあそこから敵が現れるかもしれなかった。
「無事か?」
暗闇から声がして一瞬ビックリしたが、それはすぐにサースの声だとわかった。嬉しくなって飛びつくとサースは頭を撫でてくれた。
「転移魔法陣はまだ生きてるか?」
「今みんなで行くところ」
「よし、行こう。後ろは俺が守る」
サースの言葉は何よりも頼もしかった。転移魔法陣でみんなを先に送る。サースを待っていると村人を数人引き連れてサースがやってきた。
「よし、行こう。最深部の部屋からシミュラ様を援護できるかもしれない」
シミュラさまと私たちは違う。シミュラさまはこれからもずっとこの地を守り続ける。私たちは大人になって歳を重ねてやがて死ぬ。亜法使いの私がここにいられるのは亜法使いだから。もうじき私は亜法使いでなくなってしまう。大人になんてなりたくない。マイラもアイニも私と同じで村が無くなってここで暮らし始めた。彼女らは今はもう大人の女だけど亜法使いだったわけじゃない。亜法使いだった名残があるのは迷宮のフロアだけだ。誰もが皆忘れられたくなくて必死で自分というものをそこに刻みつけた。そんな中、サースは戻ってきた。それはどうしてだろう。もしかしたらサースは私を迎えに来たのかもしれない。思えばサースが来てからというもの私の心配が減った。怖さが減った。亜法の力が以前より格段に強くなった。シミュラさまではなくサースに出会うために私は亜法使いになったのかもしれない。サースは私に砂浜を見せたいと言ってくれた。寒いところが嫌いな私の心を知っていてくれるのはサースだけなのだ。畑を作りたかったのは、外がとても寒かったからだし、とてもひもじかったからだ。冬の中頃になると魚の干物は尽きてアザラシの脂肪もほとんどなく父についてウザギを狩りに行ってもテンに罠を壊されてしまったり散々だった。お腹が減った毎日が続いて木の枝をかじって飢えを凌ぐこともあった。異国の兵士たちが来て父や母を殴り殺した。ここが寒いところだから。もし、いっぱいの食べ物があれば異国の兵士を椅子に座らせて一緒になって笑顔で食事ができたかもしれない。いや、わざわざ兵士は家にやって来ないだろう。ここが暖かければ畑だって一年中出来るのだから。
「敵襲! 敵だよ! 敵が来たよ! 早いところ地下農場に避難するんだよ!」
マイラが子供たちの部屋を回って声をかけた。
ゴォーン。
城が揺れて鈍い音が響く。外はまだ暗い。氷の壁や雪が光を反射しても昼間のような明るさはない。それでも真っ暗ではない。
ゴォーン。
再びの揺れと低音。窓の方で城壁の二段目に立つシュミラさまの姿が見えた。他の子供たちが怯えないように私が守ってあげなきゃいけない。私の亜法を強くしてくれる魔法の杖を手にとって廊下に出る。何人か光る杖を持って出てきていた。暗い廊下を歩くにはそれはすごく便利だった。みんなに声をかけて食堂の脇から外に出て畑への転移魔法陣を目指す。城の城壁が崩れているところがあった。そこから外が見えるのがすごく怖かった。もしかしたらあそこから敵が現れるかもしれなかった。
「無事か?」
暗闇から声がして一瞬ビックリしたが、それはすぐにサースの声だとわかった。嬉しくなって飛びつくとサースは頭を撫でてくれた。
「転移魔法陣はまだ生きてるか?」
「今みんなで行くところ」
「よし、行こう。後ろは俺が守る」
サースの言葉は何よりも頼もしかった。転移魔法陣でみんなを先に送る。サースを待っていると村人を数人引き連れてサースがやってきた。
「よし、行こう。最深部の部屋からシミュラ様を援護できるかもしれない」
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