まいほーむ

大秦頼太

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まいほーむ 1~5

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 二百個あまりのパイプイスに老若男女がまばらに座っている。席の三分の一くらいはまだ空いている。全員の共通点は社会人ということだった。それが同じ向きを向いて座っている。外から見てみたら、きっと奇妙な光景なのだろう。
 成田はそんな自分の姿を想像して鼻で笑った。くたびれた背広をさすって天井を見ると、小さな点が見えた。それが蜘蛛だとわかるまでそう時間はかからなかった。目を閉じて、蜘蛛の視線を想像してみる。
 やがて意識が蜘蛛になってくる。天井に張り付いて、床を見下ろす。すると、人間がただ静かに座っていて、みんながみんな前を向いている。
 へい、お前らなんか怪しいセミナーでも受けてるのかよ?
 待合室とはそういうものだ。誰もが自分が呼ばれるときを今か今かと待っている。
 だが、ここは病院じゃないんだろう?
 確かにここは病院じゃないけど、みんな病気さ。俺たちは治らない病気なんだよ。
「成田君、新しい部署を作るから一度会社を離れてくれないか?」
 何ヶ月か前に上司がそんなことを言って退職を勧めてきた。
 この不景気だと呼ばれる経済状況の中で、自分の会社は新部署を設立させるほどの余力があるのかどうか、そこを見極めることが出来なかった。
 要するに、自分が間抜けのアホ野郎だから、ひょうたん顔の小林係長は「こいつなら騙せるだろう」と思って、さも新しい部署が出来るかのように引き抜きを演出したのだ。その中身は遠まわしにリストラを告げてきただけに過ぎなかったわけだ。
 今思えば、そう、大抵物事と言うのは起こってから深く考えるものだ。あの時に今くらい人を疑い、世の中を信じていなければ小林係長を撃ち落すことだって出来たはずだ。いや、流石にそれは無理か。疲れ果て、薄くシワのついたスーツ。小さく折れ曲がった猫背のリストラ宣告人小林係長。あの寂しげな姿を見ていたら、誰だって勢いをそがれるに決まっている。

 三年と二ヶ月勤めた会社を解雇されたのは、今年の初めだった。

 失業給付を何度か受けて、今回がその最後になる。次の仕事はまだ見つかっていない。
職員が度々訪れては名前を挙げる。呼ばれた人間は、パイプイスから立ち上がって職員の前に行列を作る。
 日本人は何でこんなに行列が好きなんだろうか。いや、あれは別に好きで並んでるわけじゃないのさ。小さい頃から並ばされて、列を乱しちゃいけませんよと言われ続けた結果、行列を外れることを拒否できなくなってしまったのさ。
 そうか。くだらないな。
 成田は立ち上がって窓際に席を替える。
 駅前の貸しビルの四階から見える景色は、大した感動は無い。バスターミナルにはバスを待つ人が並び、ここでも列を作っているわけで、タクシーの運転手たちが外でタバコをくわえながら会話を楽しんでいる。
 駅からの階段を下りてくる二人の母子。女の子は小学生くらいだろうか。母親と思しき女性は、女の子を引きずるように階段側のコンビニに入って行った。
 静かになったので、部屋の中に目を戻すと事務員が帰っていく。成田の名前はまだ呼ばれていなかったようだ。
 もう一度、外に目を向ける。母親と思しき女性が、一人だけコンビニから出てくる。そして、そのまま走るような勢いでパチンコ屋に入っていく。
 成田はパチンコはしない。スロットもやらない。理由はいくつかあるが、その理由の一つとしてはパチンコ屋が従業員を雇って台を頻繁に交換しているのかを考えてみると、そこに自分が儲かる要素があるのかどうなのか理解出来無いからだ。
 遊ぶだけなら、スマホゲームで十分だ。
「ナリタマコトさん」
 事務員の呼びかけに反応する。立ち上がり自分も列の中に加わる。事務員の地味な確認作業が続いていく。受付の証明書には写真まで貼らせているのにそれを見ることなく事務員は、「間違いないですね?」などと簡単な作業で済ませている。
 パイプ椅子に座っている人間から見れば、これでも遅いくらいなのかもしれないが。
 最後の給付手続きを終え、今度はその振込みを待たなければならない。

 手続きは続くよ、どこまでも。


 コンビニに入り壁掛け時計を見る。早くてあと三十分くらいだろうか。雑誌コーナーに向かう。働いていたときは良く買って読んでいたが、失業してからは立ち読みで済ますようになった。
 これぞ正に負のスパイラルだ。こんなことで景気が良くなるわけがない。
会社に入る前から掲載されているマンガの連載はまだ続いている。読み切りのマンガの作家は、少し前にあんまり面白くない連載をしていた絵の奴だ。面白くない漫画を描くこいつは首がつながったのか。なんだか寂しい気分になってくる。
 不運も幸運も向こうから突然転がり込んでくる。不幸は割りと頻度が高いが、幸運は本当に稀だ。きっと、人を選んでいるのだろう。人生は決して平等ではない。
 そうさ。
 雑誌を無造作に置き、別の雑誌を手に取る。
 この日本という国は一度道を踏み外してしまったら、二度とレースには戻れない。立ち止まってしまったら、そいつはもうお終いで、幸せをつかむことは無い。それが、この国の唯一無二のルールだ。
 だから誰もがおかしいと思いながらもとにかく走り続ける。立ち止まろうとする者を叱りつける。だらしの無い奴だ。情けない奴だ。そうやって他人を叩いて自分の位置を保とうとする。
 あきらめた人間は、ダメな人間で負け犬で敗者で、無価値な人間だと言葉にこそ出さないが行動が示している。
 何を読んでも心を打つものはなかった。金を稼ぐ力なの無い奴は、生きている価値すら無い。そういう現実を突きつけられている。ただ金が無いというだけで、こんなにも惨めな気持ちになるのか。

 足に衝撃を受けて成田は足元を見る。ハローワークから見下ろしていた女の子が床に転がっている。しわと汚れの目立つピンクのワンピース。女の子は表情を変えず、ゆっくりと立ち上がると、成田を一瞬だけ見上げてそのままコンビニの中を奥へと走っていく。
「お、おいおい」
 見た感じ小学生だ。小学生にもなって人にぶつかっても謝らないってどういうことだ。
 舌打ちをして女の子を追いかける。大人らしく歩いてだ。決して走ったりはしない。
「おい、こら、待て」
 女の子用の食玩を見つめている女の子の手をつかむ。びっくりした顔で女の子は成田を見る。
 そこまでびっくりすることは無いだろう。君をいじめに来たんじゃないんだ。それがわかるように優しく、そう猫か犬の赤ちゃんに話しかけるように言わなければならない。
 泣かれたら、こっちが加害者になってしまう。
「人にぶつかったら、ごめんなさいって言うんだよ。わかったかい?」
 女の子は成田をじっと見つめた。
 しゃべれないのかもしれない。ふと、そんな考えが頭をよぎった。成田はあわてて女の子の頭をなでた。
「わかってくれればそれでいいから」
 成田はATMに向かった。前で操作をしている男がいた。財布からカードを取り出しながら終わるのを待つ。時計を見れば、コンビニに入って来てからもうじき一時間だ。
 男がATMから離れていくと成田は入れ替わる。
 操作を進めて入金を確認する。操作を続け出てきた紙幣を掴んで財布に突き入れる。
「近くに銀行があればなぁ」
 出てきたカードと残高の書かれた明細書をため息をこめて握りつぶすと、そのまま買い物もせずにコンビニを出て行く。
 駅までは目と鼻の距離だ。それでも足取りは重かった。駅に向かう階段を上り、線路を見下ろす。
「家賃が五万、なんだかんだ取られて残りは四万くらいか……。来月は自殺だな、こりゃ」
 仕事なんか見つかるわけが無い。高望みするのは企業だって同じだ。人を育てるつもりなんかさらさら無いのだから。みんな使い捨てだ。
「都会でも、こんな微妙な関東圏でも仕事なんかありゃしねえよ」
 成田は頭を抱える。その視界の中に小さな足があるのを見つけてギョッとする。振り返ればコンビニにいた女の子がそこに立っていた。
 何が、起きてるのか理解できなかったが、感じることは出来た。
 つまり厄介ごとがやって来たのだ。



 ピンクのワンピースを着た女の子は、成田のズボンを掴んだ。成田は身を引いてそれを避けようとしたが、柵に動きを阻まれてあっさりと掴まれてしまう。
 いいか、ナリタマコト。あっちに行けと言うんだ。「絶対にどうしたの?」なんて口を利いちゃいけないぞ。そんな口を利いたら、今すぐ俺はお前の俺をここから線路に向かってぶん投げてやるからな。頼むから、こんなガキをかまうのはやめてくれ。さあ、言うんだ。向こうに行けってな。
「どうした? 何かあったの?」
 なんてこった。0点だ。人間はやってはいけないことをやってしまう生き物だ。だが、ナリタマコトよ、お前はアホだ。本物のアホだ。
 女の子は小さな声で何かを言っているようだった。
「何?」
 今からでも遅くない。その手を振り払って、切符を買って電車に飛び乗ればいい。座るんじゃない。耳を近づけるな。
 女の子の声は、かすれていた。
「トイレ」
 冗談じゃない。トイレくらい一人で行けよ。コンビニにだってあるじゃないか。なんだって俺に向かって「トイレ」だなんて言うんだ。残念ながら、俺はトイレじゃない。俺は人間だ。失業者で求職者で、来月には自殺してるかもしれないが、断じてトイレではない。馬鹿にするのもいい加減にしてくれ。
「もうガマン無理」
 ぞっとした。どうして俺にだけこんな迷惑が降りかかってくるのか。ふざけるな。理不尽だ。リストラの次はなんだ? 変質者か? 誘拐犯か? 頼むから、俺のことは放っておいてくれ。
 成田は女の子の腕を掴むと、駅の改札にかけていく。階段を下りている時間はない。まだ駅の中のトイレの方がリスクが少ない。
 改札に入ろうとするおばさんの前にするっと入り込む。抗議の声を上げようとしたおばさんを無視して、駅員にこの緊迫感を伝える。
「すぐに戻るから、トイレに行かせてくれ」
 呆然とする駅員、成田はすぐさま女の子を指差す。駅員も流れがわかったのかトイレの方向を指差した。指差し確認。おー、なんてすばらしき合図の世界。
 成田はトイレに向かって走る。男性用トイレに入りかけて急いで立ち止まる。女の子を女性用トイレに促す。だが、女の子は成田から離れようとしない。
 おいおい、まさかトイレを知らないんじゃないだろうな。ダメだ! そんなことを考えたら、本当のことになっちまうぞ。この子は、お礼を言いたいだけなんだ。そうに決まっている。
「ついて来て」
 無理を言うなよ。俺はまだ捕まりたくない。ダメな人生でも未来はあるんだぜ。痴漢扱いは人生の終わりだ。
「こっちは女の人用だから、俺は入れないの」
「じゃあ、こっち」
 女の子は男性用トイレを指差す。
「こっちは男の人用」
 女の子は足踏みをはじめる。もう限界か。
「ここにいる?」
「え?」
「戻ってくるまでここにいて」
「わかったわかった」
「ほんとに?」
 女の子の足踏みはその早さを増す。そのまま駆け足したら結構早いんじゃないのか? そういえば、小学生の頃トイレに向かうときのダッシュは世界新記録が出るかもしれないほど早かったような気がする。
「絶対にいる?」
「いるよ」
「絶対?」
「いるって」
 女の子は泣きそうな顔でこっちを見ている。おいおい、そんな顔で見ないでくれよ。俺がいじめているみたいじゃないか。
 成田は、ポケットからスマートホンを取り出した。そして、女の子に渡す。
「ほら、これを渡しておくから、これが無いと俺が困る。戻ってきたら俺にコレを返す。返してくれないと俺は困る。だから、俺はここに絶対いる。だろ?」
 女の子はしっかりとスマートホンを握り締めてトイレに駆け込んでいく。
 その姿が見えなくなって成田はほっと一息ついた。
「俺も行っとくか」
 成田も男性用トイレにかけていく。



 成田がハンカチで手を拭きながら外に出てくると、女の子が人混みに向かい首と体を大きく振りながら何かを探していた。手には成田のスマートホンをしっかりと握り締めていた。
「悪い悪い。混んでてさ」
 そう言って近づく成田に、女の子は子犬のように走りよって来る。成田の足をつかむと、ぎゅっと抱きしめた。
 通行人が不思議そうな顔で二人を見る。成田は頭をかきながら、女の子を抱き上げると、改札に向かって歩き出した。
 汗臭い。というか、今までかいだことも無いような不思議な人臭さだった。成田はそれを顔に出さないように気をつけた。多分、この女の子の臭いだ。顔を向けると女の子は成田の胸に顔を押し付けている。肩をつかむ腕を見て成田はギョッとする。
 黄色、青、緑。肌の上に様々な色の痣が浮かんでいた。
 虐待。
 成田の頭の中にそんな言葉がよぎった。
 母親は、こんな子をコンビニにおいてパチンコに行ったのか。
 成田は、女の子を強く抱きしめた。駅員に礼を言うと、成田の心にふとよからぬ考えが浮かんだ。
 このままこの子を連れ去ろうか。
 あわてて首を振る。冗談ではない。面倒ごとが舞い込んできただけで十分だ。この子とはこれでさようなら。二度と会うこともない。それが一番だ。下手にこの子を連れ歩いていたら、誘拐犯になる。いや、児童誘拐だ。そうなったら、社会的に死んだも同然だ。もう二度と明るい道を歩くことは出来無い。
 明るい道だって? 一度人生を踏み外したら、落ちるところまで行くのがこの世の中だろう? 何事にも勝ち負けで判断をして、競争に負けたものには幸せなんかありえない。
それがこの世の中だろう。日本っていう国だろう。
 最後に一つくらい良い事をしろよ。
 良い事?
 この子をさらえば、親はきっと心配をする。そうしたらこの子の大切さがわかって、二度と暴力を振るわなくなるかもしれない。
 ふざけんな。どこの誰かも知らない人間のために自分の人生をさらに滅茶苦茶にする馬鹿がどこにいるんだ。まだ、戻れる。そうさ、チャンスが舞い込んできたら、俺は復活できる。それが来るまでじっと待ってるんだ。暗がりからの誘惑に乗るんじゃない。
 成田は、女の子を通路に降ろそうとする。だが、女の子はしがみついて離れない。
「おい、どうしたんだよ。降りていいよ」
 女の子は顔を成田の胸にこすり付ける。
「学校だって、あるだろ?」
 女の子は首を横に振る。
 困ったことになった。仕方がない。コンビニに戻って親を探すか、それでいなかったらパチンコ屋に行けばいい。
「遊園地に行きたい」
 階段を降りようとした成田の耳に幻聴が聞こえた。その声の出所を探して立ち止まる。
「遊園地に行きたい」
 女の子は、いまだ顔を上げることなく成田の胸に顔をこすり付けている。
「なんだって?」
「行ったこと無いから、遊園地に行きたい」
 親に頼めよ。と、口に出しかけて成田は言葉を止める。右手が、背中の財布を押さえる。
 断れ。断るんだ。
「お母さん、困らないかな?」
「夜まであそこにいるから平気」
「ご飯はどうしてるんだよ」
「ママが帰ってきたら、お菓子をくれるの」
「いや、お菓子じゃなくて飯だよ飯。ハンバーグとかカレーとか」
 女の子は顔をゆっくりと上げる。成田はぞっとした。最初に女の子に感じていた違和感はこれだったのだ。
 この子には表情が無い。
「カレーは学校で食べたことがあるよ。ハンバーグは無い」
 成田の中で焼き切れる何かがあった。駅に向かって体を返す。
「遊園地に行く前に色々やろうぜ」
 女の子を抱えたまま切符売り場で切符を二枚購入する。大人用と子ども用。
 それを握って自動改札を通り抜ける。

 なんだか知らないが、頭の中の線が一本吹き飛んだ気がする。
 ゲームの始まりだ。
 夜までに帰る。それがルールだ。



 電車の中で外の景色を眺めながら、頭の中では今日の計画が光速で組み立てられる。
 二つ先の駅で降りる。デパートに行って子ども服を買う。美容室に行って髪を切ってシャンプーとしてもらう。それから東方デスティニーランドへ向かう。遅めの昼食はそこで取る。混み具合を見てからじゃないと何とも言えないが、おそらく二つも乗ればミッションは完了する。あとは長い行列に耐える忍耐力が必要だ。
 電車の扉が開くと、もう目的の駅だった。女の子を抱えたまま電車を降りて外に出る。
 誘拐犯。
 そう思うと背筋に粘り気のある汗が流れるのを感じる。
 違うさ。夜までの子守だ。
 女の子が騒ぎ出したら、お前は終わりだ。どうせ騒ぎ出すに決まってる。お前は、人生を棒に振った。もうどうでもいいや。
 成田は女の子に耳打ちをする。人の臭いが強烈に鼻を刺激してくる。
「俺は親戚の伯父さんってことにしておいて。わかった?」
 女の子は成田に顔を見せずにうなづいた。
 デパートの中は人もまばらだった。平日なんてこんなものなのだろうか。普段は買い物などしない。出来るだけお金は使わないようにしていた。働いていたときでさえ、そんな調子だった。土曜出勤を求められ、断る理由も無く出勤し、日曜日は疲れ果てて眠るだけだった。
 こうなることがわかっていたら、貯金でもしておくんだった。同級生の誘いに乗って海外の株に投資をしたら、そいつと共に金はどこかへ消えてしまった。
 不幸に一度でも捕まるとなかなか逃げられない。
 子ども服のコーナーで女の子を降ろす。女の子は目を丸くして服と成田を交互に見ている。
「予算は五千円。服も下着も全部で五千円。わかった?」
 女の子は驚いた顔のままうなづいた。
「俺はレジの人と話しをしてくるから、決まったら言って」
 成田はレジに向かう。店員が成田に気がついて笑顔を向けてくる。
「香水みたいなものってある?」
 店員は一瞬、きょとんとしたがすぐに反応した。
「ございます。この店を出てニブロック先に化粧品売り場がございますので」
「どうもー」
 振り返り女の子を見る。どうしたことか一歩も動いていない。あわてて成田は女の子に向かって歩いていく。
「なんだ? どうした」
 女の子は成田を見ながら、小刻みに震えている。
「あ」
 計算が出来無いんじゃないのか。
 成田は、女の子の頭に手を置いた。
「いっぱいあるからな。よし、俺が選んでやる」
 成田は服を取って女の子と見比べる。女の子は下を向いたまま動かない。
「好きな色は?」
 女の子は、下を向いたまま地面の水色を指差す。
「ワンピースにするか? 今着てる奴みたいなやつ」
 うなづく女の子。
 成田は水色のワンピースを手に取る。
「これにする?」
 女の子は見もしないでうなづく。成田は女の子の側にしゃがみこんだ。
「私、クサイ?」
 香水の話が聞こえていたようだ。女の子の言葉が成田の胸に突き刺さった。どう答えるのが正解なのかまったくわからなかった。
 俺のオナラの方が臭いぜ。あぁ、これは慰めじゃない。侮辱だ。
「そうだ。風呂。買い物が終わったら、風呂を探そう」
 女の子は成田を見た。
「お風呂に入ってもいいの?」
 この子は、一体どんな暮らしをしてたんだろうか。
「もちろん」
 女の子は服を見上げた。ゆっくりと服を選び始める。成田は再び店員の元に向かう。
「近くに銭湯とかないですか?」

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