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幸せの青い本 7
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ミユキは人のいない図書室の奥の席で隠れるように本を読んでいた。熱中していたのか背後にサクラとマコが立ってみても一向に気がつかない様子だった。
マコは落ち着かない様子であたりに目を配っていた。ひどくおびえて見えたのか、サクラがマコの手を強く握り締める。
「ありがとう」
マコの声にミユキが体を震わせて驚く。見上げるとサクラが楽しげに笑っていた。
「おーい。勝手に任務を放り出してはだめだぞー」
「最初は探してたのよ。でも、ちょっとだけならいいかなって、ここにはいなかったし……。あれ? ここにいたの?」
落ち着いてくるとミユキはマコの存在にも気がついたようだ。マコは首を振る。
「迷っちゃって」
「ここは迷路みたいだからね」
サクラはミユキの本を覗き込む。
「何の本?」
「別に面白いわけじゃないんだけどね」
ミユキはそう前置きをしながら、サクラに本の内容を説明する。マコはサクラの手を逃れて本棚を覗き込んだ。赤い背表紙の本を指でなぞる。一冊の本を引き抜くと、本棚に体を預けて表紙を開く。その顔が和らいでいく。
「本好きなの?」
サクラの呼びかけに驚き、マコは本を閉じる。急いで本棚に本を戻した。サクラが笑顔でしまわれた本を指差す。
「逆さま」
「あ」
マコは顔を赤くしながら本を直す。
「昔は、よく読んだけどね」
「今は?」
口を開きかけるマコの後ろからミユキが顔を出す。
「ねえ、そろそろ時間だよ」
「あ、うん。戻ろうか」
サクラとミユキが図書室の入り口へ向かう。マコの目が本棚の列の奥を見つめたまま動かなくなった。
青い本が床の上に落ちている。
マコの体が突然震えだす。そして、本棚にしがみつくように床へと崩れていく。
「どうしたの?」
サクラとミユキが戻ってくる。
「具合が悪いの?」
心配するサクラの隣でミユキが青い本に近づいていく。
「だめ。それに触らないで」
マコの口から出る言葉は、体の震えによって意味を成さなかった。ミユキが青い本を拾い上げた。蛍光灯が点滅して図書室の中が一瞬のうちに薄暗くなる。
マコは叫んだ。左肩の上の辺りから男の左腕が伸び、マコの口を押さえる。マコはそれを振りほどき、あらん限りの息で声を吐き出そうとした。右肩の上から女性の右腕が伸びマコの口を押さえる。今度は男の左腕もマコをうまく押さえることができた。
マコはゆっくりと後ずさりする。
「停電かな?」
サクラの声が薄暗い図書室の中に広がっていく。
「ねえ、これって幸せの青い本じゃない?」
ミユキが興奮した様子で青い本を開く。
マコは走り出した。図書室の入り口にある司書室の窓を覗く。ペン立てに目が留まる。そこにハサミを見つけると、それを勢いよくつかむ。ペン立ては吹き飛ばされて司書室の床にペンや線引きをぶちまける。
マコはハサミを握りながらサクラたちの元に戻っていく。
暗がりの中で二人は席について青い本を開いていた。
「今すぐそれを捨てて」
マコの呼びかけに二人とも反応しない。マコのことなど忘れてしまったかのように青い本に吸い込まれるくらいに熱中していた。
「ダメ!」
マコは二人の手から青い本を奪い取ると、青い本に向かってハサミを突き立てた。サクラが机の上に頭を伏せる。図書室の中に額を打つ音が響いた。
「何するのよ!」
ミユキがマコを押しのけて青い本を抱きかかえる。腕と腕の間から突き刺さったハサミが覗いている。
「幸せの本に何をするのよ!」
ミユキの目は血走っていた。マコは机の足に背中を打って、すぐには立ち上がれなかった。ミユキに向かって手を伸ばす。マコは奪われまいと身を捩る。
「それは、幸せの本なんかじゃ……」
「これは、私の物なんだから!」
ミユキはマコの手から強引に青い本を奪い取ると、それを抱いて図書室を駆け出していった。
図書室の蛍光灯が、たった一つだけ点灯する。
ミユキは人のいない図書室の奥の席で隠れるように本を読んでいた。熱中していたのか背後にサクラとマコが立ってみても一向に気がつかない様子だった。
マコは落ち着かない様子であたりに目を配っていた。ひどくおびえて見えたのか、サクラがマコの手を強く握り締める。
「ありがとう」
マコの声にミユキが体を震わせて驚く。見上げるとサクラが楽しげに笑っていた。
「おーい。勝手に任務を放り出してはだめだぞー」
「最初は探してたのよ。でも、ちょっとだけならいいかなって、ここにはいなかったし……。あれ? ここにいたの?」
落ち着いてくるとミユキはマコの存在にも気がついたようだ。マコは首を振る。
「迷っちゃって」
「ここは迷路みたいだからね」
サクラはミユキの本を覗き込む。
「何の本?」
「別に面白いわけじゃないんだけどね」
ミユキはそう前置きをしながら、サクラに本の内容を説明する。マコはサクラの手を逃れて本棚を覗き込んだ。赤い背表紙の本を指でなぞる。一冊の本を引き抜くと、本棚に体を預けて表紙を開く。その顔が和らいでいく。
「本好きなの?」
サクラの呼びかけに驚き、マコは本を閉じる。急いで本棚に本を戻した。サクラが笑顔でしまわれた本を指差す。
「逆さま」
「あ」
マコは顔を赤くしながら本を直す。
「昔は、よく読んだけどね」
「今は?」
口を開きかけるマコの後ろからミユキが顔を出す。
「ねえ、そろそろ時間だよ」
「あ、うん。戻ろうか」
サクラとミユキが図書室の入り口へ向かう。マコの目が本棚の列の奥を見つめたまま動かなくなった。
青い本が床の上に落ちている。
マコの体が突然震えだす。そして、本棚にしがみつくように床へと崩れていく。
「どうしたの?」
サクラとミユキが戻ってくる。
「具合が悪いの?」
心配するサクラの隣でミユキが青い本に近づいていく。
「だめ。それに触らないで」
マコの口から出る言葉は、体の震えによって意味を成さなかった。ミユキが青い本を拾い上げた。蛍光灯が点滅して図書室の中が一瞬のうちに薄暗くなる。
マコは叫んだ。左肩の上の辺りから男の左腕が伸び、マコの口を押さえる。マコはそれを振りほどき、あらん限りの息で声を吐き出そうとした。右肩の上から女性の右腕が伸びマコの口を押さえる。今度は男の左腕もマコをうまく押さえることができた。
マコはゆっくりと後ずさりする。
「停電かな?」
サクラの声が薄暗い図書室の中に広がっていく。
「ねえ、これって幸せの青い本じゃない?」
ミユキが興奮した様子で青い本を開く。
マコは走り出した。図書室の入り口にある司書室の窓を覗く。ペン立てに目が留まる。そこにハサミを見つけると、それを勢いよくつかむ。ペン立ては吹き飛ばされて司書室の床にペンや線引きをぶちまける。
マコはハサミを握りながらサクラたちの元に戻っていく。
暗がりの中で二人は席について青い本を開いていた。
「今すぐそれを捨てて」
マコの呼びかけに二人とも反応しない。マコのことなど忘れてしまったかのように青い本に吸い込まれるくらいに熱中していた。
「ダメ!」
マコは二人の手から青い本を奪い取ると、青い本に向かってハサミを突き立てた。サクラが机の上に頭を伏せる。図書室の中に額を打つ音が響いた。
「何するのよ!」
ミユキがマコを押しのけて青い本を抱きかかえる。腕と腕の間から突き刺さったハサミが覗いている。
「幸せの本に何をするのよ!」
ミユキの目は血走っていた。マコは机の足に背中を打って、すぐには立ち上がれなかった。ミユキに向かって手を伸ばす。マコは奪われまいと身を捩る。
「それは、幸せの本なんかじゃ……」
「これは、私の物なんだから!」
ミユキはマコの手から強引に青い本を奪い取ると、それを抱いて図書室を駆け出していった。
図書室の蛍光灯が、たった一つだけ点灯する。
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