幸せの青い本

大秦頼太

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幸せの青い本 9

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 教室に戻ってきたミユキの腕にマコが飛びつく。
「本は?」
 その必死の形相を見てアツコが大笑いした。
「心配するなって、アレは偽物だったの」
「本物がどんなものかも知らないくせに!」
 マコの勢いにアツコはたじろいだ。サクラが額を押さえながら側に来る。
「何か書き込む前に本を処分しないと大変なことになるんだって」
 アツコが引きつった笑いを見せる。
「もう、手遅れ……」
 教室に担任教師が現れる。教室中を見回して、アツコ達へと近づいてくる。
「舞島は?」
「何かあったんですか?」
 マコの問いかけに担任教師は言葉を濁した。
「いや、家からの電話なんだが……。今日は人探しをしてばっかりだな。とにかく、舞島を見かけたら職員室に来るように言ってくれ。その、事故が。いや、いい」
 そう言うと、担任教師は廊下を走っていった。
「探そう」
 サクラの呼びかけにミユキとマコがうなづく。アツコはそこから離れていく。
「三階の踊り場にいたよ。バカバカしい」
「案内して」
 マコはサクラに声をかける。サクラが走り出すとマコがそれに続き戸惑いながらもミユキが駆け出した。
 アツコは席について参考書を開いた。

 チアキはまだ三階の踊り場にいた。床の上に青い本を広げて、そのページに文字を書き込んでいた。
「どうしたらいいの? どうしたらいいの?」
 サクラがチアキの側に駆け寄った。チアキの顔が上がりサクラを見つめた。その形相にサクラの足は一歩も前に進めなくなった。
 マコが横を通り抜ける。青い本に目を落とすと、開かれたページには沢山の文字が書かれている。
 二種類の筆跡。それが交互に書かれていた。
 チアキが青い本に覆いかぶさるようにマコの視線をふさぐ。
「これは私のもんだ! 邪魔をしないで! 今、使い方を教えてもらってるんだから」
 チアキの言葉にサクラが反応する。小さな声で。
「教えてもらってる? 誰に?」
 後ろからミユキが覗き込む。マコがチアキの側に近づこうとする。チアキがマコをにらみつける。
「寄るんじゃない! お前みたいに汚い奴が、こっちに来るんじゃない」
「ごめんなさい。きちんと言うべきだった。私がちゃんとするべきだった」
 それでもマコは近づくことをやめなかった。チアキが起き上がり野良犬のようにマコを威嚇する。
「今度はしっかりと書くから」
 マコの手が伸びる。その手をチアキが払いのける。マコの脇をすり抜けて階段を駆け下りようとすると、サクラとミユキに体当たりした。三人は折り重なるように階段の下へ転げ落ちていく。
 青い本は階段の中ほどで転がっていた。
 マコが三人と本を見下ろす。青い本を見つめながら、うめき声を上げて苦しんでいる三人をただ見下ろしていた。
「書くんだ」
 マコはゆっくりと青い本に歩み始める。黒い影がその間に割り込み、本を拾い上げる。アツコだった。
「バカが持っても、使いこなせないって事でしょ?」
 青い本を開き、ページを見るアツコ。マコは足を止めてアツコを見た。
「誰が持っても同じよ」
「あたしは違う」
 アツコはにやりと笑うと身を翻し、三人を飛び越えて階段を駆け下りて行った。
 マコは倒れている三人の元に向かう。
 ミユキが先に起き上がり、サクラに声をかける。小さくうめき声を上げるサクラにほっとして、チアキに目を移したとき叫び声を上げた。
「チアキ! チアキ!」
 ミユキが何度チアキを揺り動かしても、チアキは顔を真後ろに向けたまま動かなかった。
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