幸せの青い本

大秦頼太

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幸せの青い本 15

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 マコは暗い部屋の中でうずくまっていた。側には両親が何も言わずにただ立っている。本はそこには無かった。
 部屋の置時計だけが、時間の経過を知らせてくれる。
 マコは突然顔を上げた。立ち上がり部屋を出て行く。
 廊下に投げ出されたままの青い本を拾い上げる。そして、青い本の表紙を開いた。後ろから両親が覗き込む。
「大丈夫。書かないから」
 青い本を見ながら部屋へと戻る。バッグの中からノートを取り出すと、青い本とノートを見比べながら読み進めていく。
 ため息をついて本を閉じる。すると、本はマコをあざ笑うかのようにページを開き、文字を浮かび上がらせる。
「お前は死ぬ」
 マコは手にペンを取るとページを押さえつけて腕を振り上げた。その手を父親が掴む。
「何よ!」
 父親は声を出さず首を横に振るだけだった。マコはペンを投げ捨てた。
 青い本のページを遡る。一瞬、青い本が抵抗を見せるが、それはすぐに納まった。
マコは新しく増えたページを食い入るように見る。それもしばらくすると終わってしまった。
 どれだけ見つめても筆跡以外に特に違った点は無かった。
 自分の書いた願いを見る。そこに書かれた、
「アカリと話がしたい」
 と言う文字。
「願いは叶ってないのに」
 マコの言葉を受けてページの文字が揺れ動き、新しい言葉を作り出す。
「私たちは一緒になった。願いは叶えた」
 マコはその言葉をぼんやりと見つめた。文字は再び生き物のように形を変える。
「ママコもこっちにおいで」
 マコの目が見開かれる。
「嘘よ、アカリじゃない! アカリじゃないわ!」
 マコの叫びを聞いても青い本は文字を変化させ続けた。
「マコのことをママコって呼ぶのは、私だけよ」
「じゃあ、なんで私を殺そうとするのよ」
 涙のまじるマコの声を受けて、文字はページの奥へ消えていく。そのページを凝視する。
 本はページの外側から古さを増していく。ゆっくりと乾いた音を出しながら、開かれたページの真ん中に赤黒い文字をにじませてくる。
「あんたが憎いからよ」
 その文字が浮かんだ途端、文字が裂けて真っ赤な液体が部屋中に飛び散った。マコは転がりながら部屋の隅へ逃げていく。
 誰かの笑い声がした。甲高く下品な男の笑い声だった。
 突然、青い本が閉じられて男の笑い声がやんだ。そして再びページが開かれた。一筋の赤い液体が天井にまで伸びていく。それが徐々に人の手に変わっていく。
 誰かが本から出て来ようとしている。
 手は腕になり、腕は二本になり机を掴み、顔らしきものを持ち上げてくる。それが徐々に顔になり大きな口をあけた。
「マ、ママコォ……」
 そこに現れる顔にマコは声を出して答える。
「アカリ? アカリなの?」
「なぁがいごおぉとうぅはぁぁあぬああはぁいと、きゃぁくのよぉ」
 青い本は両側からアカリを形作る赤い液体を挟み込んでいく。アカリが叫び声を上げながら本に抵抗してみせる。だが、それも叶わずアカリは押しつぶされてしまう。
 青い本は何事も無かったかのように机の上に横たわる。
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