ウォールマン

大秦頼太

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第一話

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 あっちの世界で事故に遭って別の世界に生まれ変わるという月並みな話だが俺は今、壁をしている。はぁ? って思う奴もいるかもしれないが正真正銘の壁だ。それも今や首都の壁をしている。もちろん最初から首都だったわけじゃない。ここはごくごく平凡な村だった。ナントーカとか言う魔術師のじいさんが壁を作り出した際に魂が巻き込まれ壁となって生まれ変わることになったのだ。当然、壁なので声を出しての会話はできない。そもそも壁になんて生まれ変わることがあったなんてはじめて聞いた。それでもなんとか生きて? いる。
 こちらの世界はもうごくありふれたファンタジーの世界だ。村や町には魔物たちが押し寄せ破壊や略奪といった悪逆の限りを尽くす。俺は当時まだ村の周囲をぐるりと囲む土壁で魔物たちの最初の侵攻の時ははっきり言ってビビってしまった。だってそうだろう? 知らない世界で逃げることもできない壁だぜ? はっきり言って次の来世なるものに期待をしちゃったよ。だけどね、現実はちょっと違った。さすがナントーカと言う魔術師の作り出した壁だ。魔物たちが突進してくる門は鉄のように固く蚊に刺されたようにしか感じなかった。壁のそこらじゅうから手みたいなものが出せることがわかって壁をよじ登ろうとする魔物たちをくすぐって落としてやった。結局、どの魔物も侵入することが出来ずにはじめての戦いで俺は村を守りきることに成功した。すると不思議なことに土の壁は石組みの壁に変化したんだ。

 何度か魔物たちを退けた結果、村は町と呼べる大きさに変わった。町を取り囲む壁もその分広くなって注意をしなければいけない箇所も増えた。敵を撃退した時に貰えるポイントもだいぶ余ってきた。それよりも町の人たちはすっかり俺を信じてくれてそれはすごく嬉しかった。だが悲劇はそんな時に起こるものだった。警備兵の少ない豊かな町は魔物だけでなく人間にも狙われるのだ。
 野盗たちは昼間のうちにバラバラに侵入し町に火をつけた。平和になれ安心しきっていた住人たちは火に飲まれまいと逃げ惑う。俺は住人を逃がすべく門を開けた。だが、それすら野盗たちの策略だった。門が開くと三つある門の一つから賊がなだれ込んで住人を斬り殺し、奪い、拐った。朝がくると住人たちは無傷の壁を見て怒りの声を上げた。それぞれが手に槌や斧、棒きれなどを持ち俺を力の限り叩き続けた。俺はひたすら耐えるだけで何も出来なかった。
「壁のせいじゃない。オレたちの油断のせいだ」
 生き残った一人の兵が言った。ハリヤという兵士だ。
「こんな世の中だ。苦しいけれどやり直そうじゃないか!」
 誰もハリヤの声を聞こうとしなかった。壁を打つことに疲れ一人また一人と壁を離れていく。開け放たれた門から町を捨てて去っていく者も少なくなかった。

 それでも町は再建することになった。
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