ウォールマン

大秦頼太

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第二話

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 一度破られた壁は人が寄らない。町の再建はなかなか進まなかった。しばらく貯めていたポイントを使って壁の高さを増やし弩を装備した。これで格段に防衛力が強化されるはずだ。ちなみにこの弩は兵士が使うのではなく俺が自由に使える。さすが異世界である。ただし矢や投石の弾はポイントで交換して蓄えておかなければ意味がない。それと、いきなり百発百中とはいかないので昼間に外に向かって射出して練習をしている。
 ハリヤが若いながらも警備を指揮するようになった。壁にいる時間も多くよく彼の独り言を聞く。ハリヤは近隣に住んでいたが魔物に襲われて村に逃げてきたらしい。家族はその時に失っている。復讐を誓えるほどの力も才能もないが他の人々を守ることなら出来ると頑張っている。俺にもその気持がわかる。向こうの世界では何をしたらいいのかよくわからずに毎日をただ同じように過ごして生きていた。この世界に生まれ変わって俺は初めて人間になれた気がする。いや、俺の言葉は通じないから俺はこの世界でも一人ぼっちには変わりがない。でも、それでもいいじゃないか。初めて出来た俺の居場所を守るんだ。

 ずしん。と体の衝撃を受けた。肩があるとすれば右の肩に激痛が走った。足元には大きな岩が転がっている。あんなところに岩はなかった。
 投石機だ。
 嫌な感覚が体中に走る。俺はまた町の命を失うのか。嫌だ。そんなのはもう嫌だ。ずしん。今度は左の胸を大岩が打つ。岩が飛んできた方向を見れば二台の投石機が林の隙間に見えた。遠い。今装備している弩では届かない。俺の射程距離の外から町を破壊する気なのだ。あれは軍隊だ。野盗風情が投石機を持っているわけがない。町にいる警備兵ではとてもじゃないが相手には出来ない。投石攻撃がなくても立てこもって過ぎ去るのを待つしか選択肢がない。だが相手は周到に投石機を用意してきたということはここを占領するつもりだ。俺は嫌だ。俺の大事な人間を殺した連中たちを迎え入れて守るようなことはしたくない。そんなのはゴメンだ。絶対に。
 俺はポイントで交換できる兵器のリストを見直す。今あるポイントなら結構強力な武器が装備できるはず。飛距離、威力、命中率、今の壁に設置できる兵器で最強の装備を。時間はないぞ選べ、選べ!
 カノン。
 あった。が、この世界に火薬があるのか? 弾は? コストと装填時間に気をつけろ。ポイントを大量に使って使えませんでしたじゃ話にならないぞ。行けるか? 魔法タイプ? 魔法が使えるのか? あっちの世界だったらカスタマーセンターに電話をかけて俺にも使えるのか確認出来るのに! 一か八か賭けてみるか? いや、俺は賭け事に弱い。だから、人生でも負け続けたんじゃないか。いい加減に気がつけ。俺には賭けに勝つ運はない。運じゃなく運命に勝つんだ。
「終わったかもな」
 ハリヤが壁の上に立ち敵を見る。
「魔力カノンがあれば……」
 撃てるのか?
「町には魔術師が何人かいるから交代で撃てるはずだ」
 魔力カノンが欲しいか?
「魔力カノンが欲しい」
 決まった。お前に魔力カノンをプレゼントしてやろう。

 バシュン!
 黄色い閃光が壁面に走り金色の魔法陣が現れる。
「こ、これは……」
 ハリヤが驚く。俺も驚いてる。俺は初めて人と心を通わせたんだ。
 あとはお前が指揮をする番だ。
「魔術師を探して連れてきてくれ! 魔法カノンで反撃するぞ!」
 魔法カノン発射までに数発の大岩を受けたが岩が壁を超えることはなかった。学生の頃に遊びで嫌々やらされたサッカーのゴールキーパー。あの時にはこんな楽しさは感じられなかった。飛んでくる岩を手で受け止める。
「カノン充填完了! 撃てぇー!」
 轟音。地響き。体が震える。前方が真っ白に染まる。ゆっくりと風景が戻ってくると林が消え去り投石機も消え失せ地面をえぐった傷跡が残るだけだった。ポイントを獲得して戦いに勝ったことを知る。勝利を喜び合う人たち。その輪に加わることは出来なかったが十分満足だった。
 夜、星空の下ハリヤが壁の上にやってきた。
「今日、お前の声を聞いた気がした。気のせいかもしれないが」
 気のせいじゃないさ。言葉がなくても気持ちが通じる瞬間がある。たった一瞬でもそういう瞬間はあったんだよ。なんであっちの世界にいる時に気が付かなかったんだろう。俺は違う誰もわかってくれないと壁を作っていた。壁になった今、そんなことに気がつくなんて。失くしてから気が付かされるなんて、なんて残酷なんだ。もう二度と戻れないのに。
「泣くな。お前も俺もひとりじゃないさ」
 ハリヤが言った。真上には見たこともない星の川が流れていた。
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