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第三話
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あっちの世界ではいつでも消極的だった。クラスメイトから誘われても乗らず文化祭でも体育祭でも非協力的。暑苦しい男子から殴られたこともあった。一生懸命にやった先にあるのは何だ? 結局、得意なやつがいい思い出を作るための儀式で俺みたいな何も持たないやつが輝ける瞬間は来ない。誰かの思い出に華を添えるだけのつまらないセレモニー。仕方無しに毎日学校へ行き性がなく授業を受け気力なく毎日を過ごしていた。誰とも関わらずに。あそこは無人島だった。いや、俺が人間じゃなかった。壁だった。今と同じように。
魔物の襲撃は単発的で規模が小さかったが町の規模が徐々に大きくなるにつれて野盗や軍隊の襲撃が多くなってきたように思う。それだけ町が豊かであるということなのかもしれない。
町に入るときには必ず門で厳しい検査を受けるがこれには俺も参加している。申告せずに武器を持ち込もうとしている者を発見した際、俺は門を揺らす。すると、ハリヤが通過しようとする列を止め再度調査が行われる。全てを発見できるわけではないが高確率で町の中に入り込んで混乱を引き起こそうとする者を事前に発見することは出来ているだろう。
それにしても、最近は町に入ってくる人間の数が多い気がする。誰も皆ほとんど何も持たず貧しい格好をしている。そろそろ町を拡張したほうがいいかもしれないがあまり大きくしすぎると防衛が難しくなる。俺はすべての方向を見ているわけにはいかない。特に弩をで射撃する際には意識を集中しないといけない。適当に撃ちまくると味方を撃ってしまうことだってある。全方向から攻められた場合、守りきれるかどうか不安だ。幸いなことに魔力カノンのおかげで西側から攻めてくる敵は圧倒的に少ない。明け方の東側は眩しくて嫌いだ。弩の命中率も下がるのでこの時間のかなりの確率で攻め込んでくる。南側は少し先に川があるので敵はほとんどやってこない。北側には山がありその麓には森林が広がるのでこちらからの視界があまり良くない。ただ攻め手にしても大部隊を配置できるスペースがないのでこちらからの侵攻も少ない。
「ハリヤ殿はなぜ壁面の一室で会議を開くのか?」
警備隊長の一人が口を開く。各方面の壁には小さいながらも兵士たちが常駐したり寝泊まりをする部屋がある。ハリヤはその中の一つを俺のために会議室にしている。
「この壁は我々を守ってくれるのだ。壁にも我々の作戦を聞いてもらったほうが守りやすいというものだ」
「わかりません。壁が我々の言葉を理解しているとは思えません」
「そうか? この世の全ては奇跡に満ちている。この壁もそういったものの一つだと思わないか?」
ハリヤの言葉に警備隊長は首をかしげる。
「しかし、国王陛下を迎えてここを都にするという話は本当なのでしょうか?」
「噂だ。首都となれば東に南、西にも防壁を伸ばさなければならなくなる」
「私には勝手に増改築されるこの壁が不気味でたまりません。これは魔物の一種なのではないでしょうか」
その副隊長は決して壁に寄らない。いつも後ろを気にしているようにしている。不気味か。俺だってそう思う。町は住人の都合で大きくはならない。大きくするのは俺の意志だ。住人と言えども壁を壊すことは出来ない。時々勝手に壁を壊そうとする奴らがいるがいきなり体に針を突き刺されるようなこっちの身にもなって欲しい。一度目は小さな手を出して押して止めさせる。二度目はぶん殴る。三度目は弩で威嚇射撃をする。そこまでやってやっと引き下がる。いや、引き下がらないやつもいた。「人間様が壁なんかの言うことが聞けるか」と壁対人間の闘いになったことがあった。他所から流れてきた流れ者の一団で言葉より腕力が得意な連中だ。周辺に住んでいた住人を力づくで追い出すと昔から住んでいるような顔で威張りだした挙げ句、壁を壊して外側に広げようとした。壁から出た手を見て驚き引き下がったかと思えば人数を増やして壁への攻撃を続行。俺はこれを武力で排除。そしてどんどんエスカレートして流れ者を死傷させた。後味の悪い結末だった。今ならならず者たちの住む区画を外側に出してしまうように壁を変形させるだろう。自分も人間なんだという感覚が薄れてしまったら俺はここでもまたただの壁になってしまう。守るべきものとの境界がはっきりしていることだけが俺を人間でいさせてくれる。
言葉が通じないかと壁に文字を浮き出したこともあった。最初は手で壁に文字を書こうとしたが気持ちが悪いのでそれをやめて文字を浮き出そうと考え直したのだ。だが、これははっきり言って全く無意味だった。簡単な挨拶文でも誰も理解せず、逆にいたずら書きが増えるという結果を招き、しかもそれがとてもくすぐったいのだ。想像してみて欲しい。日常生活でいきなり体の予想外のポイントをくすぐられるのだ。これは投石攻撃を受けるよりも精神的に来るのだ。集中力が落ちるし、門がぴょこっと開きかける。
「この壁は我々の味方だよ」
ハリヤは俺を理解している。ハリヤは俺の味方だし俺はハリヤの味方だ。
魔物の襲撃は単発的で規模が小さかったが町の規模が徐々に大きくなるにつれて野盗や軍隊の襲撃が多くなってきたように思う。それだけ町が豊かであるということなのかもしれない。
町に入るときには必ず門で厳しい検査を受けるがこれには俺も参加している。申告せずに武器を持ち込もうとしている者を発見した際、俺は門を揺らす。すると、ハリヤが通過しようとする列を止め再度調査が行われる。全てを発見できるわけではないが高確率で町の中に入り込んで混乱を引き起こそうとする者を事前に発見することは出来ているだろう。
それにしても、最近は町に入ってくる人間の数が多い気がする。誰も皆ほとんど何も持たず貧しい格好をしている。そろそろ町を拡張したほうがいいかもしれないがあまり大きくしすぎると防衛が難しくなる。俺はすべての方向を見ているわけにはいかない。特に弩をで射撃する際には意識を集中しないといけない。適当に撃ちまくると味方を撃ってしまうことだってある。全方向から攻められた場合、守りきれるかどうか不安だ。幸いなことに魔力カノンのおかげで西側から攻めてくる敵は圧倒的に少ない。明け方の東側は眩しくて嫌いだ。弩の命中率も下がるのでこの時間のかなりの確率で攻め込んでくる。南側は少し先に川があるので敵はほとんどやってこない。北側には山がありその麓には森林が広がるのでこちらからの視界があまり良くない。ただ攻め手にしても大部隊を配置できるスペースがないのでこちらからの侵攻も少ない。
「ハリヤ殿はなぜ壁面の一室で会議を開くのか?」
警備隊長の一人が口を開く。各方面の壁には小さいながらも兵士たちが常駐したり寝泊まりをする部屋がある。ハリヤはその中の一つを俺のために会議室にしている。
「この壁は我々を守ってくれるのだ。壁にも我々の作戦を聞いてもらったほうが守りやすいというものだ」
「わかりません。壁が我々の言葉を理解しているとは思えません」
「そうか? この世の全ては奇跡に満ちている。この壁もそういったものの一つだと思わないか?」
ハリヤの言葉に警備隊長は首をかしげる。
「しかし、国王陛下を迎えてここを都にするという話は本当なのでしょうか?」
「噂だ。首都となれば東に南、西にも防壁を伸ばさなければならなくなる」
「私には勝手に増改築されるこの壁が不気味でたまりません。これは魔物の一種なのではないでしょうか」
その副隊長は決して壁に寄らない。いつも後ろを気にしているようにしている。不気味か。俺だってそう思う。町は住人の都合で大きくはならない。大きくするのは俺の意志だ。住人と言えども壁を壊すことは出来ない。時々勝手に壁を壊そうとする奴らがいるがいきなり体に針を突き刺されるようなこっちの身にもなって欲しい。一度目は小さな手を出して押して止めさせる。二度目はぶん殴る。三度目は弩で威嚇射撃をする。そこまでやってやっと引き下がる。いや、引き下がらないやつもいた。「人間様が壁なんかの言うことが聞けるか」と壁対人間の闘いになったことがあった。他所から流れてきた流れ者の一団で言葉より腕力が得意な連中だ。周辺に住んでいた住人を力づくで追い出すと昔から住んでいるような顔で威張りだした挙げ句、壁を壊して外側に広げようとした。壁から出た手を見て驚き引き下がったかと思えば人数を増やして壁への攻撃を続行。俺はこれを武力で排除。そしてどんどんエスカレートして流れ者を死傷させた。後味の悪い結末だった。今ならならず者たちの住む区画を外側に出してしまうように壁を変形させるだろう。自分も人間なんだという感覚が薄れてしまったら俺はここでもまたただの壁になってしまう。守るべきものとの境界がはっきりしていることだけが俺を人間でいさせてくれる。
言葉が通じないかと壁に文字を浮き出したこともあった。最初は手で壁に文字を書こうとしたが気持ちが悪いのでそれをやめて文字を浮き出そうと考え直したのだ。だが、これははっきり言って全く無意味だった。簡単な挨拶文でも誰も理解せず、逆にいたずら書きが増えるという結果を招き、しかもそれがとてもくすぐったいのだ。想像してみて欲しい。日常生活でいきなり体の予想外のポイントをくすぐられるのだ。これは投石攻撃を受けるよりも精神的に来るのだ。集中力が落ちるし、門がぴょこっと開きかける。
「この壁は我々の味方だよ」
ハリヤは俺を理解している。ハリヤは俺の味方だし俺はハリヤの味方だ。
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