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第四話
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鉄壁の町ジューン。
その言葉で呼ばれるようになったのは他国の軍隊の侵攻を5度も防ぎこの町を避けるようになった頃だ。そうそう俺の下の名前が偶然にもジュンで町の名前に似ててすごく不思議な縁を感じている。ただ名字が真壁なだけに本当の壁になってしまってあまり笑えないのだが。
この国の王は近隣諸国から嫌われているようで他国の侵攻を受けるのが非常に多いようだ。首都を失い遷都したのも3度目だと聞くし、一体どんな治め方をしたらそんなに憎まれるのだろうか。
警備の兵たちがその王がこの町を首都とする話をしていた。嫌われ者の王は戦いを連れてくるとも言っていて戦いが遠ざかったと思ったら王が激戦を連れてやってくるのだ。はっきり言って気が進まない。憎まれる王を守るために戦わされる者たちの身にもなれと思う。ただ、首都になれるのはすごく嬉しい。自分が認められた気がするし、居場所があるという実感が強くなる。少し拡張して自分のサインを正面の門に入れてやろうかな。どうせ誰も読めないんだし。……いや、それは恥ずかしいか。門の端っこの方に名前を書いておこうかな。あれだよ。よくテーマパークなんかにある「気がつく人は気がついて得したような気持ちになる」あれだ。そうしたら「あ、ここになにか書いてある」的な感じになって、いつの間にか文様として俺の名前が旗になったりする。おお、それはなんか良いかもしれない。やろう。こっそりと。あまり大きくなく、かつあまり小さくならず見た人間が「あれは文字じゃないか?」「誰があんな高いところに?」「壁からのメッセージじゃないか?」とか話題になるように。
南門の天井に真壁ジュンの名前を彫る。入ってくる人間が上を見て入ってくればわかるように。
とかやってみたものの、みんな大きくなった壁の中の土地の争奪戦に一生懸命で誰も俺の名前に気が付くやつはいなかった。寂しい上に恥ずかしい。昔からこういう事はよくあった。俺だけが知っててメチャクチャハマったマンガ。「知らねー」後ろの席で掲載誌を読んでるクラスメイトがページを飛ばしながら「こんなの誰が読むんだよ」とか嘲笑する。でも俺は好きなんだ。俺だけは好きなんだ。なんでわざわざ俺の世界をあざ笑うんだ。
「な? 真壁、お前もそう思うだろ?」
後ろの席の山城が同意を求めてくる。お前は俺がそのマンガを好きなことを知っている。でも、俺は顔を引きつかせながら「そうかなぁ」ということしか出来ない。それが精一杯の抵抗。すると山城は「つまんねえだろ!」と雑誌で俺の背中を殴る。いじめというものじゃない。一瞬だけの嫌がらせ。山城は俺には興味がない。たまたま足元に転がっていたボールをその時癪に障ったから壁に投げつける。そんな感じだ。
もうやめよう。あっちの世界のことを思い出しても楽しくない。こんな空いている時間はポイントで何が貰えるか調べておくのも悪くない。カタログの見方だが感覚的には口を半開きにして頭の片隅を覗き込むような意識の持って行き方をするとカタログが覗ける。首都クラスの壁になると威力が高いものや飛距離のあるもの、弾の種類も増える。面白いのはカカシ兵なんていうのだろう。壁の上で剣や槍を振り回したり、弓を撃ったり盾を構えたりするが移動が一切できない。出来れば黒板とか電光掲示板みたいに文字を映し出せるやつがあるといいのになぁ。
しばらくして王が首都になった鉄壁の町にやってきた。いや、いまや鉄壁の都か。ハリヤたちが道を開けるように並び頭を垂れる。一人だけ馬に乗って進んでくる者がある。王だ。青毛の馬の上で南門を見上げる。若い。無精髭を生やし、髪もボサボサだがどこかで見たような雰囲気がある。壁全体に嫌なモノを感じる。王が邪悪だからとかそういうものじゃない。俺はあいつを知っている。あれは……
「真壁ジュン?」
王の声は聞き覚えがあった。いつも席の後ろから聴こえてくるあの声。
「あそこに日本語を書いたのは誰だ? おい、俺の他にもこっちに来てるやつがいるのか?」
王が側近を蹴飛ばす。ハリヤが前に進み出て頭を垂れる。
「恐れながら申し上げます。この町には王の他に神人はおりません」
興味もない感じでハリヤの横を過ぎ門を見上げる。
「真壁か?」
王は突然笑い始める。やっぱり山城だ。
「こいつは良いや! 真壁のやつ壁になっちまいやがった! 動物や魔物になったやつはいたが、まさか壁とはな! ここはマジおもしれえぜ。おい、お前」
山城は伏しているハリヤに声をかける。
「王に嘘をついたお前は死刑だ。遷都祝いを兼ねてお前をこの世界の神に捧げる」
「お待ち下さい!」
「連れて行け」
ハリヤがあっという間に王の兵に取り押さえられ後ろへ引きずられていく。山城はまたこちらを向いた。
「またよろしくな。お前の後ろで勉強させてもらうわ」
俺はなぜ、この世界にやってきたのだろうか。
その言葉で呼ばれるようになったのは他国の軍隊の侵攻を5度も防ぎこの町を避けるようになった頃だ。そうそう俺の下の名前が偶然にもジュンで町の名前に似ててすごく不思議な縁を感じている。ただ名字が真壁なだけに本当の壁になってしまってあまり笑えないのだが。
この国の王は近隣諸国から嫌われているようで他国の侵攻を受けるのが非常に多いようだ。首都を失い遷都したのも3度目だと聞くし、一体どんな治め方をしたらそんなに憎まれるのだろうか。
警備の兵たちがその王がこの町を首都とする話をしていた。嫌われ者の王は戦いを連れてくるとも言っていて戦いが遠ざかったと思ったら王が激戦を連れてやってくるのだ。はっきり言って気が進まない。憎まれる王を守るために戦わされる者たちの身にもなれと思う。ただ、首都になれるのはすごく嬉しい。自分が認められた気がするし、居場所があるという実感が強くなる。少し拡張して自分のサインを正面の門に入れてやろうかな。どうせ誰も読めないんだし。……いや、それは恥ずかしいか。門の端っこの方に名前を書いておこうかな。あれだよ。よくテーマパークなんかにある「気がつく人は気がついて得したような気持ちになる」あれだ。そうしたら「あ、ここになにか書いてある」的な感じになって、いつの間にか文様として俺の名前が旗になったりする。おお、それはなんか良いかもしれない。やろう。こっそりと。あまり大きくなく、かつあまり小さくならず見た人間が「あれは文字じゃないか?」「誰があんな高いところに?」「壁からのメッセージじゃないか?」とか話題になるように。
南門の天井に真壁ジュンの名前を彫る。入ってくる人間が上を見て入ってくればわかるように。
とかやってみたものの、みんな大きくなった壁の中の土地の争奪戦に一生懸命で誰も俺の名前に気が付くやつはいなかった。寂しい上に恥ずかしい。昔からこういう事はよくあった。俺だけが知っててメチャクチャハマったマンガ。「知らねー」後ろの席で掲載誌を読んでるクラスメイトがページを飛ばしながら「こんなの誰が読むんだよ」とか嘲笑する。でも俺は好きなんだ。俺だけは好きなんだ。なんでわざわざ俺の世界をあざ笑うんだ。
「な? 真壁、お前もそう思うだろ?」
後ろの席の山城が同意を求めてくる。お前は俺がそのマンガを好きなことを知っている。でも、俺は顔を引きつかせながら「そうかなぁ」ということしか出来ない。それが精一杯の抵抗。すると山城は「つまんねえだろ!」と雑誌で俺の背中を殴る。いじめというものじゃない。一瞬だけの嫌がらせ。山城は俺には興味がない。たまたま足元に転がっていたボールをその時癪に障ったから壁に投げつける。そんな感じだ。
もうやめよう。あっちの世界のことを思い出しても楽しくない。こんな空いている時間はポイントで何が貰えるか調べておくのも悪くない。カタログの見方だが感覚的には口を半開きにして頭の片隅を覗き込むような意識の持って行き方をするとカタログが覗ける。首都クラスの壁になると威力が高いものや飛距離のあるもの、弾の種類も増える。面白いのはカカシ兵なんていうのだろう。壁の上で剣や槍を振り回したり、弓を撃ったり盾を構えたりするが移動が一切できない。出来れば黒板とか電光掲示板みたいに文字を映し出せるやつがあるといいのになぁ。
しばらくして王が首都になった鉄壁の町にやってきた。いや、いまや鉄壁の都か。ハリヤたちが道を開けるように並び頭を垂れる。一人だけ馬に乗って進んでくる者がある。王だ。青毛の馬の上で南門を見上げる。若い。無精髭を生やし、髪もボサボサだがどこかで見たような雰囲気がある。壁全体に嫌なモノを感じる。王が邪悪だからとかそういうものじゃない。俺はあいつを知っている。あれは……
「真壁ジュン?」
王の声は聞き覚えがあった。いつも席の後ろから聴こえてくるあの声。
「あそこに日本語を書いたのは誰だ? おい、俺の他にもこっちに来てるやつがいるのか?」
王が側近を蹴飛ばす。ハリヤが前に進み出て頭を垂れる。
「恐れながら申し上げます。この町には王の他に神人はおりません」
興味もない感じでハリヤの横を過ぎ門を見上げる。
「真壁か?」
王は突然笑い始める。やっぱり山城だ。
「こいつは良いや! 真壁のやつ壁になっちまいやがった! 動物や魔物になったやつはいたが、まさか壁とはな! ここはマジおもしれえぜ。おい、お前」
山城は伏しているハリヤに声をかける。
「王に嘘をついたお前は死刑だ。遷都祝いを兼ねてお前をこの世界の神に捧げる」
「お待ち下さい!」
「連れて行け」
ハリヤがあっという間に王の兵に取り押さえられ後ろへ引きずられていく。山城はまたこちらを向いた。
「またよろしくな。お前の後ろで勉強させてもらうわ」
俺はなぜ、この世界にやってきたのだろうか。
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