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本編
affettuoso 愛情をこめて
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悪魔たちはグランディーネの父、天使の長の家を目指しました。
天使と悪魔たちは仲が良かったので互いの家は知っていました。
ですので、そこへは悪魔たちは迷うことなく辿りつきました。
グランフォートは声を張り上げ、長を呼びます。
すると、ゆっくりとおそるおそるといった感じで扉が開かれ、一人の小柄な老人が出てきました。
老人はすぐに彼が抱くグランディーネに気づきました。
「グランディーネ様!ご主人様!!グランディーネ様です!!」
老人があげた声に次々と男が家から出てきます。
村の男たちが、いなくなったグランディーネを探すために集まっていたのです。
出てきた男たちは一瞬、喜びの表情を作りました。
しかし、すぐに違和感を感じとり、彼らは表情を凍り付かせました。
そして、ついにグランディーネの父、天使の長が現れました。ゆっくりと、足を引きずりながら。
「グランディーネ…?」
彼は、血だらけの娘に驚きました。
足を引きずりながらも、今度は前のめりになりながら迫ってきます。
「どうしたんだ!グランディーネ!!」
彼女に触れた父はすぐに悟りました。
「…人間か…?」
「いいえ」
長の問にグランフォートは表情一つ変えずにこたえました。
「俺が殺した」
冷酷に。
「…殺…した…?」
その瞬間、天使と悪魔との間にもはやどうにもならない亀裂が入りました。
「まだ幼い子供だぞ」
天使たちは沸き上りました。
グランフォートはグランディーネの理想を叶えるために、天使たちを煽りました。
「俺らは天使が憎いんだ。一泡吹かせてやろうかと考えていた時にいいモン見つけてなぁ」
他の悪魔たちはグランフォートのために相槌を打ちました。
「縛り上げて牢屋に入れた後、天使たちをぶっ殺してくるって言ったら“やめてくださいっ!!”って必死になってなぁ」
グランフォートはとても楽しそうに笑いました。
あの日を知る悪魔たちが相の手を入れます。
「そうそう、なんだったっけ?」
再びグランフォートが口を開きました。
「“俺らにおとなしく血を分け与えたら誰も殺さないでやる”って」
「あー、本気で信じておとなしくしてたよな」
悪魔たちはくすくすと笑いだしました。
「子供も産ませようかと思ったが、体がちいさくてなぁ、全然入らねぇしダメだった。もう役にたたねぇから、俺が殺したんだ」
天使たちは怒りのあまり震えていました。
「死体はやるよ、御愁傷様」
グランフォートはグランディーネの小さな体を長の足元へ投げ捨てました。
そして
低く、太く、大きな声で
「次はお前らだァ!」
と叫びました。
悪魔たちは村の男たちに飛びかかりました。
グランフォートは長へ…
***
戦いは何日も続きました。悪魔は天使だけではなく、人間も襲いました。
人間は天使にすがりつき、天使は人間を見放し、セカイの収集がつかなくなりました。
それを見て、やっと神が姿を現しました。
“おやめなさい。私が悪かった。人間が片方に寄り添うとは考えもしなかった”
人は神の言葉に耳を傾け、争いを止めました。
“セカイの秩序はもはや変えられない。それゆえ、それぞれの関係を絶とうと考えている”
その言葉を合図に、
ゴゴゴゴォっと凄まじい地響きがし、地面に亀裂が入り始めました。
“セカイを切り分け、縦に並べる。大きな争いが起きて、憎い人が沢山いるとは思う。だが、許してやってほしい。私の人間への配慮が足りなかったのだ。済まない。私が悪いのだ”
神の声は空を響いていきます。
大地が分かれ始めました。大地の東側が上へと登っていき、西側は下へと下がっていきます。
“3つのセカイは人間には通れない階段で繋いでおく。交流するのは構わない。個人の小さな争いは仕方ない。だが、国をあげて争ったり、今の敵と争うことはやめてくれ。何度も言うが私が悪かったのだ”
やがて、大地の揺れが収まりました。
セカイが完全に切り離されたのです。
“これからのお前たちに期待している”
神はそう言い残し、天の彼方へと帰っていきました。
悪魔も天使も自分たちのいるべきセカイへと帰っていきます。
争いの終わりを喜ぶかのように、空はみるみる晴れていきます。
縦に並んだセカイでも、大地の下の大地でも、暖かな柔らかい光が降り注いでいました。
今度はそれぞれが切り分けられた、それぞれの等しいセカイでやり直す…
そんなときグランフォートはグランディーネを想っていました。
(セカイが切り分けられたこと、争いが終結したことにあなたはきっと満足しているのだろう)
グランフォートはそれとともに、自分の罪も思い出していました。
(でも俺が殺したから、あなたはこのセカイを見ることができない…)
他に、もっといい方法はなかったのか…。
やるせない気持ちがぐるぐると彼の中に渦巻いていました。
それは、あの日を知る悪魔たちも同じでした。
***
数年がたち、復興、発展した悪魔たちの首都には複数の少女の像があります。
グランディーネです。
その町にはグランフォートという名が付いています。
あの日、苦しい選択を成し遂げ、少女の願いを叶えたグランフォートと命を捨て悪魔を救ったグランディーネが讃えられているのです。
天使の首都にはグランディーネという名が付いています。最初は、悪魔に無残に殺されたグランディーネの追悼のために。その後にあの日のことが伝わり、天使と悪魔を救ったグランディーネの勇気ある行動が讃えられ、その名が付きました。
それを境に天使と悪魔の仲は回復し、特にグランディーネとグランフォートでは今でも国交が盛んに行われています。
彼女はきっと、その平和なセカイに満足しているでしょう。
----END----
天使と悪魔たちは仲が良かったので互いの家は知っていました。
ですので、そこへは悪魔たちは迷うことなく辿りつきました。
グランフォートは声を張り上げ、長を呼びます。
すると、ゆっくりとおそるおそるといった感じで扉が開かれ、一人の小柄な老人が出てきました。
老人はすぐに彼が抱くグランディーネに気づきました。
「グランディーネ様!ご主人様!!グランディーネ様です!!」
老人があげた声に次々と男が家から出てきます。
村の男たちが、いなくなったグランディーネを探すために集まっていたのです。
出てきた男たちは一瞬、喜びの表情を作りました。
しかし、すぐに違和感を感じとり、彼らは表情を凍り付かせました。
そして、ついにグランディーネの父、天使の長が現れました。ゆっくりと、足を引きずりながら。
「グランディーネ…?」
彼は、血だらけの娘に驚きました。
足を引きずりながらも、今度は前のめりになりながら迫ってきます。
「どうしたんだ!グランディーネ!!」
彼女に触れた父はすぐに悟りました。
「…人間か…?」
「いいえ」
長の問にグランフォートは表情一つ変えずにこたえました。
「俺が殺した」
冷酷に。
「…殺…した…?」
その瞬間、天使と悪魔との間にもはやどうにもならない亀裂が入りました。
「まだ幼い子供だぞ」
天使たちは沸き上りました。
グランフォートはグランディーネの理想を叶えるために、天使たちを煽りました。
「俺らは天使が憎いんだ。一泡吹かせてやろうかと考えていた時にいいモン見つけてなぁ」
他の悪魔たちはグランフォートのために相槌を打ちました。
「縛り上げて牢屋に入れた後、天使たちをぶっ殺してくるって言ったら“やめてくださいっ!!”って必死になってなぁ」
グランフォートはとても楽しそうに笑いました。
あの日を知る悪魔たちが相の手を入れます。
「そうそう、なんだったっけ?」
再びグランフォートが口を開きました。
「“俺らにおとなしく血を分け与えたら誰も殺さないでやる”って」
「あー、本気で信じておとなしくしてたよな」
悪魔たちはくすくすと笑いだしました。
「子供も産ませようかと思ったが、体がちいさくてなぁ、全然入らねぇしダメだった。もう役にたたねぇから、俺が殺したんだ」
天使たちは怒りのあまり震えていました。
「死体はやるよ、御愁傷様」
グランフォートはグランディーネの小さな体を長の足元へ投げ捨てました。
そして
低く、太く、大きな声で
「次はお前らだァ!」
と叫びました。
悪魔たちは村の男たちに飛びかかりました。
グランフォートは長へ…
***
戦いは何日も続きました。悪魔は天使だけではなく、人間も襲いました。
人間は天使にすがりつき、天使は人間を見放し、セカイの収集がつかなくなりました。
それを見て、やっと神が姿を現しました。
“おやめなさい。私が悪かった。人間が片方に寄り添うとは考えもしなかった”
人は神の言葉に耳を傾け、争いを止めました。
“セカイの秩序はもはや変えられない。それゆえ、それぞれの関係を絶とうと考えている”
その言葉を合図に、
ゴゴゴゴォっと凄まじい地響きがし、地面に亀裂が入り始めました。
“セカイを切り分け、縦に並べる。大きな争いが起きて、憎い人が沢山いるとは思う。だが、許してやってほしい。私の人間への配慮が足りなかったのだ。済まない。私が悪いのだ”
神の声は空を響いていきます。
大地が分かれ始めました。大地の東側が上へと登っていき、西側は下へと下がっていきます。
“3つのセカイは人間には通れない階段で繋いでおく。交流するのは構わない。個人の小さな争いは仕方ない。だが、国をあげて争ったり、今の敵と争うことはやめてくれ。何度も言うが私が悪かったのだ”
やがて、大地の揺れが収まりました。
セカイが完全に切り離されたのです。
“これからのお前たちに期待している”
神はそう言い残し、天の彼方へと帰っていきました。
悪魔も天使も自分たちのいるべきセカイへと帰っていきます。
争いの終わりを喜ぶかのように、空はみるみる晴れていきます。
縦に並んだセカイでも、大地の下の大地でも、暖かな柔らかい光が降り注いでいました。
今度はそれぞれが切り分けられた、それぞれの等しいセカイでやり直す…
そんなときグランフォートはグランディーネを想っていました。
(セカイが切り分けられたこと、争いが終結したことにあなたはきっと満足しているのだろう)
グランフォートはそれとともに、自分の罪も思い出していました。
(でも俺が殺したから、あなたはこのセカイを見ることができない…)
他に、もっといい方法はなかったのか…。
やるせない気持ちがぐるぐると彼の中に渦巻いていました。
それは、あの日を知る悪魔たちも同じでした。
***
数年がたち、復興、発展した悪魔たちの首都には複数の少女の像があります。
グランディーネです。
その町にはグランフォートという名が付いています。
あの日、苦しい選択を成し遂げ、少女の願いを叶えたグランフォートと命を捨て悪魔を救ったグランディーネが讃えられているのです。
天使の首都にはグランディーネという名が付いています。最初は、悪魔に無残に殺されたグランディーネの追悼のために。その後にあの日のことが伝わり、天使と悪魔を救ったグランディーネの勇気ある行動が讃えられ、その名が付きました。
それを境に天使と悪魔の仲は回復し、特にグランディーネとグランフォートでは今でも国交が盛んに行われています。
彼女はきっと、その平和なセカイに満足しているでしょう。
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