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異世界王に俺はならない!
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しおりを挟む「お、おい! やめろ! 離せ!」
「入るだけ、ホントに入るだけだから!」
俺は絶体絶命の危機に瀕している。
ハイネスがパンパンと手を叩くと、ボロアパートの壁に突然なんだかよくわからない魔法陣が現れ、驚く俺の背中を押して無理矢理ねじ込もうとされている。
「『断る』って言っただろ! 俺は日本での生活に満足してるんだよ!」
「とりあえず、ほら、先っちょだけだから!」
「人間が言語というコミュニケーションツールを手に入れて以降、その言葉が嘘じゃなかったことなんて無いんだよ!」
「あーもう、面倒ね」
「ジイー? 下にお願い!」
「下? お前なにを——」
瞬間、俺の足、いや身体全体が重力を失う。
「——え?」
重力を失ったのように錯覚した。失ったのは重力ではなく地面だった——じゃねぇよ!やべえよどう住んだこれ!底見えないんですけど!
「無事だったら向こうで会いましょうねー」
「アァアアアアアアアア!イヤァァァァァ!!」
俺の断末魔が反響しない闇の中へと伸びていくを感じながら、意識を失った。
⋯⋯ ⋯⋯ ⋯⋯
——目覚メヨ——
耳からではなく、脳に直接響くような感覚。
——試サレシ者ヨ、目覚メヨ——
呼ばれてる。たぶん俺、呼ばれるよ。やだ。目覚めたくない。嫌な予感しかしない。
——覚醒ノ時ハキタ——
知らない知らない知らない。覚醒とか意味わからんし。このまま死んだふりでもして、元の世界に返してくれねぇかな。
——元ノ世界二還ル為ニハ此世界デ条件ヲ満タサネバナラヌ——
あれ?俺の心の声聞こえてんの?え?怖い。ちょー怖い。カタカナわかり辛い。ちょー怖い。
——目覚めよ——
あ、カタカナじゃなくなった。素直か!
いいよ、わかったよ、目覚めたらいいんだろ。
俺は仕方なく、ゆっくりと瞼を開いた。
——よくぞ来た、試されし者よ——
視界に飛び込んで来たのは、太陽の様に燃える巨大なゴーレム ⋯⋯ の顔。恐らく体もあるのだろうが、こちらへ突き出された顔があまりに大きすぎて他に何も見えない。
ゴーレムの炎に照らされるその空間は、横を見ても、後ろを見ても何もない。壁すらもあるのかさえ分からないほど、どこまでも闇が続いていた。
ゴーレムの炎は不思議と熱さは感じない。むしろ心地のいい温もりを感じた。
「何だ試されし者って、俺はイカレたクソアマに無理矢理、穴に突き落とされて、落ちてる最中に気絶しちまったから全く何が何だか解らないんだよ」
—— ここは転移の間——
——世界間を移動せし者が、必ず通る路——
やはりそういうことだ。あのクソアマに強制的に異世界へ飛ばされたのだ。
——うむ、これは ⋯⋯ ——
「あ? なんだよ、というかお前はなんなんだ」
——我はこの世の空間を司りし神である——
「神ですか、神と来ましたか。まぁもう驚かないよ、神でも悪魔でも ⋯⋯ 」
——訂正しよう、試されし者、いや還し者よ——
「還し? いやいや、還たい者だろ、まだ還ってねぇよ」
——本来、ここで試されし者の能力を測るのだが、還し者にその必要はない——
この顔面は何を言っているんだ?
——還し者よ、この世界で何を成し、何を遺すのか、我らはその行く末を見届けよう——
「もしもーし、話聴いてるか? 還し者置いてけぼりなんですけど」
——さぁ、征け。還し者がどのような物語を紡ぐのか、期待している——
「いや、あの、待って? 本当に待って? わかんない、期待されてもわからんない」
ゴーレムの何も映さなかった黒い目が、突然光り出した。
「あ、なるほどね。質疑応答はなしと ⋯⋯ うん、慣れた。このまま為すがまま、送り出されるシステムね、はいはい、慣れた慣れ——」
徐々に強くなる光は、俺の視界を完全に奪い去ると同時に、意識も持ち去られてしまった。
薄れ行く意識の中で、今日二度目の暗転に、次は何が起こるのか? という不安と、次会ったらクソアマを確実に殺すという、揺るぎない誓いを胸に、ゆっくりと目を閉じた。
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