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カフェラテの人
カフェラテの人③
しおりを挟む亮介は姿勢を正してじっと聞き入っている。
「それで、私をお風呂に沈めて、自分も死のうとしたらしいの。ふふっ、怖いでしょ? 大丈夫、ここ笑うとこだから」
亮介の顔が引きつる。そりゃそうだよな無理心中の話聞かされたら。
「でもね、私がお風呂でキャッキャ笑顔で遊んで、おばあちゃんに水かけたり、バケツでジャージャー水を流したりして、楽しそうにしてるの見たら、とてもできなかったんだって。その時にこの子を一人前に育てようって思ってくれたみたいなの」
「よかったですね、思いとどまってくれて」
「ほんとだよね。おばあちゃんには感謝してる。でもあんまりおばあちゃん孝行はできなかったから、後悔してて。もっと何かできることあったんじゃないかなって、いまも思ってる。
私ね、静岡出身なんだけど、おばあちゃんの反対押し切って東京で就職したの。行く前はあんなに反対してたのに、いざ離れると、毎週のように、食べ物送ってくれた。それも私が好きなものばっかり」
「未央さんのこと、心配だったんですね」
「年に2回くらいしか帰らなかったから、いつ帰る? っていつも聞かれてた。それに、帰るとお見合いばっか勧めてくるからそれもいやで」
「毎回だと、いやになりますね」
「でしょ? だからあんまり帰ってなかったんだけど、あるとき警察から電話かかってきてね。おばあちゃんが亡くなったって言われたの」
「……」
「おばあちゃん、アパートで倒れてて、近所の人が見つけたときはもうダメだったんだって。体、悪かったみたい。私そんなこと全然知らなかったんだ。亡くなる少し前にも電話したけど、いつもの勝気なおばあちゃんだったから。
彼氏できたかとか、たまには帰ってこいとか、お見合いしろとか。いつもと同じこと話してた。だから死ぬなんて夢にも思ってなくて。
死んじゃったのを受け入れられないまま、1人でお葬式して、1人で送った。残ったのはサクラだけ。
このちゃぶ台はおばあちゃんが使ってたものなんだ。だから一人で食べてても、おばあちゃんがいるような気がして安心するの」
未央はそっとちゃぶ台をなでた。亮介は悲しそうな顔で未央をみつめる。
「ごめんね、シンミリさせちゃって。でも私は大丈夫!」
「悲しかったですね」
「うん、でもメソメソしててもおばあちゃん悲しむからね。いつまでも泣くなってまた怒られるから。もう泣かないって……決めたんだけど……」「未央さん」
久しぶりに思い出して、未央はボロボロ泣き出した。人前で泣くなんて初めて。
「あれ? 変だな。目に汗かいたみたい。ちょっとタオル持ってくるね」
ごまかして立ち上がろうとすると、亮介にグッと手をつかまれた。
「そのまま、泣いて? 大丈夫ですから」
目の汗は、もうぼたぼたととめどなく流れ出て止められなかった。抱きしめられて、亮介の肩がびしゃびしゃになるくらい泣きまくり、そのあいだずっと優しく抱きしめられていた。
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